第220話 貴族の出世競争みたいなもの
大浴場にやってきた。
今日もいろいろやって、かなり濃密な時間を過ごしたからだろう、このくつろぎのバスタイムに幸せを感じる。
とはいえ、部屋に戻ったら筋トレや精密魔力操作とまだまだやることがあるけどね。
まぁ、それらのことは今は置いておくとして、ゆったりとした時間に身を委ねよう。
と思っていたら、朝から度々見かけていた賑やかな4人組が大浴場にやって来たようだ。
「もう疲れたぁ~! 体中も痛いし!!」
「それはお前だけじゃねぇから気にすんな」
「そうそう、みんな一緒なんだからさ、我慢しよ?」
「そんなにしんどいなら、風呂上りにポーションでも飲めばよかろう?」
「あんな不味いの飲みたくないぃ~! ボクはフルーティーなジュースがいいんだぁ~!!」
ポーションが不味いだと?
おいおい、正気か?
まぁ、ジュースに比べたら、さすがにそうかもしれんが……でも、あの苦みとか慣れたらクセになると思うんだけどなぁ。
なんか、効いてるなって感じがするし。
ああでも、俺が飲んでるのは腕のいい錬金術師であるトレルルス謹製のポーションだから、その辺も関係してるかもしれんね。
「ま、明日も頑張んなきゃなんだからよ、風呂上りにみんなで飲んどこうぜ!」
「そうだねぇ、筋肉痛とか明日に残したくないもんね!」
「ああ、それがよかろう」
「えぇ! 明日もぉ!? もうやだぁ~!!」
「うるせぇ! 逃げようったってそうはいかねぇかんな!」
「でもさ、一生懸命走ってる姿を見た令嬢が僕らに『ときめく』かもしんないじゃん? その可能性を信じて頑張ろ?」
「まぁ、試験が近づくにつれ、運動場に来る令嬢も増えてはいくだろうな」
「そんなんどうでもいいぃ~! ボクは独りでいいんだぁ~!!」
へぇ……アイツ、将来は独身貴族かぁ。
なんというか、クラス落ちも覚悟してたみたいだし……結婚してこそという風潮のあるこの世界の貴族において、なかなか覚悟が極まってるように感じるね。
それが、いいのか悪いのかは意見の分かれるところなのだろうが……
「アホか! お前は長男なんだから、そんな勝手許されるわけねぇだろ!!」
「……家を継ぐのは弟になるかもしれないねぇ」
「……妹君が婿を取ってという可能性もあるだろうな」
ああ、後継者争いかぁ……面倒そうだな。
実際のところアイツも、覚悟というよりその辺が面倒で逃げてんのかな?
「さて、そろそろ上がるか?」
「そうですね」
「おっ、そうだな」
ロイターの言葉によって、どうでもいい方向に飛んでいた思考が戻ってきた。
今日は3人とも特にしゃべることなく、静かに湯船に浸かっていたからね。
そして風呂上りには当然のごとく、ポーション!
だが、ロイターとサンズはお茶を飲んでいた。
まぁ、この2人ならポーションに頼らずとも、魔力操作で回復できるってところなのかもしれん。
とはいえ、それは俺も同じなんだが、もうクセになってるから仕方ないね!
「それじゃあ、また……その前にアレス、明日の模擬戦は覚悟しておくことだな」
「まぁ、4対1となってしまいますが、僕も手を抜かず全力でいかせてもらいますよ」
「フッ、お前らこそ俺の無尽蔵な体力に音を上げんことだな!」
「よかろう!」
「今から気合が入りますね!」
こうして、お互いに明日への気合を込めて解散するのだった。
そして、自室へ戻る道すがら……
「あの能無し、そろそろ追い出すべきだよな?」
「そうだよねぇ」
「まったく、なんであんな奴をいつまでもパーティーに置いておくんだか……」
「そんなこと、分かってるくせにぃ……僕らと同じ寄子貴族の息子だからでしょぉ?」
「チッ、あんな奴と同じというのが気に入らん」
「ホント、僕らも同類と見られたらたまんないよねぇ」
昼や運動場で見た、険悪な雰囲気の4人組のうちの2人だった気がするな。
もっといえば、率先して1人を詰めていた2人というべきか……
寄子貴族とかいってたところからすると……あのリーダーっぽかった奴が寄親貴族の息子ってところかな?
たぶん、将来に向けた序列争い的なことなんだろうなぁ。
今のうちにライバルを蹴落としとこう、みたいな?
普段偉そうにしているように見える貴族たちも、なんだかんだといって結構大変なのかもしれんね。
まぁ、本来なら俺もそういう貴族の出世競争みたいなものに参加しなきゃなんだろうけどさ。
というか、原作アレス君はそれによって破滅したみたいなもんだろうし。
王女殿下の王族という地位を求めたのも、頭角を現し始めた主人公君を憎悪したのも、結局はそういうことなんだろうし。
とはいえ、それは原作ゲームでのシナリオだ、俺のシナリオじゃない。
俺はあくまでも、自由にこの世界を楽しむんだ。
卒業後は冒険者にでもなって、気ままにその辺を旅して回ってね。
幸い、ソエラルタウト家の当主に嫌われているようだから、後継者として余計な期待もされていないだろうし。
そんなことを思いながら、部屋に戻ったのだった。
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