第363話 望むところ
「スノーボードって、メチャクチャ楽しいんだね!」
「そのとおり、すんげぇイカしてるだろ?」
「うん!」
どうやらトディもスノーボードにハマったみたいだね。
そんな話をしていたところで、ギド先生のスノーボード教室が終わったのだろう、ギドと使用人たちが一定の距離まで近づいて来て待機している。
「おっと、ツレが来たから、そろそろ俺は帰らなくちゃならん」
「そうなんだ……それじゃしょうがない、オレはもうちょっと滑ってから帰るよ。道具一式を無料で借りられる今日のあいだにね!」
「そうか、くれぐれもケガには気を付けてな。ああそうだ、念のため最下級だが、ポーションを1本やるよ」
「え、そんな悪いよ!」
「いいって、気にすんな」
そうして、有無を言わさずポーションを投げて渡した。
「わわっ!」
「ナイスキャッチ……それじゃ、またな」
「え、あ、うん、また!」
こうしてトディと別れ、ギドたちのところへ向かう。
「友人ができたようですね、アレックスさん」
開口一番、ギドが笑みを浮かべながら……若干ニヤッとしながらそう言葉をかけてきた。
コイツ……あえて「アレックスさん」とかいってやがるな。
「ああ、スノーボードを気に入ってくれたみたいだ……この調子でソエラルタウト領でウインタースポーツが流行ってくれればいいのだが……」
「そうですね……今はまだ始まったばかりですし、徐々に定着していってくれますよ、きっと」
「そう願うばかりだな」
なんてこれからの展望に思いを馳せてみた。
そんなとき、使用人の子たちも話に加わってきた。
「アレスさん、わたくしたちも今日でスノーボードをそれなりに乗りこなせるようになりましたわ。ですから、次回こそはもっとお近くでご一緒させてくださいませ」
「上達した……上達……」
「ギドのドヤ顔はもう、うんざり……」
「ギドのドヤ顔か……それはウザそうだな?」
「おやおや、これは心外ですねぇ……」
「心外なものですか、あの顔は分かっててやっていたに違いありませんわ」
「わざと……そう、あれはわざとなのね……」
「無駄に白い歯がキラッとしてた……あれは実に鬱陶しかった」
「うわぁ……何やってんの、お前?」
「おかしいですねぇ……ここは『きゃぁ、ギドさんステキ』となるところでしょうに……」
棒読み具合からして、おそらくギドなりのユーモアなんだろうなぁ。
というか、これが魔族式ギャグなのかもしれん……なんてね。
とりあえず「本意にあらず」というアピールをしているギドへ、ここは俺から一言かけてやるとするかな。
「フッ……ダンディズムというのはそれだけ習得が難しいということだな、心してこれからも励めよ?」
「御意にございます」
とまあ、こんなふうに雑談を交わしながら領都へと飛ぶ。
そして、使用人の子たちもだんだんスノーボードに乗れるようになってきているようなので、そのうちみんなでビッグエアに挑戦するのもアリかもしれないね。
そんなことも思いつつ屋敷に到着し、自室でシャワーを浴びてから夕食へ向かう。
「今日のスノーボードはどうだったんだい? 楽しめたかな?」
「ええ、それはもう! 少しずつ領民も興味を持ち始めてくれているみたいですし、これからに期待ですよ!!」
「そうか、それはよかった……それと、アレスも実際に見て知っているだろうけど、宿泊施設なんかもどんどん建設が進んでいて、おそらく来週ぐらいには営業を開始できると思うんだ」
「そういえば今日、既に営業を始めている喫茶店に行きましたよ。そして、そこから見えるスケート場で親子連れがスケートを楽しんでいる姿を目にしましたね」
「ほほう、それはいい光景だね! そして、声をかけたソエラルタウト領内の商人たちも次々に出店準備を始めてくれているし、移住希望の領民も増えてきているからね、これからますます活気ある街になっていくよ!!」
「おお! それは実にあっぱれですね!! でも、そうなってくると……そのうち領都よりも発展してしまうかもしれませんね?」
「フフッ、それならそれで望むところだよ! そんなに強い街が新しくできるなんて願ったり叶ったりというものさ!!」
「上手くいっているみたいでよかったわねぇ……でも、そんなにすんなり話が進んでいるのも、マイネちゃんの交渉能力は当然として、現地で頑張ってくれている子たちのおかげでもあるのだから、そこのところを忘れては駄目よ?」
「分かってるよ、母上……マイネにも感謝しているからね?」
「私は妻としての務めを果たしているだけよ」
「いや、今の僕があるのは、マイネがいてくれるからこそさ」
「セスったら……」
甘い……この空間、甘いよ……
兄上夫婦は本当に仲がいいみたいだねぇ。
そんな2人の世界にしばらく浸らせてあげたところで……
「街が形になってきたら、頃合いを見てお茶会も開きたいものよねぇ……近隣の領地ではそろそろ情報も伝わっているでしょうし」
「そうだね……夏のソエラルタウト領に雪があるだなんて、きっとみんなびっくりしちゃうだろうから、そのときが楽しみだよ」
お茶会……それはつまり、お姉さんパラダイス!
学園都市に移動する前に開くようなら、俺も参加しよっと。
とはいえ、この前ギドにたしなめられたばかりだからな……ほどほどに気をつけなきゃならんね。
それでもやっぱり、楽しみなことは間違いない!
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