第366話 思い切って買っちゃう

「彼は確か……先日、アレックスさんとスノーボードを楽しまれていた方ですよね?」

「ああ、そのとおりだ……」


 ギドもトディの存在に気が付いたのだろう、小声で話しかけてきた。

 トディがせっかくスノーボードを気に入ってくれたというのに……仲間からの不理解とは、悲しいものだ。


「おいしいぃ~」

「アンタもよく食べるわね……」

「う~ん、これならまだまだ食べれちゃうかも~」

「ウソでしょ……その体のどこに入るっていうのよ……」

「し、信じらんねぇ……」


 どうやらこちらも仲間からの不理解が発生しているようだが……平和だね。


「たぶん、私のお腹にはマジックバッグが備わっているんだよ~」

「ほう、それは便利なものだな」

「メルヴァさん、この子の戯言を真に受けないでくださいよ……」

「そうっスよ……」

「いや、私の同僚にも似たような体質の者がいるし、それに……」


 そういってメルヴァさんはチラリと俺に視線を向けてきた。


「おっと、気付かれてしまいましたか……実は私もなのですよ」


 なんておどけて見せる。

 もっとも、俺の場合はマジックバッグではなく、腹内アレス君だけどね!


「あ、あはは……そ、そうなんだぁ……」

「アレスサンは特別っスからね……」

「えへへ、私とアレス君はおそろいだね~」

「まあ、魔素よりは効率が悪いですが、食べ物から摂取するエネルギーで魔力に変換することもできますからね……それを無意識でおこなっていたのでしょう」

「ふむ、そうなのだろうな」


 もともと保有魔力量の多かった原作アレス君は食べ物から魔力を作る必要がない……

 だからこそ、使われずに余ったエネルギーが脂肪として蓄えられていた……って感じだろうか。

 とはいえ、原作アレス君の場合は運動もほとんどしてなかったからなぁ~どっちみち太ってたのかもしれないけどね。

 そんな話をしながら昼食を終え、雪山へ向かう。

 そして雪山のほうでも、あのスポーツ用品店のように続々と店がオープンを始めている。

 ただ、判断の早さがよかったのだろう、あの支店長の店が一番立地のいいところを占めているようだ。

 とはいっても、スポーツ用品店だけではなく、飯屋とかいろいろな種類の店が並んでいて、今の段階ではそこまで極端な競争にさらされているという感じでもないけどね。

 とまあ、なんとなく立ち並ぶ店を眺めていたら、トディの姿を発見した。

 もちろんというべきか、支店長の店だ。

 さっきのこともあるし、ちょっと様子見がてら声をかけてみる。


「よう、数日ぶりだな!」

「おお、アレスじゃないか、久しぶり!」

「これはこれは、いらっしゃいませ」

「支店長も、なかなか上手くいっているようだな?」

「おかげさまで、少しずつお客様も増えてきておりますよ」

「それはよかった」


 先ほどのように、スキーやスノーボードに興味を示さない奴もいるが、この街に来た全ての人間がそうというわけでもないみたいだからね。


「いやぁ~最初はレンタルでいいかなって思ってたんだけど、回数を重ねていくうちに買ったほうが安上がりになるみたいだからさ、思い切って買っちゃうことにしたんだよ」

「おお! 何度もやろうと思うぐらい気に入ったというわけだな?」

「そうなんだよ……それに剣とかの装備品もそうだけど、使っていくうちになじんできたりもするでしょ? そう考えると、やっぱり自分専用の道具が欲しいなって思ったんだ」

「確かに、まったくもってそのとおりだな」


 ミキオ君を筆頭とした装備品や道具類だが、使っていくうちに俺と共に日々成長しているっていう感じがあるからね、やはり自分専用というのは大事だと思う。


「それに、こっちの装飾とかを省いたやつなら、ある程度価格も抑えられるからね」

「もちろん装飾だけではなく、素材などにも差はありますが……こちらのタイプは普及を目的とした物で、必要な機能を残してあとは可能な限り工程を減らすなどして、お求めやすくなるよう努力いたしました」

「へぇ、そうなのか」


 いわゆるエントリーモデルってやつかな?

 まあ、最低限の機能を備えたら、あとはどういった方面に特化していくかってことになるのだろう。

 それ以外は、どれだけ高級素材を使うかとか見栄え方面にお金をかけていくって感じで、そういうのは平民にはあまり必要ないのかもしれん。

 それに支店長としても、今は数をそろえるために生産性を重視しているのだろうと思う。


「それで、ここ数日は道具を買うお金を貯めるため、依頼に集中してたんだ」

「なるほど、あれから姿を見なかったのはそれでだったのか」

「そうなんだよ」


 この店では分割払いっていう方法も選べるが、トディはそれを選択しなかったらしい。

 まあ、手数料なんかも上乗せされちゃうからね、なるべくなら一括のほうがいいだろう。

 そうして普及用ということもあり、板やウェアのデザインの種類も限られている中ではあったが、トディは目をキラキラさせながら道具一式を選んでいた。

 そうして会計が終わったところで……


「ついに……買っちゃった!」

「やったな!」

「うん! これでオレのスノーボードライフが本格的に始まるんだっ! くぅ~っ、たまんないっ!!」


 そんなトディを微笑ましく思いながら、そろそろ滑り始めるとしますかね。

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