第223話 絆が切れてしまうことの哀しさ

 険悪な雰囲気の4人組が去ったあとの食堂。

 そこは当然というべきか、先ほどの追放劇の話題で持ち切りだった。

 そして、近くにいる2人組の会話が聞こえてくる。


「うわぁ……あれはキッツイね……」

「いやいや、ヴィーンの奴も今までよく我慢したほうだろ。ソイルの奴……保有魔力量の割にとにかく魔法がヘッタクソで、日頃からパーティーの足を引っ張ってばっかだったって話だし」

「へぇ、それは困るね……」

「おまけに、あのオドオドした態度だろ? 周りがイラつくのもしゃーねーわな」

「そうだねぇ、めっちゃ他人の顔色をうかがう系って感じではあったね」

「だろぉ? あれじゃあ駄目ってもんだ」


 ほう、保有魔力量が多いとな?

 2人組の会話によると、そういうことらしい。

 まぁ、魔力探知を中途半端にして敵対行為だと思われても面倒だし、そもそも知る必要もないから使わなかった。

 それはそれとして、俺もこっちの世界に来た当初はダイエットだけじゃなく、魔力操作にも苦労したんだよなぁ。

 なんというか、魔力を動かそうとしたら妙に重たくて……ソイルとかいう奴も、きっとそんな感じなんだろうなって気がしてくるね……知らんけど。


「でもやっぱ……結局のところ野営研修の成績がイマイチに終わったのが、一番の原因だろうな」

「そりゃぁ……そうだろうねぇ」

「既に同じような理由で解散したパーティーもいくつか見てきたし……この先もあるんだろうなぁ」

「確かに……今はなんとか堪えてても、不満がくすぶり続けているってパーティーは間違いなくあるだろうね」

「ま! 俺らもその辺のところ、気を付けていかにゃならんな!!」

「うん……それでさ……このタイミングで切り出すのもどうかと思うけど……」

「……は? まさか! ウソだろ、おい! やめてくれよ!?」


 え? おいおい、不意打ちはナシだろ!

 ここでふと前世のことを思い出したけど、アイドル好きの鈴木君がいってたな……

 ライブの終わり頃に突然、メンバーの卒業発表とか、ひどい場合だとグループの解散発表があったときは、メンタルをゴリッゴリに削られるってね。

 いやまぁ、そうだろうなっていうのは、なんとなく想像できるけどさ……

 そういうことがあったときの鈴木君……「そこまで!?」ってぐらい落ち込んでて見てられなかったんだよなぁ。

 というわけで、俺はその瞬間をこれから見せられるのか?

 いや、既にソイルとかいう奴のグループからの卒業……じゃなかった、追放を見せられたばかりだった……


「……今日の授業ノートを見せてくれない? ちょっとばかり居眠りしちゃってね」

「おう、かまわんよ……っておいぃぃぃ! なんだよそれッ! ビビらすんじゃねぇよ!!」


 ……俺も思った、関係ないのにさ。


「いやぁ……僕自身、タイミングがどうかなっていう思いはあったんだけどね」

「あったりめぇだ! めっちゃ焦ったわ!!」


 うん、俺も君がへこんでる姿をイメージしちゃってたよ……

 でも、とりあえずそれは回避できたみたいで一安心ってところかな。

 いやまぁ、部外者の俺が気にするのも変な話だろうけどさ……

 そんな感じで、あちこちで追放劇の話でガヤガヤしながらの昼食となったのだった。

 そうして、おしゃべり好きな少年たちを残し、俺は自室へ戻ることに。


「授業が終わってお昼を食べてきたよ、キズナ君……それでさ……」


 自室にて、キズナ君へ先ほどあった追放劇の話をしながら、絆が切れてしまうことの哀しさを感じていた。

 といいつつ、「ソロ志向の奴が何いってんだ?」ってところはあるけどさ。

 ただ、俺もこの世界に来て、地味にいろんな人と縁を結んできたからなぁ。

 そんなことをしみじみ思った。


「おっと、こうしてばかりもいられない! 試験対策をしなくちゃだ!!」


 というわけで、今日の午後はまず、学科の勉強からといきましょうかね。

 とりあえず、眠気対策としてスタンディングデスクをフル活用だ!

 まぁ、スクワットとかで筋トレしながらの音読でもよかったんだけど、さすがに問題を解くなど筆記作業もしたいからさ。

 こうして、3時間ほど勉強したところで一度終了し、続きは模擬戦などをしたあとの夜にしようと思う。

 勉強ばっかりだと飽きちゃうからさ、仕方ないね。

 そんなことを思いつつ、運動場へ移動した。


「もうやだぁ~! 走りたくないぃ~!!」

「うっせ……黙って……走っとけ!」

「ほんと……元気……あり過ぎ……でしょ……」

「フン、まあまあだな」


 おお、度々目にする賑やかな4人組が走ってるね。

 お昼を食べ終えたあとからずっとなのかな? 感心感心

 とはいえ……2人ほどバテバテって感じみたいだけどね。

 それに比べて、あのクラス落ちを覚悟していたぐーたらボーイ……ゴチャゴチャ喚きながら走るだなんて、マジで元気があり余ってるなって思っちゃうよ。

 だが、俺も自称「元気印のアレス君」だからな、負けてはおれん!

 さぁ、いくぞ!!

 こうして、耐久マラソン対策に走りだす。

 そして……魔力よ……我に体力を授けたまえ!!

 なんてことをイメージしながら、魔力操作も並行しておこなう。

 フフッ、小僧どもよ……これが魔力操作をしながら走るということだ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る