第330話 憧れているからでしょうね

 義母上の話を聞いて、クソ親父が原作アレス君に対してこれ以上ないぐらい冷たかった理由が分かった。

 とはいえ、あくまでもそれは義母上の見解というべきなのだろうが、そこまで大きく外れてはいないだろう。

 そして話を聞いた感じ、おそらくクソ親父はいわゆるガリ勉タイプだったって気がする。

 そうしてガリ勉君が必死の努力を積み重ねて挑んだ相手は、特にこれといった努力もなしにコテンパンにしてくる……

 う~ん、それは地味にキツイよな……

 そんな勝ちたいと願い続けて……でも勝てない相手を妻として迎えねばならなくなったときのクソ親父の心境たるや……なかなかにヘヴィかもしれん。

 それに、どれだけほかの科目で勝利を重ねたとしても、この王国……もしくは世界的に保有魔力量や魔法の才のほうがより評価されるみたいだから、敗北感のほうが強かっただろうし……

 そんでもって、自力による侯爵への陞爵という無謀なチャレンジも……たぶんチャレンジする前に終了してしまっただろうからね……

 こうして改めて考えてみると、母上やアレスという存在はクソ親父にとって絶望の象徴だったのだろう。

 とまあ、それぐらいの理解はするが……だからといって原作アレス君に対する仕打ちまで肯定する気はないからな!

 つーか、下手したらソエラルタウト家に紛れ込んでいたマヌケ族にも気付いていて、それらが原作アレス君を破滅の道に誘導するのも黙認していたんじゃないかとすら思えてくるぐらいだし!!


「……ソレスにも思うところがあったとはいえ、それをアレスにまでぶつけてしまったのは間違っていたわね……そしてそれを止められなかった私も悪かったわ……改めてごめんなさいね」


 おっと、クソ親父に関する考察に意識が向き過ぎていたようだ……


「いえ、ク……親父殿の振る舞いに納得する気はありませんが……もし仮に、義母上が彼をたしなめたりしていれば、彼の心はもっと追い詰められていたかもしれません……そう考えれば、これでよかったのだと思います」

「……アレスは大人ね」


 まあ、学園入学日にこっちにきた俺としては、直接クソ親父による被害を受けていたわけではないからっていうのもあるかもしれない。

 ただ、それはそれというもので……


「いえいえ、それほどではありませんよ……それに、私が真に大人であれば、彼のことも受け入れて許すこともできるのでしょうが……そんなことはできそうにありませんのでね……」

「……そう」

「……それよりも、義母上だってク……親父殿と既に結婚の約束をしていたのに、母上に割り込まれるという迷惑を被ったわけでしょう? それにもかかわらず、義母上の話しぶりからは母上への否定的な感情は読み取れませんし、私にも好意的に接してくれます……それはなぜですか? おそらく同じ立場になった場合、その多くは私たち母子のことを快く思わないでしょうに……」


 いや、それぐらいの演技はできるって思うかもしれない。

 でも、義母上の態度からは、それが本心だっていうのがシッカリと読み取れるんだよ。

 それぐらい、無理がなく自然なんだ。

 それから、俺も以前ソイルから「どうしてここまでしてくれるんですか?」って似たようなことを尋ねられたけど……こんなふうに自分に思い当たる理由もなく好意を示されたら、「なんでだろう?」って疑問に思ってしまう。


「そうねぇ……それはやっぱり、私がリリアン様に憧れているからでしょうね」

「憧れている?」

「そう……さっきも少し話したけど、リリアン様は強く、美しく、まさに魅力あふれる最高の令嬢で……それなのに、それが全然嫌味にならなくて、時折見せるお茶目なところもステキだったし……あのとき、同じ青春時代を過ごした令嬢の中でリリアン様に憧れなかった子なんていなかったはずよ!」

「そ、そうなのですか……?」


 やべぇ、母上ガチ勢ってオーラが漂い始めてきたぞ……


「それに、今でもその憧れを心に秘めている方々も数多くいるだろうし、実際に昨日うちに来た夫人たちの中には、アレスを通してリリアン様を見ていた方も少なくなかったと思うわ!」

「わ、私を通してですか……?」

「そう! それにきっと、アレスからもらった誉め言葉の数々も、リリアン様にいってもらったように感じていた方もいたでしょうね!!」

「えぇ……そこまでですか……」

「ええ、きっと間違いないわ!」


 いやまあ、俺自身がお姉さん大好きオーラ全開で接していたとはいえ、いわれてみれば確かに、ご夫人たちの俺に対する好感度は最初から高かった気がするもんな……

 しかも基本的に俺って、貴族のあいだでは評判が悪かっただろうに、そういうネガティブな感情もぶつけられなかったし。

 しっかし、ここにきて、義母上のテンションが高いな……


「そして、ついでみたいに聞こえるかもしれないけど、アレスのことも好ましく思っているからね? それはほかのご夫人方も同じだから、心配しないで」

「は、はい……」


 正直、めっちゃついでっぽく聞こえたけど、義母上なりにウソではないのだろう。

 それと、一応ルッカさんから既に報告は受けていると思うけど、改めてソエラルタウト家を継ぐ気がないことを義母上に話した。


「そうなのね……正直なところ、当代のルクルスント公爵……リリアン様の兄君が、場合によってはアレスのことも警戒するかもしれないって思ったけど……今のアレスなら、それに屈することもないでしょうし……分かった……アレスの思うとおりに将来を決めるといいわ」

「ご理解いただき、ありがとうございます」

「でも、何かあったら……いえ、特に何もなくても、いつでもなんでも話してちょうだいね?」

「はい、それはもう、頼りにしています」

「よろしい」


 こうしていろいろな話ができて、実に内容の濃いお茶の時間を義母上と過ごしたのだった。

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