第364話 雪を生成

「自分の魔力を同調させるのだ……」

「……うぅ……ん……これで!」

「そうそう、いい調子だ……これはアレス様の障壁魔法だから攻略も難しいが……並のものだったら、今ので支配権を奪えていたかもしれんぞ?」

「……やった」

「おぉ! スゴいじゃん!!」

「よ~し、次はわったし~!」

「オイオイ、次は俺に挑戦させてくれよぉ~」

「ふん、レディーファーストよ!」

「そんなぁ~」


 メルヴァさんの指導の下、今日も元気に使用人たちは俺の障壁魔法の攻略に挑戦している。

 アレス付きの使用人の多くは文系貴族出身で、もともとそこまで魔法に力を入れていなかったようだが、それでも一応学園を卒業してきているわけだからね、最低限の力はあるんだ。

 それがここ最近の訓練……それも圧倒的な真剣さで取り組んでいるのだから、実力の伸びもなかなかというもの。

 というわけで、そのうち俺の障壁魔法も突破できるかもしれん。

 その場合は、さらに強度を増して難易度を上げてやるとしよう、楽しみにしててくれよな!

 そんなことを思いつつ、火の日が始まりを告げる。

 そして起床後は、お決まりの朝練。

 これも一時期は魔法に特化させた朝練にするつもりだった。

 しかし、道路が完成したあとは開発地までの道のりが馬車や人で溢れかえっていたからね……仕方なしに朝練はランニングをメインに戻したのだ。

 とはいえ、魔力操作をしながら走るっていうのは徹底していたので、魔法の練習も並行的におこなっていたとはいえるけどね。

 そんな感じで朝練を終えたあとは自室でシャワーを浴び、朝食の時間だ。


「アレス、領兵たちへの氷系統の魔法の指導だけど、今日もよろしく頼むね」

「はい、お任せください!」


 日を追うごとに、人も物資もどんどん開発地に送り込まれていき、少しずつ領兵の手が空くようになってきた。

 まあ、土木関係などの専門的な技術を持った工兵たちの仕事はまだまだたくさんあるんだけどね。

 でも、専門的な技術を必要としない仕事などは、次々と民間に委託されていっている。

 そして、安全かつ割のいい仕事を求めて冒険者なんかも一時的にモンスター狩りをお休みして、日雇いで続々と集まってきたりもしているようだ。

 そんなわけでここ数日、領内警備やモンスターの間引きなどの仕事が割当たっていない領兵に氷系統の魔法……もっといえば雪の生成を俺が指導しているのだ。

 まあね、あの街は雪があってこその街なのだから、それを維持するためにシッカリと氷系統の魔法の熟練度を上げねばならんということだね。


「ふふっ、アレスのおかげで、よりソエラルタウトらしい軍になりそうね」

「そうだね、ウチの家は氷系統の魔法が得意なご先祖様が比較的多かったって話だもんね」


 なんか、どうやらそうらしい。

 それなのに、兄上は氷系統があんまり得意ではないという……

 とはいえ、ソエラルタウト家の爵位継承には氷系統の適性が要件になっている……なんてことはないので、別にたいした問題ではない。

 だからこそ、兄上もそこまで焦った様子がないのだ……少なくとも表面上は。

 それでもやっぱり「ソエラルタウトといえば氷系統」みたいな風潮もいくらかあるみたいなので、兄上も時間を見つけて練習はしているようだ。

 まあ、そもそもスペックの高い兄上なので、しばらくすれば親父殿に匹敵するレベルに習熟度を高めているはず!

 親父殿のレベルを知らんけど!!

 こうして朝食を終えたところで、さっそく開発地へ向かう。

 ちなみに、先ほどに引き続きメルヴァさんも一緒だ。

 領兵への指導の手伝いというか、取りまとめ役をしてくれる。

 そして指導は午前中だけなので、そのあとは一緒にスノーボードを楽しむことになっている、楽しみだね。

 そんなわけで開発中の街に到着し、集合場所へ。


「うむ、領兵たちもそろっているようだな、結構……ではアレス様、よろしくお願いします」

「承知しました……では諸君、今日もまずは魔力操作から始める!」

「はい!」

「……今日の魔力はご機嫌いかがだろうか? 少し騒がしいかな? 落ち着いているかな? そうした魔力との対話を丁寧にしていくことで、より魔力と親密になっていくのだ! そして、少しずつ……本当に少しずつ……でも確実に己の器が大きくなっていることに気付くときがやがてくるはずだ! それを信じて、魔力と語り合え!!」

「はい!!」


 この魔力操作も、最初は嫌がるというか、めんどくさがる領兵が多かった……

 なので、魔力操作の偉大さを分からせるために、俺対全員の魔法による模擬戦で徹底的に完封してやった。

 それによって、領兵たちは渋々ながらも魔力操作に取り組むようになった。

 まあ、もともとの保有魔力量が違うんだから……みたいな態度の者もいるし、親父殿派の一部からは、いまだに反抗的な態度が見え隠れするが、それはそれ。

 そんな彼らであっても、さすがに兄上からの命令には逆らえないらしく、なかなか不参加という選択はできないようだ……かわいそうに。

 とまあ、そんな感じでじっくりと魔力操作をおこなった上で、雪を生成する練習を始める。

 そこでイメージ力が足りないのか、直接雪を生成することが困難な者には段階を踏ませて、まずは氷を生成……場合によっては水を凍らせるところから始め、その上で風属性の魔法で削り砕きながら空気中に細かい氷の粒を蒔くという作業をさせた。

 たぶんだけど、やってることは前世でいうところの人工造雪機に近いんじゃないかな?

 ……厳密な構造は知らんけど。

 ただ、練度の低い者はそれにも苦労するようで、そういう場合は二人一組で氷を作る、削るといった形で分担させた。

 まあ、領兵の全員が貴族出身者というわけではないからね、騎士や魔法士として採用されていない者の多くは平民出身者なので、魔法の習熟度が低いのも仕方あるまい。

 だが、これからはみんな魔力操作の恩恵を受けて、上達していってくれることだろう! 期待しているぞ!!

 といいつつ、割と飽き性な奴には魔力操作は苦痛らしいからなぁ……脱落しないでくれるといいんだが……

 とまあ、そんな感じでアレス先生の魔法講座の時間が終了し、お昼である。

 お待たせ、腹内アレス君!

 指導によってカロリーも消費したことだし、今日もいっぱい食べるぞォ!!

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