第143話 人には果たすべき役割がある
「準備はいいかしら? よければ私たちも出発しましょう」
各パーティーが続々と出発していく中、俺たちのパーティーもファティマの掛け声とともに出発を開始する。
ただ、さほど進んでいないのに、もはやテントを張るなど野営の準備を始めているパーティーがあった、それも複数。
そしてテーブルなんかも用意して、早々にお茶会なんかを始めているのだ。
正直、「お前らマジか……」という気持ちになった。
とはいえ、オール令嬢パーティーなんかについては、今まで荒事とは無縁な感じで生活してきて、それはこれからも続く予定なんだろうなという気がしないでもない。
しかしながら、将来領地でモンスターのスタンピードが起こって人手が足りなくなりました、なんてことがあった場合大丈夫なのだろうかという疑問も湧いてくるが……
そんなことを考えていると、ファティマが声をかけてくる。
「彼女たちは、中央や文系貴族の令嬢ね。王都に近い領地では王国騎士団によってしっかりモンスターの間引きもされているし、そもそも領地を持っていない貴族家もあるわね。そうした戦闘に重きを置いていない貴族家の令嬢ならあんなものよ」
「そうか……だが、結構な数の男もいるぞ?」
「たぶんそれって、寄子貴族の人じゃないかな?」
俺の疑問には、パルフェナが答えてくれた。
なるほど、親分の娘に従う子分の息子というわけか、あの中には「本当は……俺も戦いてぇ……」って奴もいるのかもしれないな。
もしそうなら切ないねぇ。
……と思ったが、緩みきった表情の小僧ばかりだし、その心配はあんまりなさそうかな。
あれが演技だと言うのなら、「もはやお前は俳優になれ!」って思ってしまうよ。
「寄子貴族でなければ、文官志望の方でしょうね」
「そうだな、男だからといって全員が騎士団や魔法士団を目指すわけではなかろう」
そこにサンズとロイターがコメントを添えてきた。
ふむ、言われてみればそうだな。
でもなぁ、前世で普通レベルの大学への受験勉強ですらひーひー言ってた俺としては、文官とかマジ勘弁って感じ。
今習っている学園の学科だって、前世知識に加えてゲームの設定資料だと思ってるからやれてるみたいなところもあるし。
……あとはまぁ、エリナ先生にいいところを見せたいっていうのもあるね。
それになにより、異世界転生を果たした身としては、せっかくの魔法がもったいないっていうのが一番大きいね。
そう考えると、やはり俺はこの世界で魔法士として生きていきたいのだと改めて思うのだった。
こうして、ちょっとした雑談なんかも交えながら森の中を進む。
一応魔力探知もキッチリ発動させているので、警戒をおろそかにしているわけではないので、その辺は心配ご無用。
それに、ここはまだゴブリンゾーンだしさ。
ちなみに、野営研修で予定されている範囲には、はぐれオーガの反応がないので、ひとまず安心といったところか。
拠点確保が終わって落ち着いた頃にでも、ゆっくりと探してみるとするかな。
それからしばらく森の中を歩き、ようやくオークゾーンに入った。
さて、そろそろ本格的にオークを狩りつつ、薬草なんかも採集しちゃいましょうかね?
そんなことを思いつつ魔力探知でオークの所在を確かめるとともに、保有魔力量の多い草を探し始める。
お、早速いい感じの草があったぞ、まずはこれからいただきましょうかね。
そうして、魔力高草の方向にパーティーを誘導する。
これまでのパーティー活動を経て、俺の魔力探知に対するメンバーからの信頼は確かなものとなっている。
そのため、進む方向に関しては、俺の提案をわりと聞いてもらえるってわけ。
こうやって独自のポジションを築いていけば、異世界名物パーティー追放だって食らわずに済むだろう。
あ、でも、異世界転生の先輩諸兄の中には、戦闘に役立たないからって捨てられていた人もいたよな……
ま、まぁ、俺は魔力探知だけの男じゃないし? 基本は魔法をドカドカ撃ち込んだり、トレントブラザーズとともにボコボコにしたりなんかしちゃう戦闘タイプだからさ、そんな簡単に追放なんかされないよ!
というか、もともと悪役ポジションだった俺のほうがこういう場合では追放する側なハズ!!
……あ、でもゲームのシナリオでアレス君は追放されてしまうんだっけ。
むむっ、ゲームの強制力がどう出てくるか、ここは注視せねばだな!!
「……相変わらず表情をころころと変えて、面白い顔をするわね」
「……ほっとけ」
ファティマめ、こういうところでは必ずツッコミを入れてくるからな。
……まったく、ありがとうだよ!
こうやってキッチリとツッコミを入れてくれる奴がいると、俺のボケも冴え渡ってくるってなもんよ!!
これからもその調子で、よろしく頼むぞ!!
「……また変なことを考えているわね」
「ふっ、人には果たすべき役割がある、俺はそのことについて考えていただけだ」
「おい、それは今考えなければならないことなのか?」
おおそうだった、ロイターもなかなか切れ味鋭いツッコミを入れてくれるんだよな。
お前にも感謝しているぞ?
ホント俺はパーティーメンバーに恵まれたものだな!
「……その生暖かい目をこちらに向けてくるのはヤメロ」
「ふっ、そう照れるなよ」
「あ! アレス君の言ってた薬草ってこれだよね!?」
「……こっちに毒草もありますね」
そんな感じでロイターとじゃれ合っていたら、パルフェナとサンズがそれぞれ薬草と毒草を見つけて採集していた。
俺も一応薬草の見分け方を覚えたつもりではあるが、あんなスピーディーに見分けることはできない。
その点、パルフェナとサンズは完璧っぽい。
……まぁ、パルフェナの実家は農業に自信アリって感じだったから、薬草の見分けなんかにも応用が利くのだろう。
サンズはまぁ、当然のことながらロイターのサポートのため、加えてヤベェ師匠の指導のおかげでいろいろやらねばならんって感じだったのだろうことが察せられるね。
ふむ、このパーティーには各自が輝ける場所がある、それは実に素晴らしいことだよ。
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