第377話 期待に沿えているのだろうか?

「あらあら、なかなかお上手ねぇ」

「いえ、思ったままを申したに過ぎませんよ」


 というわけで、お茶会という名のお姉さんパラダイスを楽しんでいるところだ。

 そして兄上は「近隣の貴族を集めて極々小規模でおこなう」といっていたが、確かに前回のお茶会と比べれば多少は人数が少ないように思う。

 でもまあ、俺の感覚的にはやっぱり多いけどね……

 また、今日も多くのご夫人たちとおしゃべりを楽しませてもらっている。

 そこで、義母上の話を聞いたことによってなんとなく気付いたが、ご夫人たちの中には俺に憧憬の眼差しみたいなものを向けてくる方もいらっしゃる。

 おそらくそのようなご夫人たちは、俺をとおして母上を見ているのだろう、そんな気がする。

 ただ、その場合に俺は、母上の息子として彼女たちの期待に沿えているのだろうか?

 原作アレス君の破滅ぶりからして、残念ながら原作ゲームでは期待に沿えていなかったのかもしれない。

 ……いや、親父殿の意向やマヌケ族の暗躍の鮮やかさのため、義母上と同じように手を差し伸べる間がなかっただけ……そう思いたいところではある。

 そんなこともふと考えながら、お茶会を楽しんでいると……


「アレス殿は氷系統の魔法の名手とお聞きしております、どうか私に魔法をお教えいただけませんか?」


 まだまだ小さい……小学校低学年ぐらいの貴族の男の子に魔法を教えてくれと頼まれた。


「あらあら、この子ったら急に何を言い出すのかしら、ごめんなさいねぇ」

「いえ、お気になさらず」

「わがままを申して、アレス殿を困らせてはいけませんよ?」

「はい、母上……アレス殿、失礼いたしました」


 とはいうものの、切なそうな顔をしている少年。


「ああ、いえ……せっかくですから、少しだけ魔法の練習をしてみましょうか?」

「本当ですか!? 母上、アレス殿がよいとおっしゃってくださいました! ですから!!」

「まったく、仕方ありませんね……アレス殿の好意に甘えさせていただきましょう」

「やったぁ!」

「アレス殿、我が子へのあたたかい心遣い、感謝いたします」

「なんのなんの、素晴らしい向上心をお持ちのご子息ではありませんか」

「……お恥ずかしい限りにございます」

「アレス殿! よろしくお願いいたしますっ!!」

「こちらこそだよ、それじゃあ少し広いところに行こうか?」

「はいっ!」


 こうして急遽、アレス先生の魔法教室が始まることとなった。

 ……これが本当のキッズコースだね。


「さて、魔力操作はもう習っているかな?」

「はい、もちろんです!」

「よろしい、ではさっそくやって見せてくれるかな?」

「はい! こんな感じです!!」

「ふむ……」


 魔力操作を始めてさほど経過していないのだろう、魔力の流れがゆっくりとしたものだった。

 でもまあ、これぐらいでも魔法を発動させることは可能だ。


「ありがとう、それじゃあさっそく氷系統の魔法の練習を始めてみようか」

「おおっ!」

「まずは俺の手元を見ててくれるかな?」

「はい!」


 ここで、直接氷を生成することも当然可能なのだが、あえて水の生成を経由することにした。

 というのも、兄上だけじゃなく一部の領兵や使用人が、直接氷を生成しようとしてドライアイスを生成してしまったからね……

 たぶん、氷を生成したいなら水からというイメージがあったほうがいいと思うんだ。


「とまあ、あえて段階を踏んで氷を生成してみたけど、直接氷を生成してもいい……こんな感じで」


 といいながら、一瞬で氷の塊を生成して見せる。


「ほぉぉっ!」

「じゃあ、この氷を渡すからよく観察してみて……そして、しっかりイメージがつかめたら氷の生成に挑戦してみよう」

「はい! 頑張ります!!」

「よし、その意気だ!」


 とても素直で気持ちのいい返事をする子だね。

 それはそれとして、真剣な表情で氷を観察している。


「氷の冷たさ、固さ……いろいろな要素を認識して、氷のイメージを自分なりにものにしていくんだよ」

「冷たさ……固さ……あ、ちょっと溶けてきた……」

「そう、魔法はイメージと魔力が大事だからね、イメージの助けとなるような情報を見逃さないように気を付けるんだ」

「イメージの助けとなるような情報……見逃さない……」


 まあ、正直なところイメージが足りなくても、魔力のゴリ押しでカバーできちゃったりするんだけどね……

 でも、こういう若いうちからそういう手抜きを覚えるのはマズいだろうからさ。


「よし、そろそろ氷を生成してみようか……まずは全身の魔力経を巡る魔力を手のひらに集めて……」

「魔力を手のひらに集める……」

「そうそう、いい感じだよ……そして、氷のイメージを思い浮かべ……それを集めた魔力に重ね合わせる」

「氷のイメージ……魔力に重ね合わせる……」


 そうしてジワジワと氷が生成されていく……豆粒みたいなサイズの氷だけどね。

 だが、年齢的なことも加味すれば、今はこれでじゅうぶんだろう。

 

「おおっ! 凄い! できてるよ!!」

「えっ、そ、そうですか?」

「もちろん! しっかり氷だ!!」

「でも……」

「そうだね、氷の生成に時間がかかったし、それに小さいのも確かだ。でも、それは魔力操作の練習量を増やせばどんどん速く、大きくできるから心配いらない。きちんと氷を生成できたことが重要なんだ、その点で君は優秀だ! 自信を持っていい!!」

「本当ですか!? やったぁ!!」

「ただし、何度もいうけど、魔力操作の練習あってこそだからね、そこは忘れちゃいけないよ?」

「はいっ!」


 こうしてアレス先生の魔法教室を開いていたところ、また1人お客さんが現れた。


「……あなたたち、なにをちていらっちゃるのかちら?」


 舌足らずながらも一生懸命に令嬢らしく振舞おうとしているお嬢さんだった。

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