第222話 追放

 授業が終わって、食堂にやってきた。

 そして、移動中アレコレ考えはしたが結局、原作アレス君のAクラス維持の謎が解けることはなかった。

 というか、原作ゲームやその設定資料集なんかにも語られていなかった内容なのだから、俺がああだこうだ考えたところで解明できる謎ではなかったね。

 このようにして、脳内で思考遊戯を繰り広げながら、昼食開始。


「授業の終わり頃に先生がさ、『野営研修で手を抜いた者は、試験に向けて真剣に取り組むように』っていってたんだ……ボクに視線を向けながらね! アハハハハ」

「まぁ、収集物ゼロだとそりゃそうだろうなぁ」

「うん、僕らも多少サボったほうではあるけど、それでも最低限は集めたからねぇ」

「……かなりの努力は必要となるだろうが、試験の出来次第ではまだまだ巻き返せるのだ、ここが頑張りどころと思い定めることだな」


 昨日からあの賑やかな4人組をよく目にするね。

 そんな彼らだが、見た感じ仲良さそうなのにパーティーは組んでないみたいなんだよな。

 これも地味に謎と呼べるかもしれない。

 ……うぅむ、今日は謎の多い日だねぇ。


「ボクはね、あるがまま今に在ることを信条としているんだ……だからこそ、後付けの知識や力なんかを求めるのはナンセンスなことだといいたい!」

「なんか、カッコいいふうにいってるが、ただぐーたらしてぇだけじゃねぇか!」

「まぁ、のんびりしたい気持ちは理解できるんだけどねぇ……」

「ふむ……我々の生存を脅かすモンスターなどがいなければ、それでもいいかもしれんが……そうもいくまい」


 単なる怠惰な奴なのか、それとも意外と哲学的な奴なのか……よくわからん奴だなぁ。

 いやまぁ、その場の雰囲気で適当かましてるだけの可能性が高い気がするけどね。

 そんな会話が聞こえてくるなか、お昼を食べていた。


「さて、それじゃあ……今日も気合入れて走るぞ! おっと、逃げんな!!」

「いーやーだー!!」

「……これから毎日この流れを繰り返すのかな?」

「……かもな。まぁ、それはそれとして、今は走ることに集中するだけだな」


 ほほう、あの4人組は今日も運動場で走るのか。

 いやまぁ、俺もあとで行くことになるだろうけどさ。

 とりあえず、そんときはよろしくな!

 といいつつ、特に会話することはないだろうけどね。

 なんてことを思いながら、おかわりをいただく。

 うん、美味しいねぇ。

 そんな感じで、ご飯の第2ラウンドを開始していたときのこと。

 昨日見た険悪な雰囲気の4人組が、何やらまた揉めているようだ。


「ヴィーン様! そろそろこの能無しをパーティーから追い出すべきではありませんか!?」

「そうですよ! コイツのせいで、野営研修の成績も散々なものになってしまったのですし!!」

「そ、そんな!!」

「……」

「ヴィーン様! この能無しがどれだけ期待外れだったかは、ご実家にも伝わっているのでしょう? そうであれば、追い出したところで何も問題ないではありませんか!!」

「待ってください! ヴィーン様! 僕、もっと頑張りますから!!」

「……ヴィーン様、もう我々は十分我慢したではありませんか……このままコイツをパーティーに置いていたら、どこまで足を引っ張られることになるやら分かったものではありませんよ?」

「お願いです、ヴィーン様! どうか僕を、見捨てないでください!!」

「ソイル! てめぇはどんだけ図々しい奴なんだ! こういう場合は普通、てめぇのほうから気を使って身を引くもんだろうが!!」

「ヴィーン様……つまらない感傷に流されて、判断を誤らぬようお願いいたします」


 おいおい……人がせっかくいい気分で食事を楽しんでいたところだというのに、なかなかの修羅場を展開してくれるじゃないか。

 しかしながらこの感じ、異世界名物の「追放」ってやつかな?

 ということは、あのソイルとかいう追放されそうな奴……これからすんごいチートに目覚めて「ざまぁ展開」を見せてくれるとか?

 う~ん、どうなんだろう……って、いかんいかん! 俺としたことが、地味に不謹慎なことを考えてしまった。

 でもまぁ、昨日から見てきた感じ、あれだけ亀裂が入っていたら、遅かれ早かれって感じだったよな。

 ああなったらもう、連携がどうとかってレベルの話じゃなくなってるだろうし……

 とりあえず、あとはヴィーン様とやらがどのような決断を下すかってところだな。

 そうして、俺も含めて食堂にいた周囲の男子たちは、ヴィーン様とやらが出す答えを固唾を飲んで見守っていた。


「……ソイル、悪いがお前とはここまでだ……このままでは、互いにとっていい未来とはならないだろうからな……」

「おお! さすがはヴィーン様だ!!」

「ご決断いただけると信じておりました! ヴィーン様!!」

「もっともっと努力して、お役に立てるよう頑張りますから! 今までどおりお傍に置いてください! ヴィーン様!!」

「……すまないが、それはできない」

「そんな、お願いします! ヴィーン様!」


 ……まぁ、そういう結論になってしまうのだろうなぁって感じはしていたよ。

 ソイルとかいう奴を残しておいたところで、この先上手くやっていけるわけもないだろうからね。

 そうして、ヴィーン様とやら一行は食堂を去っていった。


「待ってください、ヴィーン様! ヴィーン様ぁ!!」


 そして、ソイルとかいう奴は、ヴィーン様とやらを追いかけていったのだった……

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