第221話 あるかどうかもわからない裏設定

「……おはよう、キズナ君」


 今朝の目覚めは若干テンション低めだ。

 まぁ、さすがに2日続けてレミリネ師匠に夢で逢おうだなんて、虫がよすぎだったかな……反省反省。

 そんなことを考えながら、朝練に行く準備をする。

 この朝練についてだが、昨日までは体力作りのためランニングに重点を置いており、音読はしばらくお休みしていた。

 だが、昨日の夜錬として筋トレをしているときふと思ったのだ、前期試験の中で学科が一番手薄になっているんじゃないかってね。

 運動系と魔法系は正直、魔力のゴリ押しで上位を狙えると思うが、学科は前世やゲーム知識で応用できないこの世界ならではの部分が多少弱いかもしれない。

 とはいえ、普段からエリナ先生にいいところを見せたくて真面目に予習復習はキッチリおこなっていたから、弱点という程ではなかろう。

 ただ、ほかの貴族家出身の生徒たちも幼少の頃から実家で、専属の家庭教師なんかも付けられながら、ガッチガチに知識を詰め込まれているだろうことが予想される。

 そう考えると、相対的に俺のほうが劣後してしまう可能性がある。

 結局何がいいたいのかというと、もうちょっと勉強しようぜってことだね。

 そんなわけで、朝練もランニングからウォーキングに運動強度を落として、その分を片手間音読からシッカリめな音読に切り替えようと思う。

 なんてことを考えながら、着替えが終わった。


「それじゃあ、キズナ君! 朝練に行ってくるよ!!」


 というわけで、参考書を片手にいつもの朝練コースへ向かう。


「あら、今日は走らないのね?」

「ああ、俺の場合、前期試験で学科が一番手薄な可能性があったからな」

「……確かにそうかもしれないわね」

「あ! お前今、俺をアホの子だと思っただろ?」

「いいえ、そんなことは思っていないわ……まぁ、お調子者でときどき不思議な言動をするとは思っているけれど」

「そ、そうか……」


 うぅ、地味に心当たりがあり過ぎて、なんもいい返せねぇ。

 いやぁでもさ、ファティマの的確なツッコミがね、俺のボケを誘うみたいなところもあると思うんだよね。

 その辺のところはファティマも自覚したほうがいいんじゃないかと思うんだ。


「……またおかしなことを考えているわね?」

「いや、コミュニケーションの在り方というものを思案していたのさ」


 こんなふうにして言葉のキャッチボールをいくらか楽しんだあとファティマは女子寮に戻り、俺は朝練を再開する。

 そして約1時間ほど音読ウォーキングをして自室に戻り、シャワーを浴びる。

 あとはお決まりのコースでポーションで喉を潤し、食堂へ朝食を食べに行く。

 ……ふむ、食堂の学生たちの雰囲気がちょっとばかり試験モードになり始めたかなって感じがするね。

 参考書を読みながらメシ食ってる奴とかもいるし。

 あとは、試験に対する文句をひたすらいってる奴とかね。

 そんな感じで、朝食を終えて授業へ向かう。

 さって、今日もエリナ先生のステキな授業を受けられる喜びを噛みしめながら、真剣に話を聞くことにしましょうかね!

 そうして、授業の終わり頃……


「さて、前期試験も再来週に迫ってきたわね。みんなも本格的に試験への準備を始めたところかしら。このクラスはみんな日頃から真面目に授業にも取り組んでいるし、そのまま頑張ってくれればAクラスを維持するのは大丈夫だと思うわ」


 Aクラスの維持か……

 この世界に転生してきたときの状態を考えると、原作アレス君はどうやってAクラスを維持していたんだろうって思っちゃうね。

 だって、学科は壊滅的だろうし、運動なんかも全然だったろう……というか、こっちに来た当初はダイエットに物凄い苦労したような記憶があるからね。

 まぁ、期間としては意外とそんなに長くなかったかもしれないけどさ、それでもキツかったなぁ……何より、腹内アレス君の食欲がね。

 でも、今となってはそれも懐かしい思い出っていえるのかもしれないなぁ。

 それに、もともとあんまり食べることに興味のなかった俺も、腹内アレス君の影響で割と「食」というものに関心を持つようになってきたような気がするし。

 ま、それはそれとして……やっぱ保有魔力量にものをいわせたってところだろうか?

 でも、魔力操作も最初はさっぱりだったんだよなぁ。

 ホント謎だ……


「それから、野営研修の成績に満足いかなかっただとか、成績上位者を目標にしている生徒は、試験までの2週間の頑張りでまだまだ実力を伸ばすことができると思うから、しっかり頑張ってね!」


 もしかしてだけど、原作アレス君はエリナ先生に個別特訓をしてもらって魔法の技術を伸ばしてた、なんていう裏設定があったりして……

 いやだって、保有魔力量が多いとはいえ魔力操作もままならない人間が、勇者の力に目覚める主人公君に最後まで食らいついていけるわけない気がするんだよね。

 だから、どっかで誰かが、原作アレス君を戦える男に育成してたんじゃないかって思うんだ。

 そんなわけで、面倒見のいいエリナ先生が……なんていう期待をしちゃったわけさ。

 まぁ、俺が転生する先のキャラだったからというのもあるけど。

 あ、でも……確か原作ゲームだとエリナ先生は、原作アレス君との戦闘のとき、なんだかんだといって攻撃しなかったんだよな。

 一応攻撃コマンドは選べるけど、「エリナは説得を試みた」とかってテキストが出るだけで、攻撃をしないという。

 まぁ、単純に教え子を攻撃するのは気が引けただけかもしれんけどさ。

 こうして、原作ゲームのあるかどうかもわからない裏設定へ淡い期待を抱きながら、本日の授業は終了したのだった。

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