第184話 同じことに夢中

『コンナ、イシグライ!』

『オオォォォ!』


 なぜかゲンが、投石スケルトンの投げる石を魔鉄の棒で打ち返している。

 ……そのうち野球をやり始めそうな勢いだね。

 いや、この世界にあるのかは知らないけどさ。

 でもなぁ、原作ゲームを作ったのが日本人だからなぁ……あってもおかしくないよね。


『ギャギャ!』

『カタカタ!』


 その隣では、ゴブリンハグとバターナイフスケルトンが戦闘……といえるか微妙なじゃれ合いをしている。

 ……あのバターナイフ、俺にくれたわけじゃなかったんだね。


『……ギィ』

『……』


 そしてさらに、武骨な剣を磨きご満悦な表情のゴブリンエンペラーと、その姿を見て嬉しそうに目を細めているゴブリンジェネラル。

 この2人も……相変わらずだな。

………………

…………

……


「……まぁね、これだけ続くと夢だろうなって途中で気付くよね。それにしても、なんというか……キズナ君、俺の夢もだんだん賑やかになってきたなって感じだよ……そしておはよう、今日もナイスグリーンな葉っぱだね!」


 さて、キズナ君への挨拶も済んだところで、今日は地の日……学園の授業がまた始まる。

 それはつまり、エリナ先生に会えるってことだね、やったー!

 そんな期待感にワクワクしながら、まずは朝練だ。

 そして今日からは、ランニング中にスケルトンナイトのお姉さんの足運びや体捌きなんかも交えていこうかなって思う。

 ほら、ボクシング漫画とかであるようなランニング中にシャドーをやるみたいな、あんな感じさ。

 そんで、そういう動きをこう、自然にスッとできるようになったらワンランクアップって感じがするよね!

 なんて思いながらいつもの場所に向かうと……ファティマが演武をしていた。

 その姿は優雅でありつつも、一つ一つの動きには洗練された鋭さもあり……そこまで武道に詳しくはない俺でも、凄いということだけはよくわかる。

 そんなファティマの演武にしばし見惚れていたところ、一通りの構成が終わったのだろう、こちらにやってきたので、拍手で出迎えた。


「見事な演武だったな」

「そう、ありがとう」


 ファティマめ、なかなかクールに決めよる。


「ふふっ、私もあなたに抜かされるわけにはいかないもの」


 なるほど、そういうことね。

 まぁ、そうかなって気はしないでもなかったが、自惚れてると思われそうだったから黙ってたみたいなところがある。


「ふむ、現在の魔法なしでの勝率的に、お前かパルフェナ辺りが俺の最初の目標になるわけだしな」

「そういうことになるわね……まぁ、私も簡単に勝利を譲るつもりはないけれど……それに、魔法でも早いところあなたに勝利を収めたいものね」


 そんなファティマの表情は穏やかながら、どこか凄みが感じられる。

 コイツ……模擬戦の成績自体はロイターやサンズに一歩及ばないながら、どこかまだ底を見せていない感じがするんだよな。

 物理戦闘力は今の俺より格上なことは確かだし、魔法に関しても気を抜いているとやられかねない気がするし……まぁ、つまりはコイツも素晴らしいライバルってわけだ。

 やはり、女の子との戦闘は苦手だとかなんとかいってられる場合じゃないな……

 昨日はスケルトンナイトのお姉さんという師匠も見つけたことだし、これからはそういったことにも慣れていかないとだな。

 そんな朝の語らいを終え、それぞれの活動に戻る。

 ファティマからもいい刺激をもらえたからな、俺も朝練に気合を入れていくぞ!

 そうして、約1時間ほどの朝練をこなし、シャワータイムを経て朝食へ。


「いやぁ、野営研修が終わってから休みが続いてたでしょ? なんだか、体が休みに慣れちゃっててさ~」

「すっげぇわかる! 授業とかたる過ぎぃ! って思っちまうもんな!!」

「俺っちはね、休みの間中ずっと頭脳格闘技に没頭してたからかな……頭がまだそっちのモードなんだよね」

「いやぁ、頭脳格闘技とか威圧感バリバリにいってるけどそれ……ボードゲームでしょ?」

「……まぁ、そういう表現の仕方もあるっちゃあるね」

「ぜんっぜんわかってない! あれはな! 昔のいくさ人が『たたかい』とはなんぞやと思考の限りを尽くして編み出した由緒正しき頭脳格闘技なんだぞ!! それを単なるボードゲーム呼ばわりとは! なんたる侮辱か!!」

「いやぁ、なんというか、熱くなっているところ悪いけどさ、君もその頭脳格闘技とやらで遊んでたってだけでしょ?」

「……うん」


 よくわかんないけど、彼らのいう頭脳格闘技というのは、将棋とかチェスみたいな感じかな?

 なるほど、この連休をそうやって過ごしていた生徒もいたというわけか。

 なんか、前世の俺もそんな感じだったなって思い出されるね。

 ……というか、俺も向こうでは夏休み中、死の直前まで電脳遊戯に没頭していたわけだしな、ほとんど一緒といえるだろう。

 ああ、でも、今でも結局は同じことをしているといえるかもしれないね。

 カイラスエント王国を舞台として、ゲームでレベル上げをするか、自分の体を使ってレベル上げをするか、その違いだけ。

 まぁ、この世界はステータスの表示がないから、レベル上げといっても感覚的に成長したかなって思える程度だけどさ。

 でもま、前世でも今世でも同じことに夢中ってわけだし、やっぱ俺はこれが好きってことなんだろうな。

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