第365話 道楽ってやつ

 本日予定していた氷系統の魔法の指導を終えて解散した。

 そして今はメルヴァさんや、ギドを筆頭とした使用人の子たちとお昼を食べに来ている。

 お店の印象としては、前世でいうところのファミレスって感じかな?

 開発ラッシュが続くこの街で、特に飲食店のオープンが早いような気がする。

 これは腹内アレス君にとって歓迎すべき流れのようで、とても上機嫌である。

 まあ、それはともかくとして、さっそく食事をいただくとしますかね。

 というわけで今日は、ガッツリとジャンボなオークステーキをチョイスした。

 そうして少し待つと、なかなか大きめなステーキが運ばれてきた……たぶん、5キロぐらいあるんじゃないかな?


「で、でけぇ……俺も割と大食いのつもりだったけど、この量は無理ってもんだ……」

「お、おいしそう……私も今度、挑戦してみようかな……?」

「えぇ……アンタ、マジでいってんの?」

「……うん……えへへ」

「まだまだ成長期なのだ、しっかり食べるといい」

「とはいうものの、これでも以前のアレックスさんに比べれば、かなり少なく抑えているほうですよね?」

「ああ、まあな」


 せっかくダイエットに成功したのだから、あんまり暴飲暴食をするわけにもイカンのだ。

 ただし、腹内アレス君の希望を満たす必要もあるので、今回はこの辺が妥協点だったというわけだね。


「うっわ! ギドの古参アピールうっざ!!」

「まあ、実際ギドさんは新人の俺らに比べて長いからなぁ……仕方ないんじゃない?」

「やっぱりガマンできないや……すみませ~ん、私も『ガッツリとジャンボなオークステーキ』をくださ~い!」

「ほう、やはり挑戦することにしたのか……ならばここはひとつ、健闘を祈ろうじゃないか」

「えへへ……ありがとうございます~」


 こうしてオークステーキとの格闘が始まったのだった。

 そして、割と近くのテーブルから聞き覚えのある声が聞こえてきたが……これはトディの声だな。

 あちらも仲間たちと昼メシといったところか。

 とりあえずあちらからは死角になっているためか、トディは俺に気付いていないようだ。

 そして闇の日に会ってからここ数日、姿を見ていなかったので多少気になっていたが、元気そうで何より。


「今日の仕事は早く済んでよかったな!」

「そうだね、一日契約だったからもっと時間がかかるかと思ってたんだけど……ちょいと拍子抜けだったね」

「まあ、早く終わったぶんを値切られることもなかったし、今日はツイてたってことっしょ!」

「よっしゃ、このいい流れのまま、さっそく飲みに行こうぜ!」

「えぇ~まだ昼だよ?」

「そんなん関係ないっしょ! 飲めるときに飲むのが僕らの流儀っしょ!!」

「そうだぜ? それに昨日、新しくできた店でよさそうなトコを見つけたんだ! あれは行っとかなきゃなんねぇ!」

「まったく……しょうがないなぁ……」

「よさそうな店だって……トディも行くっしょ?」

「……ごめん、オレはやめとく」

「あぁ? おめぇ、ここんトコいっつも来ねえじゃねぇか!」

「まあ、俺たちが飲みに行き過ぎともいえるんだけどね……」

「でも、なんで来ないのん?」

「今、やりたいことがあってさ……お金を貯めてるんだ……」

「あぁ? やりたいことだぁ!?」


 う~ん、なんかちょっと、トディたちの雰囲気が悪くなってきたっぽい。

 それから、トディのやりたいことって……もしかしなくてもだけど、スノーボードだよね?


「ふむふむ……なるほどなるほどぉ……それはズバリ! 彼女ができたんだね!?」

「え、そうなん? やったっしょ!!」

「いや……ちが……」


 お、盛大な勘違いが発動したみたいだ。


「女だぁ? そんなもんはなぁ……『将来ビッグになる!』とか適当こいて、ほどよく夢でも見させときゃあ、それでいいんだよ! そうすりゃ、喜んで飲みにも送り出してくれるってなもんよ!!」

「うわぁ……これまたクズっぽい発言が出てきたね……といっても、将来性を感じさせない奴が何をほざいたところで女の子には響かないだろうけどね……」

「あはっ! 確かに~」

「いや……だから……」

「あぁ? それは俺に将来性を感じねぇっていいてぇのかぁ!?」

「あれ? 自覚があったんだね?」

「……ていうかさ、今まで女の子と付き合ったことないっしょ?」

「……ッ!! そ、そんなことはねぇ……」


 おいおい、露骨に声が小さくなってるぞ……


「みんな、ごめん! オレがハッキリいわなかったから悪いんだ! オレ……つい先日、初めてスノーボードっていうのをやってさ、それにハマっちゃったんだ……それで、道具を買うお金とかを貯めたかったんだ!!」

「スノーボードって……あっちの雪山でやってるとかいうやつ?」

「そう」

「え~あれって……お貴族様とか、金持ちの道楽ってやつっしょ?」

「いや、そんなことない……確かに、お金をかけようと思えばいくらでもかけられると思うけど、そこそこの金額で道具をそろえて始めることもできるんだ」

「……どっちみち、くっだらねぇお遊びってことには変わんねぇんだろ?」

「いや、くだらなくないよ! オレも初めて見たときは、何やってるんだろうって不思議に思ったけど……でも実際にやってみたら、すっごく楽しいんだ! みんなもやってみたら分かるよ!!」

「ふぅん……そうなんだね……」

「まったり飲んでるほうがいいから、僕はパス」

「んなもん、どうせ飽きるに決まってんだから、やめとけやめとけ!」


 仲間たちの反応は芳しくないようだ……

 これは俺としても残念だなぁ。


「そっか……いや、いいんだ……オレは面白いって思ってるからさ、うん……あ、食べ終わったし、オレはそろそろ行くよ……お金はここに置いとく……それじゃ、またね」


 こうしてトディはファミレスをあとにしたのだった。

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