第224話 握手しに行くところかもしれんな

 現在、運動場内をランニング中。

 フッ、魔力を体力に変換することで、走り続けることができるのさ!

 ただ、体力的に問題ないとはいえ、同じところをひたすらグルグル回るっていうのは、ちょっと飽きがくるかもしれない。

 昨日森の中をモンスターや薬草を求めながら走っていたときのことを思い返して比較するとそんな気がする。

 でもなぁ、前期試験の運動科目の試験会場はここみたいだからね、仕方ないといわざるを得ないか。

 う~ん、もしかしたらこの試験、精神力を鍛える意味も込められている可能性があったりして。

 ま、とにかく走るのみだ!


「魔力操作狂いの奴……魔力だけじゃなくて、体力もやべぇのな……」

「知らないの? あの人、ほとんど毎朝走ってるって話でしょ。しかも、本を読みながらとか意味不明なこともするみたいだし……」

「そうそう……そんで毎朝ファティマちゃんとイチャイチャなんかもしやがって! 羨ましいぞ! コンチクショウ!!」

「ふぅん? そいつは知らんかった……でもまぁ、ファティマって確か……あのちっちゃい子だろ? 顔がいいのは認めるが、俺の好みではないからその点については、どうでもいいかなって感じだ……やっぱ女性はこう、デッカクないとな!」


 なんか、休憩中らしき奴らの会話が聞こえてきたが……

 どうやら、朝練時の俺とファティマはイチャイチャしているように見えていたみたいだな、マジかよ……

 まぁ、ファティマとの会話を面白く感じているのは間違いではないからなぁ。

 そして、あの少年はデッカイ女性が好みとは……それが身体的な意味だけではなく、年齢的な意味を多分に含んでいるというのなら、握手しに行くところかもしれんな。


「はぁ……わかってないなぁ……あのちっちゃさがカワイイのに……」

「そうだそうだ! そんなにデケェ女がいいなら、オークのメスにでも求愛して来いってんだ!!」

「……あ? 今なんつった?」

「デケェ女がいいなら、オークのメスに求愛して来いっていったんだ!!」

「……いわれてみれば、確かにデッカイな……でも、言葉が通じないのはちょっとキツイか……いや、気持ちが通じ合えばあるいは……だが、そもそもそれは可能なのか? うぅむ……」

「え? 真面目に検討してる!?」

「自分でいうのもなんだけど、完全に挑発のつもりだったんだけどな……」


 ふむ、オークのお姉さんか……

 それはさすがに……いや……これでもかってぐらいお姉さん感を示してくれれば可能性も……

 あ、でもあれだ、俺は知ってるぞ……そういう展開でヒロインになるモンスターは人間に変身するってね!

 ベースがオークってことは、きっとムッチリとした肉感的な美女になることだろう。

 それが異世界あるあるだ、よかったな少年!

 ……なんて、ただ走ることに飽きそうになる度、適当に思考を遊ばせていたのである。

 そうして、夕食までの時間をひたすら走り抜いた。

 また、これからシャワーを浴びるために自室に戻るのも面倒に感じたので、運動場に併設されている更衣室兼シャワー室でシャワーを浴びることにする。

 いやまぁ、浄化の魔法で一発じゃん? っていわれたらそれまでなんだけどさ……そこはほら、視聴者サービスってことで、ね?

 というわけで、シャワーを浴びるわけだが、造りは前世の体育館とかの施設に設置されている1人用シャワーそのまんま。

 なんというか、ちょくちょくこういう前世と変わらない部分を目にすると、ときどきここが異世界だってことを忘れそうになるよ。

 そんなことを思いつつシャワーを浴び終え、ポーションをゴクリ。

 ふぅ、汗をいっぱいかいたあとのポーションは、やはり格別だね!

 さて、一息ついたところで、夕ご飯を食べに行こう。

 腹内アレス君も、「ランニングなどというツマランものに付き合ってやったのだからな!」って感じの主張をしているからね、しっかり食べようと思う。

 こうして食堂へと移動し、空いている席に着く。

 そして少しあとに、ロイターとサンズがやって来た。


「アレス、今日の授業後は何をしていたのだ?」

「部屋で学科の勉強をしたあと、運動場でひたすら走っていたな」

「アレスさんも本格的に前期試験対策を始めたようですね」

「そうだな……それで、お前たちは?」

「魔法練習場で、魔法の試験対策だな」

「なるほど……そういえば最近、魔法練習場にあまり行ってなかった気がするな」

「そうなんですか? ああ、そっか、ずっとダンジョンに通ってましたもんね」

「うむ、充実した素晴らしい日々だったよ……」


 そうして、レミリネ師匠との幸せだった時間が脳裏に浮かぶ。


「……アレス、このあとは1対4の耐久模擬戦だ……きっと濃密な時間を過ごせるだろう、楽しみにしておくがいい」

「はい、忘れられない思い出にして差し上げますよ」


 おっと、少しばかり遠い目をしていたせいか、2人に気を使わせてしまったかもしれないな。

 強気に元気なアレスさんを見せてやらないとだな。


「……面白いことをいうじゃないか、ワクワクしてくるよ」

「フッ、それは何よりだ」

「そうですね」


 こうして夕食中、俺たち3人は模擬戦に向けて闘志をみなぎらせていたのだった。


「あっちのほうから、強い圧を感じるな……と思ったら……」

「え? ああ、なるほど……あの3人か……」

「サンズ君も、前はもっとおとなしい感じの人だったのにね……それともあれが地なのかな?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る