第211話 すっげぇ嬉しそうに笑っている
「……この屋台通りも、これから来る頻度が低くなっていくんだろうなぁ」
ギルドの出張所を後にし、ダンジョン前の屋台通りを歩きながら、そんな呟きを漏らす。
そんなわけで、いくらか顔見知りになった屋台の店主たちへのちょっとした挨拶がてら、屋台メシを買って帰ることにした。
……まぁ、ダンジョン帰りにはいつもしていたことなんだけどね!
そして今日は、いつもより大奮発しちゃおう。
フッ、愚王やその側近どもの魔石マネーが潤沢にあるからね、資金に余裕があるのさ!!
愚王やその側近どもからのスペシャルなドロップアイテムはなかったけど、仮にも奴らはキングやジェネラル……最低でもナイトクラスではあったからね、魔石そのものは身分相応なんだ。
……しかしながら、ダンジョンさんサイドに立って考えると、魔石というコストをかけて用意したスケルトンの上位種があんなクソザコどもじゃあ、マジ役立たずだったんじゃないかって思っちゃうよ。
そこでダンジョンさんが、「フッ、あえてのクソザコさ」なんてコメントをしてくれたら笑ってしまうだろうなぁ。
なんて、くだらないことを考えながら、屋台メシを購入していく。
そのあいだ……
「アレッサン、チャッス!」
「コンチャッス!」
「コンチス!」
「おう!」
俺に挨拶をしてくる冒険者たちも、いまだに健在である。
冒険者にもいろんな奴がいるもんだなぁ。
なんて当たり前なことを、しみじみと考えていたところ……前方に軽薄そうな笑顔の少年と目が合った。
……うさんくさい導き手のゼンだ。
「久しぶりだねぇ……といいつつ、僕はずっと君を見ていたけどね!」
「……気持ち悪い」
「わお! ナチュラルな罵倒! でも、そんなアレス君もステキさ!!」
今気づいた……さっきの絡んできたギルド職員の男や、下手したらレミリネ師匠に襲いかかった冒険者どもはコイツの指金だったのだろうと。
「……奴らは、お前に導かれたってわけだな?」
「う~ん、残念! 違いますッ!!」
コイツにクイズ番組の司会は無理だな……不快感が半端ない。
「アレスく~ん、ぼかぁ悲しいよぉ~! あのねぇ、あんな連中をいくら導いたところでどうにもならないんだよ……つまんないんだ……そこを勘違いしちゃいけない」
「あっそう……じゃあ、なんで出てきたんだ?」
「ふっふっふっ、その質問を待っていた! 情報通な僕が、さっきの彼がなんで絡んできたのかを教えてあげようと思ったのさ! どうだい、僕っていい奴だろぉ?」
「くだらん、理由は単なる小銭稼ぎ程度の話だろ」
「チッチッチッ、甘い! 君がさっき買ってた綿菓子ぐらい甘いよアレスく~ん!!」
……めんどくせぇ。
「それでね、君も気付いたとおり彼は貴族家の人間なんだけどさ……結構な出来損ないでねぇ、そもそも実家が文系貴族だった上に本人も努力を怠ってたからさ、騎士にも魔法士にもなれない……かといって文官として採用されるほど賢くもないときたもんだ。それでどうしようかってところで、実家のコネが発動して冒険者ギルドの職員にねじ込んでもらったというわけさ。いやぁ、彼の家族も苦労したことだろうねぇ」
「……ふぅん」
「ただね、彼は自分の至らなさをちっとも理解していないからさ……『なんで、高貴な身分の私がこんな小汚い連中の相手をせねばならんのだ!』って日々イライラを募らせていたんだ。ま、そんな彼だからさ、当然のことながら実家で後継者として扱われるわけもなくね……というか、だからこそ外に出されたんだし……」
「まぁ、あの態度なら、そんなものだろうな」
「そんな毎日の中で、君がゴブリンエンペラーの帝冠を所持しているって情報を入手してね……その辺のことは大好きなエリナ先生に聞いて君も知っていると思うけどさ……それで、あの冒険者たちの話をチャンスと捉えて、君から上手い事ゴブリンエンペラーの帝冠を取り上げようと思ったんだ」
「ああ、確かに気を付けるようにいわれたが……あれは程度が低過ぎだ……」
「でも、彼は大真面目だったのさ。大真面目に君からゴブリンエンペラーの帝冠を譲渡されて実家の後継者に指名されようって考えてたんだからねぇ」
「あんな奴が家を継いだら、その代で終わりそうだな……あの愚王のように」
「あははっ! だろうねぇ!!」
なんか、すっげぇ嬉しそうに笑っている。
そこまで面白いことをいったつもりはないんだが……これも無自覚系ってことでいいのかな?
「いやぁ、さすがはアレス君だ、とっても面白かったよ! ああ、それとまだいってなかったね、愚王討伐おめでとう!!」
「あ、ああ、まあな」
「愚王討伐を知った人々の喜び、あれはとても素晴らしい光景だったなぁ」
「そ、そうか……」
表面上は平静を装っていたが、ノーマルスケルトンたちの歓迎ぶりに内心では戸惑っていたんだけどな。
「やはり! アレス君は導き手として超一流だね!!」
「またそれか……悪いが、俺は導き手なんかじゃない」
「ふふっ、別にそれでもいいよ……でも、君がどう思おうと……君が導き手であることには変わりないのだから……」
「あ、おい!」
うさんくさい導き手はそう言葉を残し、いつぞやのように蜃気楼のごとく姿を消した。
しかしながら、屋台通りにいた周囲の人々は誰も気付いていないみたいだ。
なんというか……まぼろし? って感じだ。
「ああ、それともう一つ。君と仲良しのプラウさんだけどね、元B級冒険者で本人も実力者だし、貴族家とのツテもそれなりにあるから心配いらないよ!」
「え?」
声がしたほうに顔を向けたが、うさんくさい導き手の姿はなかった……
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