第627話 マジで分かりづらいんだよね……

「……始め!!」

『今、審判の掛け声により1回戦第3試合、ヴィーン・ランジグカンザ対マトゥ・ケウダリの試合が開始となりました! そこでスタンさん、この試合はどう見ますか?』

『そうですね……まずヴィーンさんは、あまり感情を表に出さず一つ一つの攻防を淡々と積み上げていくタイプで、対するマトゥさんは、むしろ感情を表に出して勢いを出していくタイプといった印象があります。そのため、ヴィーンさんの対応能力を超えて、マトゥさんが勢いで押し切れるかどうか……そこがポイントになってくると思います』

『なるほど、冷静対激情の勝負となりそうですね……また、ヴィーン選手は通常の予選期間中に本選進出を決めましたが、マトゥ選手はそこでは決め切れず、その後におこなわれた予選通過決定戦を制しての本選進出となりました。このことも、勢いという点において影響が出てくるかもしれませんね?』

『はい、今年の予選通過決定戦は通常の予選期間で決まらなかった16番目の枠を8名で争うこととなり、なかなか熾烈を極めました……ただ、その熾烈な中を勝ち上がってきたことが、気持ちの面でマトゥさんの勢いを後押ししてくれる可能性は大いにあるでしょう』

「えぇ……予選通過決定戦って、そんな頻繁にあるわけじゃないんだよな?」

「ああ、あくまでも通常の予選期間で決まらなかった場合だけって聞いた気がする」

「そして、その場合も2人とか3人ぐらいでやるのがほとんどで……8人はさすがに多過ぎだよ……」

「俺が聞いたところによると、1年男子の予選は15番目までは全勝だったらしいぜ? そんで8人が、たった1敗しただけで予選通過決定戦から這い上がってくるしかなくなったって話だ……」

「ひぇぇっ! そりゃぁ、解説の奴が熾烈を極めたっていうわけだよ……」

「じゃあ、ヴィーンって奴とマトゥって奴の実力に、そこまで差はないってことだな!?」

「まあ、基本的にはヴィーンサマのほうが実力は上なんだろうけど……マトゥサマがノリにノッて本来の実力以上の力を出せたら、どうなるか分かんねぇだろうなぁ……」


 ナウルンとスタンの話を受け、一般の観客がどのような反応をしているか耳にしていた。

 そして、事前に情報を集めて観戦に来ている人も結構いるんだなぁって思った。


『さて、予想された展開というべきか、押せ押せのマトゥ選手に対し、一つ一つ丁寧に対応していくヴィーン選手といった流れで序盤の攻防が進んでいきます』

「ここだッ!」

「……」

『剣による猛攻、それによってヴィーン選手の防御をそちらに集中させ、隙を突いてファイヤーアローで仕留めにかかるマトゥ選手! だが、ヴィーン選手は障壁魔法を生成し、淡々と処理していく!!』

『マトゥさんの狙うタイミング自体はいいと思うんですけどね……ただ、ヴィーンさんの対応力が上を行っているといったところでしょう』

「オラァ……ッ!? ぶねェ……!!」

「……」

『これです! ヴィーン選手の恐ろしいところは、ふとした瞬間にカウンターを放ってくるところですッ!! そしてマトゥ選手、少々かすったようですが、致命的なダメージはギリギリで回避しました!!』

『ヴィーンさんは、いわゆる無拍子といった予備動作のない動きが特に上手く、対戦者が気付いたときには攻撃を入れられてしまっていた……そういうことがよくありますからね……』

『はい、予選期間中も、そうして敗北を喫した選手たちを数多く見てきました……ここは、そんな一撃をなんとか回避できたマトゥ選手の勘の鋭さを褒めるべきところかもしれませんね?』

『ええ、確かにそうですね』


 ホントね、ヴィーンって奴は無口で考えていることが分かりづらいだけじゃなく、戦闘中も無拍子でいきなり攻撃を入れてくるから、マジで分かりづらいんだよね……

 それに俺も、模擬戦で対戦した際は、魔纏を常時展開していなかったら即アウトだったかもってことが何度もあったし……


「クッ! ……ならッ!!」

「……」

『接近戦は分が悪いと判断したのかマトゥ選手、距離を置いて魔法戦に切り替えました! そしてヴィーン選手はといえば、魔法戦を受けて立つつもりのようです!!』

『人によっては、ここを追撃チャンスと捉えて攻め込んだのでしょうが……ヴィーンさんは落ち着いていますね』

「……俺はこんなところで負けてらんねぇんだ! だからッ!!」

『そしてマトゥ選手! ファイヤーアローの本数をどんどん増やしていき……連射態勢に入りましたッ!!』

『あのファイヤーアロー1本1本には、とてもよく魔力が乗っていて、ただのファイヤーアローと見くびっては痛い目を見ることになりそうです』

「……」

『おっと、ここでヴィーン選手! ただの障壁魔法では不足と考えたのか、ウォーターウォールにスイッチしました!!』

『瞬間的な生成には、無属性の障壁魔法のほうが向いていると思いますが、あれだけ強く魔力が込められたファイヤーアローに対抗するには、水属性のウォーターウォールで正解だったと思います』

『さぁて、次々とファイヤーアローがウォーターウォールに着弾していきますが……このまま削り切れるか……』

『ヴィーンさんもしっかりと魔力を込めてウォーターウォールを生成していますからね……なかなか難しいかもしれません』

「なんて防御力のウォーターウォールだ、チックショ……ウッ!! ……な……にぃ……!?」

『あっとォ!? マトゥ選手、何やらダメージを受けた様子だッ……!!』

『ヴィーンさんが、ファイヤーアローの着弾時に上がった水飛沫に紛れ込ませる形で小さめのウォーターバレットを射出していたようですね』


 気付きづらい攻撃、ヴィーンはマジで上手いからなぁ……

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