第210話 意図が感じ取れる
いつも態度の悪いギルド職員の男が、何やらゴチャゴチャいっている。
話の内容としてはどうやら、この前の王国騎士団入団試験に不採用となってレミリネ師匠に逆恨みで襲いかかろうとした冒険者パーティーの奴らが、俺から襲撃を受けたとかいってコイツに訴えたらしい。
くっだらねぇ。
よくもまぁ、そんな惨めで情けなさの塊みたいなマネができたもんだ。
そんな精神性しか持ち合わせてないくせに、よく騎士になろうなんて思ったな……呆れ返ってものもいえんよ。
「おいおい……アレスがんなことするわきゃねーだろ……その冒険者どもが適当吹いてただけじゃねぇのか?」
「適当なものか……それについ先ほども、スケルトンどもがこのならず者を崇めるような態度を取っていたと冒険者たちが証言していたのだからな、それも1人や2人じゃないんだぞ? このならず者は、スケルトンに味方をする異常者だ……いや、我々人間族の敵なのかもしれんな!」
なるほどねぇ、見ようによっては俺がスケルトンびいき……というかスケルトンの仲間に見えちゃうわけだね。
そして、表現の仕方によっては俺が人間族の敵となってしまうんだねぇ。
ま、原作ゲームでは悪役を割り当てられていたのだから、そういった意味では俺ことアレスさんにはピッタリかもしれない。
いやまぁ、悪役転生の先輩諸兄を見習って俺も破滅回避をするつもりだから、人間族の敵になんかなるつもりはないけどね。
「その程度で人間族の敵になるわきゃねーだろが……そもそもテメーもスケルトンダンジョンの管理に携わるギルド職員なら、スケルトンがわけわかんねぇことをしてくることぐれぇ知ってんだろ、いまさら何いってんだ!」
俺のことを擁護してくれてありがとう、プラウさん。
「……平民ごときが、いちいち口答えするな!」
「んだと、テメー!」
「プラウさん、俺のためにありがとうございます……ですが、これ以上は大丈夫です……」
「そういうことだ、平民は黙っているがいい」
「こんのヤロウ……」
「プラウさん、ここは私に任せてください」
「チッ……わーったよ」
この男のいうことがくだらな過ぎるのと、プラウさんの気遣いが嬉しくて、ついつい出遅れてしまったが、本来なら俺がササッと対処しなきゃいけないことだったからね……
「それで、冒険者どもが訴えてるからどうだっていうんだ?」
「まぁ、私としてもそこまで事を大きくすべきではないと思っている」
「ふぅん……で?」
「だからな、特別に私があいだに入って事を丸く収めてやろうというのだ」
ああ、そういうことか……つべこべいって結局のところ、仲介手数料を寄こせって話だな。
「……なるほどな」
「おお、わかってくれたか! 任せておくがいい、私が上手く話をまとめてやるからな!!」
「いや、そうじゃない。その件に関しては折れるつもりもないし、グダグダと話し合うのも面倒だからな、サクッと決闘で決着を付けようじゃないか。というわけで、その冒険者たちを呼んできてくれ」
「は?」
「なんだったらお前もそっちの冒険者側に加わってくれても構わんぞ? お前も貴族の端くれなら、いくらか武の心得もあるのだろう?」
そういいながら、魔力圧を当ててみた。
すると、男の顔色がみるみると悪くなっていく。
「ど、どうやら……何か手違いがあったようだ……悪いが、これで失礼する」
そうして、慌てて退散していった。
すぐ逃げるぐらいなら、中途半端に絡むなよっていいたいところだ。
そして俺自身、先ほどの愚王戦で顔をのぞかせたイキリ虫なところがまだ少し残っていたからね……
「……アレス、うちのバカな職員が迷惑をかけて悪かったな」
「いえ、プラウさんが謝る必要などありませんよ。それにどうやら、ちょっとした手違いだったみたいですし」
「……すまねぇ」
「そんなことより、さっきの話の続きですよ!」
「そう、だな……」
とまぁ、多少ぎこちなかったものの話を再開し、次第にいつものペースに戻ったのだった。
「ああ、そうそう……さっきの銅貨だけどよ、このスラブケースに入れとけ」
そういって、透明なアクリル板みたい感じのスラブケースとやらを渡された。
「これは?」
「アンティークコイン用の保存ケースだ。いわゆる、コレクターの必需品ってやつだな」
「なるほど……ってこれ! 時間停止の効果が付与されているじゃないですか!?」
「まぁ、アンティークコイン用だからな」
「そんな高価なもの、いただけませんよ!」
「いやいや、そんなたいしたもんじゃねーから気にすんなって、マジで!」
「そうですか……それでは、ありがたく使わせてもらいます」
「おうよ! それとな、一度入れたらケースを壊さないと取り出せなくなるから、そこは注意しといてくれ」
「わかりました」
というわけで、銅貨をケースに入れた。
ちなみに、銅貨のデザインは愚王の肖像ではない。
というか、その場合は即売り払っていただろう。
じゃあどんなデザインかというと、表面が花と剣で、裏面が国の紋章となっている。
そしてこれが王都防衛戦の勝利を記念して鋳造された銅貨なのだと知った今、デザインした人の意図が感じ取れる気がしてくる。
きっと、レミリネ師匠のことを想ってのデザインなんだろうってね。
ただ、愚王を筆頭に国の上層部から待ったがかからなかったのが不思議ではある。
まぁ、銅貨ならいいやって感じだったのかな?
それどころか、デザインなんか気にしてなかったとか?
その辺のところはわからないが、とにかくこれはレミリネ師匠の功績を示すものとして大事にしようと思う。
そうして、プラウさんと楽しくおしゃべりをして過ごし、そろそろ学園都市に帰ろうかというところ。
「……プラウさん、今回スケルトンダンジョンを攻略したことで、今までのような頻度ではここに来ないと思うので、一度お礼をいわせてください。今日まで大変お世話になり、ありがとうございます!」
「なんだよ、そんなかしこまることでもねーだろ。ま、気が向いたらいつでも来たらいいさ」
「はい、そのときはまた、よろしくお願いします!!」
「おう! そんじゃあ、元気でな!!」
「プラウさんも、お元気で!!」
そう挨拶をして、ギルドの出張所を後にしたのだった。
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