第710話 早く来い
ファティマと舌戦を繰り広げたあと、ノアキアは席を立ってどこかへ向かった。
まあ、行先自体はどうでもいいが……なんとなく立ち去るときのノアキアの表情が満足気だったように感じた。
そして、こちらも……
「ノアキア・イアストア……ふふっ、いいときに学園に入学してきてくれたものだわ……」
既にパルフェナから勝利を得ているという実績もあるが……仮にそれがなかったとしても、ノアキアから強者の雰囲気を感じることができる。
そのため、ファティマとしても拳を交える前から、ノアキアとの対戦によって得られるであろう経験に期待が膨らんでいるようだ。
また、去り際の表情から、ノアキア側も同じような感覚なんだろうなって気がする。
うむうむ、ファティマたちもいい感じでライバル関係を構築していっているようで、喜ばしい限りだよ。
「ファティマちゃん、私にいわれるまでもなく分かりきっているとは思うけど……ノアキアさんは本当に強いからね、油断しちゃダメだよ?」
「ええ、もちろん……この機会を最大限に活かして、私の成長の糧とさせてもらうわ」
そういいながら、ファティマはとてもいい笑顔を浮かべた。
さすが、武闘派なだけあるという感じだね。
ついでにいうと、そんなファティマの笑顔にこの上なく見惚れている男がいた……それは当然、ロイターである。
なんというか、ロイターがそんな感じでチョイチョイときめいた姿を見せるから、ファティマが女子たちの嫉妬を集めてしまうんだろうなぁ……
そしてやはりというべきか、ファティマアンチの女子たちから嫉妬の視線が向けられてきている。
とはいえ気の強いファティマは、全くもってそれらの視線を意に介していない。
そんなことより、頭も心もノアキアとの対戦のことでいっぱいって感じだ。
まあ、そういった「お前らのことなど、眼中にないぞ」って態度が、余計に女子たちの反感を加速させてしまうのかもしれないね。
それはそれとして俺たちは、改めて祝いの言葉をかけつつファティマを迎えたのだった。
そうして小休憩の時間を過ごし、それもそろそろ終わりといったところで呼び出し係の人がやってきた。
「……アレス・ソエラルタウトさん、決勝戦の準備をお願いします……ただ、まだシュウ・ウークーレンさんは目覚めていないようなので、不戦勝になるかもしれませんが……」
「うむ……承知した」
まあ、呼び出し係の人はそういっているが、シュウが決勝の舞台に上がってくることを確信しているので、なんの心配もしていない。
というか、仮に不戦勝になるとしても舞台の上で勝者宣言を受けなければならないからね、どっちみち準備は必要なのさ。
「さて、行ってくるとするかね」
「アレス……シュウは相手に合わせて限界をいくらでも超えてくる男だ、心して闘ってくるがいい」
「そうですね、特に相手がアレスさんともなれば……嬉々として限界を超えてくるに違いありません」
「相手が強ければ強いほど力を発揮するってわけだな! くぅ~っ、そんな男に俺もなりてぇもんだぜ!!」
「ええ、ええ! なりたいものですねぇ!!」
「僕の阻害魔法、そして何もかもがシュウさんに攻略されてしまいました……僕と違ってアレスさんなら大丈夫だとは思いますが、シュウさんの対応力の高さにペースを崩されないよう気を付けてください!」
「……シュウにも、最高の経験をさせてやってくれ」
「きっとシュウのことだからさ、夢の中でアレス対策もバッチリだろうね!」
「アレス君! 決勝という舞台、心ゆくまで楽しんできてね!!」
「シュウとの試合を経て、さらに大きく成長することを期待しているわ」
「ああ、みんなの期待に応えられるよう、全力で闘ってくるぞ! ではな!!」
うちの模擬戦メンバーみんなも、シュウが舞台に上がってくることを当然のこととして考えながら、俺に激励の言葉を送ってきた。
こうして舞台に移動を始める際……
「アレスさん! ここまできたら、優勝してくれよな!!」
ラクルスが声をかけてきた。
「勝て……アレス・ソエラルタウト……」
そして、テクンドからも。
対戦した友たちからの熱い応援の言葉……実に嬉しいもんだね。
というわけで、気合のこもった笑顔を浮かべつつ返事をして、舞台へ向かう。
また、リッド君たち会場中にいる知り合いみんなも声援を送ってくれるので、それぞれに手を振って応える。
そんでもって武器選択をするわけだが、当然ながら今回も木刀を選ぶ。
しかしながら、いつもなら対戦相手も同時に選んでいるところなのだが……今はシュウがいないので、俺1人だけ。
う~ん、なんとなく寂しいもんだね……
そんなこんなで装備チェックを受け、舞台中央へ。
『さて、アレス選手が舞台中央に立ったわけですが……そのお相手となるシュウ選手が、未だ到着しておりません。このままではアレス選手の不戦勝が決まってしまいますが、果たして……』
「いくらシュウが凄いったって……やっぱ無理ってもんだろ……」
「ああ、肉体のダメージそのものは回復できたとしても、あの試合で魔臓や魔力経が受けた負荷は半端じゃなかっただろうからな……」
「その辺の器官は繊細で、ポーションや回復魔法も微妙に効きづらいみたいだからなぁ……」
「これはまあ、魔力操作狂いの不戦勝でも仕方ないよね?」
「ああ、残念ではあるが……」
とまあ、そんな感じで会場全体に「しょうがないよね」ってムードが漂いつつある。
シュウよ、早く来い……でなければ、本当に決まってしまうぞ?
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