第141話 自慢できること
「おはよう。遂に明日は野営研修ね」
「よう」
朝練にて、いつもどおりのファティマとの挨拶がてらのたわいのない会話。
あ、そういえば、野営研修中にもしかしたら野暮用ができて、一時的に別行動をとるかもって話をファティマにしとくかな。
はぐれオーガが主人公君たちのところに出現して急行しなきゃかもしれないし。
そのときにうちのパーティーメンバーが「あれ? アレス君いなくない?」って驚かせちゃったら悪いからね。
「それで野営研修中なんだが、もしかしたら野暮用ができて、一時的にパーティーから離れることがあるかもしれん」
「そう……仕方がないわね」
「悪いな」
「それで悪いと思うのなら、夕食後に私とパルフェナを除け者にしてロイターたちと3人でお楽しみなことには一言もないのかしら?」
「う、それは……」
「ふふっ、冗談よ。しっかりね」
「お、おう」
誘わないのは悪いかなっていう気もしないでもないが、女の子と模擬戦をするっていうのはやっぱ、気分的にハードル高めなんだよね。
……あんまり戦いたくないから、将来的にも女の子の敵対者とか出てこないといいなぁ。
でもマヌケ族の女とかはそのうち出てきそうだしなぁ、ちょっと前に見たズミカとかって子も地味に危なかったかもしれないし……
「それじゃあ、私はそろそろ行くわ」
「ああ、またな」
そうして朝練をこなし、自室でシャワータイムを経て朝食へ。
俺の座った席の近くに、いつぞやの土下座君とその仲間たちがいた。
なんか久しぶりな感じがするけど、たぶん近頃は中央棟で食事をしてたんだろうな。
しかし土下座君……気持ち痩せた?
「おい、最近どうしたんだ、なんか日に日に元気がなくなっていってるぞ? 明日は野営研修だってのに、そんなんじゃいかんぞ?」
「……はは、そうだな」
「思うにパーティー活動が本格化してからですねぇ、もしやその辺に原因が?」
「いや、パーティーが上手く行っていないだなんて……そんなこと……ないさ」
「もう! 鬱陶しいから、シャキッとしてよ! しかも自分でパーティーが上手く行ってないってバラしてるし!!」
おやおや土下座君、パーティーが上手く行っていないのか。
というか、お前ら4人で組んでなかったんだな……
「まあまあ、そうカリカリしなさんなって。それにしても、お前のところって確か、男はお前一人の実に羨ましいパーティーじゃなかったか?」
「……ははっ、羨ましい、か……」
ここで土下座君の盛大な愚痴披露大会が始まった。
なんというか、パーティーを組んだ令嬢たちから下僕のような扱いを受けているみたい。
もちろんご主人様は土下座して夜会の相手をしてもらった令嬢だ。
そしてパーティー構成はそのご主人様を頂点として、そこに取り巻き令嬢が2人、その下に土下座君って感じ。
そういう状況を「ご褒美です!」とか言えちゃう奴なら最高の環境なんだろうけどさ……土下座君はそうじゃなかったんだな。
……まぁそのなんだ、強く生きろよ!!
そんなわけで、最初は土下座君に噛みついていた夜会の相手を見つけられなかったあぶれん坊も、さすがに最後は同情的な態度になっていた。
こうやってほかのパーティー事情を知ると、うちのパーティーはかなり当たりの部類だったんだなと改めて思ったものだ。
そんなことを思いながら朝食を終え、魔法練習場へ移動した。
野営研修に向けて、壁系統の魔法の最終確認って感じ。
もしくは、テント周りのデザインを考えるって言い方もできるかな?
というわけで、一度テントを設営してその周りに石の壁、さらに外側に魔力の防壁を設置。
……正直、魔力の防壁だけで十分な気もするんだけど、もう少し遊びも欲しいなと思ってさ。
そんな思いを込めて石の壁の周りに地属性魔法で地面を掘ってお堀を作ってみた。
おお、結構イケてんじゃね?
ついでだから石の壁に返しなんかがあってもいいな。
こうして壁系統の魔法の確認というより、ほとんど地属性魔法で遊んでいただけの午前中を過ごした。
もしかしたらソレバ村で出会ったカッツ君はこういう感覚で泥遊びをしていたのかもしれない、そんなふうにも思ったものだった。
その後は一度シャワータイムを挟んで昼食をいただき、現在は街ブラをしている……別名食べ歩きだね。
適当に目についた屋台の串焼き肉をひょいひょい食べるって感じ。
まぁ、俺レベルなら何本でも食べれちゃうからね!
そうしながらトレルルスの店で予備のポーションを買ったり、野営研修用のお菓子を買ったりなんかもした。
やっぱスィーツ男子としてはお菓子は外せないからさ!!
そんな感じで気分に任せて街中をブラブラし、なんとなくそのまま夕食を食べてから男子寮に戻ることにした。
さて、それじゃあなにを食べようか……う~ん、今日はピザって気分だな!
よっしゃ、ピザを食うぞ! 石窯で焼きましたって感じのこだわり系ピザがいいな!!
てなわけで、そんな雰囲気の店を探し入店。
さて、どんなこだわりピザが出てくるのか。
そんな思いとともにメニューを開くと、店長おすすめという「具だくさんベジタブルピザ」という文字が目に入る。
ほう、店長おすすめときたか……いいだろう、その言葉を信じようじゃないか。
それに、さっきまで串焼き肉を何本も食べていたからな、夜はヘルシーに野菜中心で行くのもアリだろう。
そうして注文後少しして、具だくさんベジタブルピザが俺のもとにやってくる。
ふむ、赤や黄色のピーマン、トマト、玉ねぎ、アスパラ、ブロッコリーにナスがぎっしりとトッピングされている……なるほど、これは確かに具だくさんだ。
だが、味の方はどうかな?
そんなことを思いつつ一口。
……これは美味い、ピザという舞台の上で野菜たちが奏でる優しいハーモニーが実に素晴らしい。
ふむ、どうりで自信ありげに店長おすすめなんて言えるわけだ。
こうしてピザの味を楽しんでいたところ、近くの席の冒険者らしき男たちの会話が耳に入ってくる。
「聞いて驚け! 今日の俺たちはすげぇぞ!!」
「すげぇぞ!!」
「へぇ、どうすげぇんだ?」
「なんと! あの! 超おっそろしいオーガに遭遇して、無事に逃げ切った!!」
「逃げ切った!!」
「……いやいや、逃げただけだろ? そんなんじゃ自慢になんねぇだろ」
「ふぅ……わかってないなぁ、あの超危険なオーガに出会っちまったら、それはもう死を覚悟するしかねぇんだ!!」
「ねぇんだ!!」
「死を覚悟って……ウソだろ、おい」
「ああ、そいつらの言ってることは間違ってねぇぞ? オーガと出くわして生き残った、これは十分自慢できることだ」
……今日か。
そのオーガと俺が今まで会えなかったのは、間が悪かったってことなのかな?
でもまぁ、この様子だとやはり、はぐれオーガが野営研修に出現すると考えてよさそうだな。
それにしても、あの冒険者たちは見たところ貴族家出身の魔法士でもなさそうだし、よく逃げ切れたものだな。
身体能力的に普通に逃げただけではすぐに追いつかれただろうに……それだけ上手くやったってことなのかね。
ま、それはともかくとして明日からの野営研修、怠りなく警戒にあたるとしよう。
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