第626話 あと一歩の底力を養う必要があるだろうな

「ふむ……今のが、東部でラクルスが活躍する要因となった力というわけか……」

「そのとき王女殿下の護衛にあたっていた王国騎士や王国魔法士の方々ですら、思わず手を止めてぼーっと眺めてしまったとウワサされている力ですね……」

「あの光……神々しいという点では、アレスとちょっと似てた気もするけど……でも、同じではないみたいだね?」

「まあ、俺の光属性の魔力は母上由来のものだからな……違って当然さ」


 そして、主人公君のは原作ゲームの設定由来のもの……といったら情緒がなくなってしまうので、勇者の力と呼んでおこう。

 また、「神々しい」と感じられるもう一つの理由として、神様とのつながりもあると思うんだよね。

 俺はいつも、転生神のお姉さんに見守っていただいている……あと、オッサン神とかクール神も一応そうかな……それがきっと、神々しさに顕れているのだろう。

 そう考えると、主人公君は勇者神……と適当に名付けたが、おそらくそういう系統の神様とのつながりによって、あの神々しい光を放つ勇者の力を使えるのだろうと思う。


「……なるほど、リリアン様由来の光か……確かに、伝説的なエピソードには事欠かないお方だったみたいだし、今でも崇拝レベルで慕っているご夫人方も多いからね……」


 ……ほう、セテルタも俺の母上のことを知っているようだ。

 たぶん、セテルタの母上やその年代の使用人辺りから話を聞いたことがあるんだろうね。


「しかも、最近のアレスの活躍を耳にして、その熱もさらに高まっているものね……その証拠に先ほどの試合中でも、うっとりしてアレスを見ている方が結構な割合でいたわ」

「うん、特にアレス君がダークフォグを消すときに出した光……あの光を見ているとき、本当に嬉しそうだったよね」


 まあ、俺としても、そういったお姉さんたちの熱い視線はウェルカムさ!

 なんて思っていたら……


「そのとき、男性陣の中には苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている方もいらっしゃいましたけどね……」

「ああ、いたな……それがアレスの母上に向けたものなのか、アレス自身に向けた嫉妬の視線なのかは分からんが……」


 嫉妬の視線……そういえば、ギドにもご夫人方との接し方は気を付けろっていわれたっけ……

 まあ、想いの先が母上ってご夫人の場合は、旦那の嫉妬がどうとかいわれても知るかって感じだけどね。

 とりあえず、そのことはいったん置いておくとして……


「その中で一番の苦虫を噛み潰していたのは、おそらく俺の親父殿だろうな……フフッ……フフフフフ」

「そういうだろうと思って一応顔色をうかがっておいたけど、無表情は崩していなかったね……さすが若い頃『氷の貴公子』と呼ばれていただけのことはあるって感じだったよ」


 セテルタの奴……親父殿の若い頃のあだ名まで知っているのか……

 まあ、侯爵家の子息ともなると、いろいろと情報通になるのも当然かもしれないけどね……といいつつ、アレス君の記憶にそういうのはほとんど残ってなかったけどさ……

 しかしながら、無表情を崩していなかったとか……


「へぇ、それは親父殿も頑張ったねぇ……ブフッ……」

「まったく……仲の悪い父子め……」

「まあ、こうやって笑っていられるだけ、まだ大丈夫なのだろうとは思いますけどね……」

「アハハ、その辺は僕とエト姉の関係に似て……なかったですね! はいッ!!」


 セテルタがアホなことを口走りかけたので思いっきり睨んだった!

 でもまあ……父親という存在について、俺自身の前世の父さんに対するイメージもなんだかんだ混じっていて、それなりに親父殿に対する意識がマイルドになっているかもしれない。

 とはいえ、原作ゲームの印象から、味方だとは一切思わないけどさ。

 そして向こうが明確に命を狙ってきたら、こっちも「よしきた!」って感じで覚悟を決めるだろうが……現状、そこまではには至っていないもんね……


「……あら、そんな顔で睨んでいると『氷の奇行子』と呼ばれてしまうわよ? それでもいいのかしら?」

「……なッ!? それはマズい!!」

「ファティマちゃん……それ、意味が違うよね……」


 なんか、話題が主人公君の力からどんどん脱線していってしまった……

 そうして話をしているうちに、トーリグが戻ってきた。


「いやぁ……負けちまった……そして、すまねぇなアレスさん……待っててくれっていったのによ……」

「惜しい結果にはなってしまったが、それでもナイスファイトだったぞ! そして、機会はまだまだあるから安心しろ……とりあえず、また夕食後の模擬戦等でみっちり相手をしてやるからな!!」

「そっか、機会はまだまだある……か……よっしゃ! そんじゃあ、またよろしく頼むぜ!!」

「うむ!」

「まあ、トーリグの技量そのものは負けていなかったはずだ……そこで、あと一歩の底力を養う必要があるだろうな」

「そうですね……まあ、その底力っていうのは、僕ももっと養う必要があるでしょうけれど……」

「確かに……それは僕も同感だね」


 ここで、係の人が次の対戦者を呼びにきた。


「……トーリグ、この借りはひとまず私が返してくるとしよう」

「ヴィーン様……はい! よろしくお願いします!!」

「ヴィーン様なら! 勝利は確実ですよぉ!!」

「そうです! 間違いありません!!」


 次はヴィーンの出番……そして相手は主人公君と同じく、王女殿下の取り巻きであるマトゥ。

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