第142話 安全は守られるはず

「おはよう。今日からの野営研修、よろしくお願いするわね」

「おう、こちらこそだ!」


 というわけで本日地の日、ついに野営研修の日がやってまいりました!

 原作ゲーム的にも、ようやく本格的にシナリオが進み始めてきたって感じだ。

 そんなことを思いつつ、ファティマとちょっとした挨拶程度の会話をし、朝練に戻る。

 そうして1時間ほど心地よい汗をかき、それもシャワーで流したところで朝食へ。


「俺さ、今日の野営研修のために新しい剣を買っちゃった! これでモンスターどもをズバズバっと斬りまくって、令嬢たちにキャーステキ―とか言ってもらっちゃうんだ!!」

「え~? 慣れてない剣なんか使って大丈夫なの~?」

「左様、剣に己の魂が宿っておらねば、ただの金属の棒に過ぎぬぞ?」

「なんだよ、もっと『お! いいじゃん!!』みたいな反応を期待してたのに……」


 まぁ、おニューの剣を自慢したいって気持ちもわからんではないが、周りの奴が心配する気持ちも理解できてしまうな。

 ガワだけの粗悪品を掴まされてて、いざ実戦となったときにポッキリ折れましたってなったらシャレにならんだろうし。


「悪いことは言わん、今回のところは使い慣れた剣にしておけ」

「そうそう、それにたぶん令嬢たちだって、君がどんな剣を使ってるかなんて気にしてないし」

「……ちぇつ、わかったよ。あ~あ、この剣すっげぇカッコいいんだけどなぁ」


 ……チラッと見た感じ、カッコいいというか、まさしく貴族の坊ちゃんが使う剣って感じの装飾が施された剣だった。

 正直、お部屋で飾っておいたほうがよさそうって思ってしまったね。

 そのため、ちょっとかわいそうな気もしてしまうが、周囲の言うとおりなんだろうなぁって感じだ。

 それにしても、『令嬢たちは気にしていない』っていうのは、なんか俺に言われているような気持ちになるぐらいグサリとくるね。

 ほら、俺ってメインウェポンが木刀だし、サブウェポンなんかマラカスでしょ?

 特にマラカスなんて結構ウケ狙いみたいなところもあったからさ、それが実はスベってたってなったらどうしようって思っちゃう。

 ああでも、決闘のときロイターが「ふざけているのか!!」ってリアクションしてくれたんだっけ……今にして思えば、あれはとってもありがたいことだったんだなぁ。

 そんなことをしみじみと考えながら、そして学生たちのなんとなく浮かれた雰囲気なんかも感じながら朝食を済ませ、自室に戻る。


「キズナ君、今日から2泊3日の野営研修があってね、ちょっとのあいだ独りにさせちゃうことになるんだ、ごめんよ!」


 一応、昨日の晩に部屋の魔素濃度を一定に保ってくれる魔道具の確認も済ませてあるが、念のためにもう一度。

 うん、魔石もしっかりセットされているし完璧。

 そして悪い奴の侵入防止のため、魔力の防壁で部屋の中を覆う。

 たぶんこれで、キズナ君の安全は守られるはずだ。

 さて、準備も整ったことだし、そろそろ行こうかな。


「それじゃあキズナ君! 少しのあいだお別れだ、またね!」


 そうして少しばかりの寂しさも感じつつ、部屋を出た。

 キズナ君のためにも、無事に帰ってこなくちゃだね。

 そんなことを思いつつ、集合場所へ移動。

 ふむ、ロイターたちも既に来ているようだ。


「揃ったわね、それじゃあ先生に報告に行ってくるわ」


 そう言い残し、ファティマが先生のもとへ行き、マジックバッグを渡されて帰ってきた。

 そしてそのあいだにも、続々とパーティーが集まっていく。

 すべてのパーティーが揃い、時間になったところで野営研修の出発式が始まる。

 まぁ、学園長の挨拶とか、学年主任の諸注意とかそんな感じ。

 あとは、野営研修で課される課題の説明かな。

 ちなみに課題の内容としては、さっきファティマが持って帰ってきたマジックバッグに、研修中に集めたものを収納して提出することである。

 それはモンスターの素材でもいいし、薬草とか木の実でも、価値のあるものならなんでもオッケーだ。

 これも成績に影響するので、ノーコレクションでフィニッシュなんてバカなマネはできない。

 というわけで、わりと本気で収集にあたる所存である。

 ふっ、人呼んで「根こそぎのアレス」とは俺のこと!

 それから、今回の野営研修は学園の近場でおこなわれるが、場所としては学園都市から北西の方角に広がる森となる。

 そしてあんまり奥に行き過ぎると、教師や騎士に止められるらしい。

 そう、野営研修を安全におこなうため、教師だけでなく騎士も護衛任務にあたるとのことらしい。

 ……原作ゲームではその騎士連中はなにをしてたんだって気もしないではないが、そこはまぁゲーム的なご都合があったのだろうということにしておく。

 それと、教師や騎士は当然のことながら、生徒たちに気付かれないよう姿を隠して巡回しているらしい。

 加えて、騎士なんかは特別に隠形に優れた奴が選抜されているとのことで実に恐れ入る。

 そんなわけで、見られている可能性を考慮して、野営研修で集めたもの以外をマジックバッグに入れるだとか、ほかのパーティーから強奪するといったことを含めた、いろんな意味でムチャなことはすんなよってことになる。

 そんなアレコレの説明が終わり、ようやく野営研修がスタートだ。

 よーし、いっぱい狩っちゃうぞぉ!

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