第711話 武闘家としての本能

 舞台に上がり、数分経過したが……未だシュウは姿を見せない。


「やっぱりさ……これ以上待っても、意味ないんじゃないかな?」

「ああ、ロイターさんとあんだけの激闘を交わしたんだ……起き上がってこれるわけがねぇよ……」

「まあ、普通なら安静にしとくところだもんなぁ……」

「う~む、もしかしたらという気持ちもなくはなかったが……さすがに無理ということか……」

「あの魔力操作狂いと、どんな闘いを繰り広げてくれるのか……正直、期待してたんだけどな……」

「チッ! 毎朝ファティマちゃんとの仲を見せつけてくる魔力操作狂いの野郎をシュウがぶっ倒してくれること……心の底から期待してたっていうのによ!!」

「確かに! あのイチャイチャっぷりはトサカにくるよなっ!!」

「そんなん、本当は見なきゃいいんだろうけどさ……でもやっぱりィッ! 気になって毎朝見に行っちゃうんだよねェッ!!」

「まあ、ファティマさんのことを温かく見守るだけの度量が、俺たちにはないもんな……」

「その辺のところはさ、ファティマちゃんの幸せだけを祈ってる人たちと相容れない感覚だよね?」

「だなぁ……」


 いやいや、ファティマと仲がいいのは認めるところだけどさ……あくまでそれは友達としてだからね?

 君たち、変な勘繰りはよしてくれたまえ。

 なんてことを少しばかり考えていたとき……会場の雰囲気が変わった。

 それもそのはず……今日はもう無理かと思われていた男が、舞台の入口に姿を現したからである。


「フッ……やっと来たか……」


 思わず、そんな呟きが出てしまった。


『なんと! シュウ選手が……シュウ選手がこの場に姿を現しました!! 一時は決勝戦出場も不安視されていましたが……それは全くの杞憂だったようです!!』

『武闘家としての本能が、シュウさんを闘いの場へといざなったのでしょうね……』

「おいおい、マジかよ……」

「そんな、信じられん……」

「さすがに、無理だと思っていたのに……」

「シュウの野郎……ムチャしやがって……」

「さすが、武の名門ウークーレン家の男は一味違うようだ……」

「ぶっちゃけ俺なら、そのまま寝てたかもしんねぇ……」

「うん、僕もだよ……」


 シュウの登場に、会場中でどよめきが起こっている。


「ふん! シュウなんだから、あったり前だろ!!」

「シュウが目を覚まさないなんてこと……あるわけがねぇ!!」

「シュウ君のこと、見くびらないでもらいたいものね」

「ハハッ! ウチらがシュウの回復をバッチリ祈っといたからな、これで万全だぜ!!」

「シュウの勝利は確実」

「そう! ホントそう!!」

「さて、それではシュウ様の応援に集中すると致しましょうか」

「「「賛成っ!!」」」


 医務室にシュウを見舞いに行っていたらしい武闘派令嬢たちも、自分たちの席に戻ってきたようだね。

 そうして、シュウが舞台に上がってきた。


「すいません、寝坊してしまいまして……」

「寝坊……か、ククッ……それだけのんきな言葉を吐けるぐらいなのだから、しっかりと休めたのだろうな?」

「ええ、体調は万全ですよ……それどころか、今日一番のコンディションといっても過言ではありません」

「ほう! それはよかった!!」

「おしゃべりに夢中なところ悪いが……シュウ・ウークーレン、まずは装備を整えるんだ」

「おっと、そうでした……それでは失礼して……」


 審判の先生に促されて、シュウは装備を整えに行った。

 そこでシュウが選択したのは、お馴染みのオープンフィンガーグローブである。

 そうして装備チェックを受け、再び舞台中央に戻ってきた。


「お待たせしました」

「うむ」

『さて、ようやく決勝の舞台に2人がそろいました……ここで、王女殿下から胸ポケットに最上級ポーションが挿入されます!』

「決勝まで残れば、4回も王女殿下にポーションを挿してもらえるのか……いいなぁっ!!」

「この上なく羨ましいことだ……」

「でもさ……当の本人たちはお互いのことで頭がいっぱいみたいだね?」

「ああ、もしかすると2人とも……王女殿下のことが目に入っていない可能性すらあるぞ……」

「男同士で見つめ合いやがって……まったく! キモチワリィ奴らだよ!!」

「まあ、お前の気持ちも分からんではないが……それでも、あんなふうに互いの実力を認め合う関係というのは憧れてしまうな……」

「ケッ……そうかよ!」

「まあまあ、とりあえず彼らがいい試合をしてくれることに期待しようじゃないか」


 とまあ、そんなこんなで王女殿下がポーション瓶を挿し終え、舞台を降りて行った。

 それによって、あとは審判の先生の開始の合図を待つだけとなった。


「……2人とも、準備はいいか?」

「はい、準備万端です」

「同じく、いつでも行けます」


 こうして審判の先生から最終確認を受け、2人ともオーケーと返す。


「そうか……よし、それでは両者構えて!」


 そういって審判の先生が右手を天に掲げ、振り下ろすと同時に……


「始め!!」


 審判の先生の掛け声とともに、俺たちの試合が開始されることとなった。

 さぁっ、シュウよ! 最高の決勝戦にしようぜ!!

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