第219話 おあつらえ向きといえる気がする

 夕食を食べ終えて、模擬戦をするために運動場へ来た。

 夕食後ということもあってか、午前中に比べれば多少人数が減っている。

 とはいえ、まだ結構な数の学生がそれぞれのやり方で鍛錬をしている。

 その中には、午前中に見たような気もする奴もチラホラといる。

 みんな頑張ってるねぇ、偉い偉い。

 と、そんな感心ばかりもしていられない、俺たちも気合いを入れて模擬戦に取り組もう!

 そうして、何度か模擬戦を重ねていたところ……


「チッ! またかよ!!」

「そこでそんなミスするぅ~?」

「……ごめん」


 ん? あれは……昼食時に見た険悪な雰囲気の4人組、それにプラスして友人グループかなんかの集団ってところか。

 そして、お昼のときと同じ奴が周りに詰められている。

 正直、またかって感じだね。

 う~ん、あれだけ不仲感があると、あのパーティーは近々解散することになるかもしれんね。

 まぁ、それは俺が気にするようなことではないかな?


「次はアレス君の番だよ?」

「おお、今行く」


 おっと、よそ見している場合じゃなかったね。

 移動しながら、今一度木製ナイフの握り心地を確認して……よし、オッケーだ。


「ほう、今日はナイフか」

「ああ、解体作業を経てレベルアップした俺のナイフ術に翻弄されるがいい」

「ふむ、面白い」

「2人とも準備はいいみたいだね、それじゃあ……始め!」


 こうして、パルフェナによる開始の合図とともに、俺とロイターの魔法なしの模擬戦が始まる。

 まずは少しずつ距離を詰めながらお互いの出方をうかがう。

 

「そこだ!」


 剣の間合いとなったところで、ロイターが木剣を打ち込んでくる。

 それを半身になって避け、カウンターで木製ナイフを合わせる。


「セイヤッ!」

「なんの!」


 すんでのところでロイターが回避し、俺の木製ナイフは空を斬る。


「だが、まだ終わりじゃないぞ!」

「分かり切ったことを!」


 そして、小回りを利かせて木製ナイフを何度も振るう。

 それをロイターは木剣で合わせ、捌ききれない一振りは回避で対処をする。

 こうした攻防が時間いっぱいまでひたすら続いていくのだった。


「そこまで! 時間切れにより、引き分けとします」


 審判パルフェナの一声により、俺とロイターの模擬戦は終了した。


「解体作業によって研ぎ澄まされた俺のナイフ術をお見舞いしてやろうと思ったのだがな」

「フン、魔法なしで私から一本を取ろうなど、まだまだ早い……だが、お前の一振り一振りの鋭さは、いくらか増していたかもしれんな」

「おお! そうか!!」


 勝利を飾れなかったのは残念ではあったが、いい感じにはなってきている。

 この、自分は成長しているのだという感覚は、たまらない充実感を与えてくれるね。

 こんな感じで今日の模擬戦をこなし、場所を談話室に移して反省会を始める。


「最近、時間切れによる引き分けが増えてきたわね」

「ファティマさんのいうとおりだな」

「ねぇねぇ、そろそろ前期試験も始まるでしょ? それを意識してこれからは、耐久模擬戦なんていうのはどうかな?」

「耐久模擬戦……ですか?」


 耐久模擬戦とやらをパルフェナが提案してきた。

 まぁ、ほとんど名前のとおりなんだろうけど、とりあえず説明を聞いてみるか。


「うん、魔力を使うのは怪我や体力の回復に限定して、あとは特に勝敗を決めず、時間いっぱいまでひたすら模擬戦を続けるの、しかも全員で。それでチーム分けをしてみたり、みんな敵同士にしてみたり、その辺はいろいろって感じで」

「なるほど、時間いっぱいまで……なかなか根気が養われそうですね」

「ふむ、最近はいいところで時間切れということも多かったしな、あえて勝敗を決めずにひたすら模擬戦を続けるというのも面白そうだ」

「まぁ、いいんじゃないかしら?」


 おお、みんなの同意により、パルフェナの提案がすんなり通ったようだ。

 ま、俺も特に反対する理由もないし、賛成でいいだろう。

 というより、魔力変換を駆使することで体力に自信アリな俺としては、おあつらえ向きといえる気がする。


「フッ、お前らは俺の圧倒的な体力についてこれるかな?」

「ほう、いうじゃないか」

「これは負けてられませんね!」

「ふふっ、そんなに自信があるのなら、アレス対私たち4人でもいいわね」

「ファティマちゃん……でもそっか、1人でいるところを複数人に襲われるってことも考えられないわけじゃないもんね」


 そういえば、レミリネ師匠は王都防衛戦において、ほとんど1人で他国の軍をボコボコにして撤退に追いやったって話だったな。

 それを思えば、1対4なんて余裕だ! やったろうじゃん!!


「いいだろう、そのファティマの挑戦、受けて立つ!!」

「いったわね? みんな、調子に乗っているアレスを後悔させてあげるわよ?」

「承知した!」

「もう、ファティマちゃんったら……仕方ないなぁ」

「まぁ、最終的にみんなやることになると思いますけどね」

「……それもそうだね」


 というわけで、次回から模擬戦の形式がちょっと変わることになった。

 ま、どんな形式であろうと、実力を伸ばすためならドンと来いだ!!

 こうして反省会を終え、あとは大浴場でひとっ風呂浴びて、夜のルーティンをこなして寝るのみ。

 さて、今日という日のラストスパート、行っちゃいますか!

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