第329話 挫折感を刺激してしまった

「どこから話そうかしら……そうね、まずはソレスのことからにしましょうか……ソレスはね、もともと才能もあったんだけど、とにかく頑張り屋さんでね……その努力の甲斐もあってか学園でも成績優秀で、魔法を除いて全てトップを取っていたわ」

「魔法を除いて?」

「そう……あとで話すけど、魔法のトップは常にリリアン様……あなたを生んだお母様よ」

「なるほど……」


 やべぇ、この時点で先の想像ができちまいそうだ……


「それでソレスは寡黙っていうか、あんまり人付き合いが得意じゃなかったこともあって冷たい印象を持たれがちだったんだけど……当時の令嬢たちには『それがむしろ、クールでカッコいい』って思われたりもしていて……まあ、ソレスは氷系統の魔法が得意だったからっていうのもあったかな? それで『氷の貴公子』なんて呼ばれたりもしていたわね」


 おいおい、「氷の貴公子」ってマジかよ……

 俺が氷系統の魔法を使うのが得意なのって、前世で経験した北海道の冬のイメージのおかげだと思ってたんだけど、もしかして遺伝的なものもあるのか?

 ……ん? そういえば、原作アレス君って基本的に炎系統の魔法ばっか使ってたけど、それってクソ親父に対する反発もあったのかな?

 そして、そもそも炎系統は体質的にアレス君には合ってなかったから暴発しがちだったとか?

 あと、俺があんまり炎系統の魔法を使う気にならなかったのって森林火災とか以前に、向いてないのを深層心理的に理解していたからだったりして……

 とはいえ、魔力操作を丁寧にやり込んでいれば、向き不向きなんか関係なくなるだろうけどね!


「そんなふうにしてソレスに好意を持っていた令嬢の中に、リリアン様もいたの」

「……そうですか」


 まあ、流れ的にはそうなるんだろうなぁ……


「そのリリアン様のことだけどね……あなたと同じように保有魔力量が圧倒的で凄まじかったわ……いえ、あなたがリリアン様の才を受け継いだというべきね。それでリリアン様は魔法の技術そのものも他の追随を許さないほどだった……ほとんど練習らしい練習をしていなかったのにも関わらずね……まさに天才と呼ぶにふさわしい方だったわ」

「そ、それは凄いですね……」

「ええ、まったくよ……そんな魔法の天才はさらに、公爵令嬢であり絶世の美女でもあった……あの当時最高の女性だったといえるわね」

「それは我が母ながら、恐ろしいものがありますね……」


 ちょっと待って……俺の母上のスペックが盛られ過ぎなんですけどぉ!


「ただね……だからこそリリアン様は実の兄君に『次期公爵の地位を脅かすのでは』と警戒されるようになってしまったの……リリアン様本人にその気はなかったのにね……」

「母上にその気がなくても、相手からは敵対者とみなされたわけですか……」

「そうね……それでリリアン様の実家であるルクルスント公爵家が割れ、それどころか兄君がリリアン様を危険視するあまり命を狙うことを父君である先代公爵が危惧してね……」

「まあ、後継者争いが熾烈を極めると、どうしてもそういう可能性が出てきてしまうでしょうからね……」

「それで、多少強引でも先代公爵がソレスの父君に取引を持ち掛け……リリアン様が好意を寄せるソレスに嫁がせることで後継者問題の幕引きを図ったの……ただし、ソレスに相談はなくね……しかもそのとき既に、ソレスは私との結婚も約束していたのだけど、それも先送りとなってしまって……」

「なんと、それは……」


 この王国の貴族って基本は恋愛結婚をするみたいだからね……

 そりゃ、クソ親父が怒るのも無理はないかもな……


「でも、単にリリアン様と結婚するだけならソレスもそこまで態度を硬化させなかったかもしれない……問題は先代同士の取引にあったの」

「……その取引とは?」

「当時のソエラルタウト家の爵位は伯爵だったのだけど、強引に割り込む形になるので迷惑料代わりとしてルクルスント家がソエラルタウト家の後押しをして、侯爵へ陞爵することになったの……ついでにいうと、私の実家であるライントメイント家も同時に伯爵へ陞爵することになったわ」

「えっと……家としては陞爵という利益になったわけですから、それの何がいけなかったのですか?」

「……ソレスはね、自分の力でソエラルタウト家を侯爵にするのが目標であり、夢だったのよ……それがリリアン様との結婚によって、自分の望まない形で達成されてしまった……」

「……聞いた話では、自力でなれるのは伯爵までという話ではありませんでしたか? そうであるなら、それはそもそも不可能な夢だったのでは?」

「そうね……不可能ともいえる難しい夢だったからこそ、ソレスは燃えていたのよ」

「なるほど、そういうことでしたか……」


 まあね、無謀な夢に挑戦したいって気持ちは分からんでもない……

 でも、それなら……


「そこまで自信があるのなら、自力で公爵となることに挑戦すればよかったのでは? もっといえば、誰も足を踏み入れたことのない未開の地を切り拓いて、ソエラルタウト王国を建国したってよかったはずです」

「ふふっ、やっぱりあなたはリリアン様の子ね……きっとリリアン様も同じことをいったでしょうね……」

「そ、そうですか……」

「そして、その公爵を目指すのも、ルクルスント公爵家の血を引くあなたが次期侯爵なら、夢ではなく現実的な話となったでしょうね……それに、今はもう気が変わったみたいだけど、あなたが王女殿下を妻としたなら、より確実だったわね」

「えぇ……」


 そっか……それだとクソ親父からしたら、なおさら俺に後を継がせたくないって思っただろうし、王女殿下に執着していた原作アレス君には、物凄くイラついてたかもしれんね。


「そしてあなたは、生まれてから日を追うごとに……年を重ねるごとにどんどんリリアン様に似ていったから……よりソレスの挫折感を刺激してしまったのでしょうね……ここまでに話してきたことが、ソレスの態度の理由だと私は思っているわ」

「……なるほど、よく分かりました」


 そして、クソ親父的にはもしかすると、原作アレス君が暴食により太っていくのは、母上の容姿からかけ離れていくことでもあるわけだから、大歓迎なことだったのかもしれんね。

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