第209話 勝利を記念してのもの
「レミリネ師匠……諸悪の根源たる国王の成れの果てを討ちました……とはいえ、二度と出現しないというわけではないと思いますが……」
思い出の空き地にて、レミリネ師匠へそう報告した。
ただし、この地にはもう……レミリネ師匠は存在しない。
右を見ても、左を見ても、どこにもいない。
あるのは剣術指導の、幸せだった日々の記憶だけ。
そんな在りし日の煌めきにしばし浸る。
「レミリネ師匠……逢いたいよ……」
そう呟いたとき脳裏に浮かぶ、レミリネ師匠の去り際の笑顔。
……そうだった、俺が沈んでいたらレミリネ師匠の笑顔も曇ってしまうよな。
元気を出さなきゃ。
こうしてレミリネ師匠と過ごした日々に思いを馳せて過ごした。
「レミリネ師匠……そろそろ行きますね……いつかまた、どこかで……」
そう言葉を残し、この場を後にした。
これで気持ちに区切りを付けよう。
大丈夫、俺にはレミリネ師匠の遺してくれた剣がある!
俺の剣には、レミリネ師匠の剣が宿っているんだ!
まだ完全にものにしたとはいえないが、いつか必ず!
俺、頑張ります! レミリネ師匠!!
その後、ダンジョンの出口へ向けて歩いていたときのこと。
「オォ! オォォ!!」
「オォォォ!」
「ん? おぉ……」
なんか、親子らしきノーマルスケルトンが親し気に手を振ってきたので、こちらも手を振り返してみた。
「オォォ!!」
「オォ!!」
うん、喜んでくれてるみたいだね。
そう思うと、なんだか俺も嬉しくなってくるよ。
「お、おい、なんでアイツ……あんなにスケルトンと仲良さそうにしてるんだ?」
「んなもん、俺にわかるわけねーべ」
「あのちっちゃいスケルトン……なんかちょっと、カワイイね」
「えぇっ!?」
「……そりゃねーべ」
俺とノーマルスケルトンたちとのやりとり……ほかの冒険者たちの目には奇異に映るだろうなぁ。
というか正直なところ、俺にもまったく戸惑いがないってワケではない。
ただ、おそらく俺が愚王を討伐したってことが彼らに伝わってるんだろうなって推測はできるから、いくらか平静を保てているだけだ。
あと、城に攻め込む前にレミリネ師匠の剣を見て彼らが友好的だったからっていうのもあるね。
そんな感じで、フレンドリーなノーマルスケルトンたちとそれを見てポカンとしている冒険者たちに見送られながら、ダンジョンの出口まで移動したのだった。
そしてダンジョンから出たあとは、ギルドの出張所に向かう。
「攻略を終えて戻ってきました、プラウさん」
「おう、帰ってきたか、お疲れさん。そんで、どうだったよ?」
「それがですね……」
愚王を討伐したにも関わらず、ボスドロップがなかったこと……そしてさらに、宝物庫の宝箱の中身が銅貨1枚だった話をした。
換金のために魔石をマジックバッグから取り出しながらね。
「なんだそりゃ、シッケシケじゃねーか! でもまぁ、この魔石は間違いなくスケルトンキングのものだよなぁ……それなのにボスドロップがねぇとは……いや、ちょっと待てよ……そういや、ごくまれに大ハズレなキングが出るって話があったんだっけか? つーか、キング自体の出現率がそもそも結構低いからなぁ……」
あらら、プラウさんが思考の海に潜っちゃった。
それから、プラウさんの話が実話だったとしたら、俺のほかにもボスドロップをもらえなかった冒険者がいたってことか。
その冒険者も、さぞかしイラッときただろうね……
誰かは知らんが、その気持ちを共有できそうだ……フッ、俺たちは仲間さ!
「……そういえばアレス、確か宝箱に銅貨が入ってたっていったよな? もしよかったら、ちょっくら見せてくんねーか?」
「もちろん、構いませんよ……これです」
フフッ、アレスの鉄板ネタが火を噴くときがきたぜ!
そう思いながら、マジックバッグから銅貨を取り出した。
「……ああ、なるほど……やっぱりな……」
「やっぱり?」
プラウさんは何やら納得のご様子。
「おっと、わりぃ……やっぱりっつーのはな、この銅貨がイゾンティムルの末期に鋳造されたものだったからだ」
「ほほう、末期ですか」
「ああ、それで末期の銅貨が出てきたっつーことは、オメーが戦ったのはイゾンティムルが崩壊寸前のときのキングで、ダンジョンはそれを再現したんだと思うぜ? だからいろいろとシケてんだろーな」
「崩壊寸前のときのキングを再現したということは、そうじゃないときのキングが再現されることもあるということですか?」
「この結果から考えると、たぶんな。キング……っつーか愚王が即位した当初のイゾンティムルはめっちゃ裕福だったからな、ボスドロップや宝物庫の宝箱がすんげぇときのキングは、そういった状態のキングをダンジョンが再現したってこったろうよ」
「なるほど」
真偽のほどはわからんが、俺が討つべきはレミリネ師匠を死に追いやった後の愚王だからな……むしろ大アタリを引いてたってわけだ。
もしかしたらこれは……ダンジョンさんの配慮もあったかもしれんね。
「それにしてもアレス、この銅貨は意外とお宝かもしんねぇぞ?」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ、イゾンティムル最後の輝きともいえる、王都防衛戦の勝利を記念してのものでな……財政がヤベェ中で無理して鋳造したもんだから、まずもって数が少ねぇ。そして、現存してるのはほとんど流通済みのもんだからな、こんだけキレイなやつはたぶんねぇだろ」
「……王都防衛戦?」
「おうよ……つっても歴史家のあいだでは、この王都防衛戦は単なる小競り合いを大げさにいってるだけとか、ひでぇのだと捏造じゃねぇかって説もあるけどな……まぁ、当時は王国中の兵士をかき集めて外征に出てたときで、そんな中で愚王の指揮と近衛騎士の奮戦で王都の防衛を成し遂げたって話だからなぁ、ウソくせぇって思っちまうのもしゃーねぇよな」
はぁ? 愚王の指揮と近衛騎士の奮戦だと!?
んなわけあるか!!
「おい、アレス……おっかねぇ顔して、どうしたんだ?」
「プラウさん……王都防衛戦は本当にあったことです……ですが、防衛成功の立役者は別にいました……それは本来なら『レミリネ』という女性騎士の功績なのです」
「へぇ、そうなのか……って、おい! もしかして、あのやたらとつえースケルトンナイトがそのレミリネってヤツだったっていうんじゃねぇだろうな!?」
「はい、そのとおりです」
「……ああ、そういうわけか……なるほどなぁ……オメーがやたら熱心にヤツに挑戦してたこととか、いろんなことがそれでいっぺんに納得できちまったよ……」
ありがたいことに、プラウさんは俺のいうことを荒唐無稽と切り捨てず、信じてくれた。
少しでもレミリネ師匠のことを知る人が増えてくれたら、なんて思いもあったので、とても嬉しい。
こうして、プラウさんにレミリネ師匠の話をしていたところ……
「お前だな! 先日、冒険者パーティーに暴力を振るったならず者というのは!!」
なんか知らんが、いつも態度の悪いギルド職員の男が絡んできた。
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