第367話 ジャンプに挑戦

 本日スノーボードを開始するにあたって軽く準備運動をして、基礎の確認がてら何本か雪山を滑った。

 そうして今日の雪の状態なんかも確認すると、そうだね……前世の雪山を例にすると、シーズンが終わり頃の雪って感じかな?

 まあ、季節的にはまだ夏といえるレベルで暑いし、ソエラルタウト領は王国でも南寄りだからね、それを考えるとじゅうぶんな雪質といえるだろう。

 とりあえず領兵たちには、この調子で氷系統の魔法の練習を積んでいってもらいたいところだね。

 そしてここ数日、少しずつジャンプをする練習を重ねており、小さなジャンプ台なら何度か挑戦している。

 ちなみにこのジャンプ台であるが、俺にスノーボードを教えてくれたイケメンは「キッカー」と呼んでいた。

 なんとなく初心者の俺としては、こういう専門用語を使うことに気恥ずかしさみたいなものを感じてしまうが、そのうちそういった言葉を違和感なく使えるようになりたいものである。

 ……こういう、変なところに妙なコンプレックスを感じてしまうところが、俺の陰キャな部分なんだろうなぁ。

 とまあ、それはともかくとして、今日も元気にジャンプに挑戦だ!

 そして今は回転のことを考えず、まっすぐジャンプするのをマスターするつもりである。

 いや、板に魔力をとおして操作することで無理やり回転することもやろうと思えばできるのだけど、それはなんか違うかなって感じがするからね……

 というかそれだと、ジャンプ台や雪すらも必要ない……ウインドボードの操作になってしまうだろう。

 そのためスノーボードに関しては、なるべく魔力に頼らず、身体能力で楽しみたいと思うのだ。

 それでこそ、前世での憧れを満たすことことができるっていう気がするからさ。

 といいつつ、やっぱりケガは怖いから安全面には配慮して魔纏とかは展開しとくけどね……

 あと、そもそもとして前世の俺に比べてアレス君の体のほうが身体能力そのものは優れているだろうことを考えれば、今さら感は拭いきれないけど、それはそれとしておく。


「前の人が終わったな……よっしゃ!」


 というわけで、さっそく飛ばせてもらおう。

 斜面を滑りながらスピードをコントロールして、ここぞというタイミングでジャンプ台を踏み切る!

 これだよ、これ!

 この浮遊感がなんともいえず楽しい。

 なんてのんきに考えているばかりもいられない、態勢を整えて着地点をしっかりと見据え、膝を柔らかく保ち衝撃に備える。

 そして、いざそのとき、目線を進行方向に向けつつ着地……キマったね。

 そうして飛び終わったら、次の人の邪魔にならないように速やかに離れる。


「やるじゃんアレス! カッコよく飛んでたね!!」

「フッ……まあまあかな?」


 俺のジャンプを見ていたトディからの感想だ。


「オレもジャンプ台を飛んでみたいなぁ~」

「それにはまず、基礎的な練習が欠かせないだろうな」

「そういえば初めて会った日、何もないところで飛び跳ねたりしてたのは、これの練習だったりする?」

「ああ、そうだな。スノーボードを教えてくれた人から、こういう平地やジャンプ台ではない斜面で、いつでもどこでも思いのままに飛べるようになっておくことが先決だって教えられたんだ」

「へぇ、そうなんだ……じゃあ、オレもそこから始めてみようかな?」

「ああ、それがいい、分かる範囲でなら俺も教えてやる」

「ありがとう、助かるよ!」


 こうしてトディと話しているうちに、ほかのみんなも次々にジャンプをしていく。


「アタシのジャンプ、どうだったかな?」

「おう、なかなかよかったぞ」

「やった!」

「私はどうですか~?」

「そうだな……踏み切りで少し力みがあったように感じたが、それ以外はいいと思う」

「次はそこを気を付けなきゃですね~」

「お~い、俺のジャンプどうだったぁ!?」

「あ、ゴメン、見てなかったわ」

「えっと……えへへ……」

「おいぃぃ! 俺の渾身のジャンプを見てないって……マジかよぉぉぉ!?」


 そんな使用人たちの愉快な掛け合いなんかもありつつ、今日も楽しくスノーボードを楽しんだのだった。

 こんな感じで、午前中は氷系統の魔法の指導、午後からはスノーボードという生活を送りながら数日経過したときのこと……


「アンタだな!? トディにくだらねぇことを吹き込みやがったのは!!」

「ちょっと、やめといたほうがいいって!」

「そうそう、なんか見た感じヤバそうな雰囲気も出てるし、絶対モメたらマズい相手っしょ!」

「うるせぇ! そんなこたぁ関係ねぇんだよ!!」


 う~んと……どこかで会ったっけ……?

 ……ああ、思い出した! トディの仲間たちだ!!

 しっかし、えらく興奮しちゃって……

 それと、この3人のうち1人が俺に「ヤバそうな雰囲気」を感じるっていうのは、なかなか勘がいいといえそうだね。

 そういう感覚は大事にしといたほうがいいと思うよ……それを突き詰めていけば、魔力探知に発展していくだろうから。

 とりあえず、前に出ようとする使用人たちを押しとどめて、話を聞いてみることにする。

 ただ、内容的にはスノーボードのことなんだろうなぁって感じはするけどね。


「それで、俺に何か用かな?」

「話は簡単だ! トディにくだらねぇお遊びはやめろっていいやがれ!!」


 おやまあ……なかなかしょうもない話が飛び込んできたって感じだね……

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