第376話 出会いと別れはつきもの
「そっかぁ、なんとなくまだ先のことって思ってたけど、もう少しで出発かぁ……」
「まあ、明日はお茶会だし、ソエラルタウト領を出発すること自体はまだ少し先になるけど、こっちの雪山に来るのは今日が最後になりそうだ」
スノーボードを楽しむとともに、トディたちへ別れの挨拶をしに来ていた。
そして今はティータイムで、その時間を利用して学園都市に向かう話をしている。
そこで、ズクードが無駄に渋い表情を作りながら口を開いた。
「そもそも、俺たちみてぇな冒険者は根無し草だからな……出会いと別れはつきものよ!」
「そうだね! ああ、この街に来るひとつ前の街で会った、あの子と飲んだ酒が今も忘れられないなぁ……あの子、どうしてるかなぁ……」
「もしかして、あの大人しそうな三つ編みの子のことをいってるんだったら……僕らがあの街を出る日、さっそくほかの男と腕を組んで歩いているのを遠目にだけど見たよ?」
「おい! それは黙っとくって話だったじゃねぇか!?」
「あッ、そうだった!」
「えっと……マジ?」
「……こんなことでウソをついても仕方ないっしょ?」
「………………ま、まあ! 別に将来を誓い合ってたわけでもないし? ち、ちょっと一緒に飲んだだけの相手だし? ぜんっぜん、たいしたことないよ! うん、マジで!!」
「ま、元気出せや」
「……その、ゴメンね?」
「あ、あはは、大丈夫だって! さぁ~ってと、それじゃあ久々にナンパでもしに行こうかな~ここんとこ男ばっかと飲んでたし、そろそろ女の子と飲みたいもんね! よっしゃ! 今夜一発、決めてやるぜっ!! それじゃ、またね」
「ま、頑張ってくれや」
「……今度は上手くいくといいけどね」
「えっと……アイツって、毎回こんな調子なんだよね……」
「そうなのか……なんというか、切ない奴だな」
「はは……そだね」
トディの仲間もなかなか愉快な男たちのようだな。
「そういえば、トディたちもいずれこの街を離れるつもりか?」
「う~ん、オレはスノーボードが楽しいからこの街に根を下ろしてもいいかなって気もしてるけどね……」
「ま、この街にはまだまだ稼げる依頼もたんまりあるみてぇだし、とりあえずしばらくはこのままでいいかもしんねぇな」
「僕は飲めさえすれば、どうでもいいよん?」
「そうか……そして俺が次ここに来るのは、たぶん春休みになるだろうな」
「だいぶ先だねぇ……そのときまた会えたらいいよね!」
「俺もそう思うよ……とはいえ、いろいろ事情が変わる可能性もあるだろうし、無理に待ったりはしなくていいからな?」
「うん、その辺はオレも冒険者らしくシビアに判断を下すからさ、心配いらないよ」
「そっか、ならよかった」
「ま、トディがなんといおうと、稼げなくなったら力づくでも引っ張ってって、この街ともオサラバするしかねぇやな!」
「それならしっかり稼げるように、この街の運営を上手くやっていかないといけないな……そう兄上によくいっておくよ」
「というよりソエラルタウト領内だと、稼げるかどうかよりも飽きるかどうかって感じっしょ?」
「くっ……そこで文化力のなさが響いてくるというわけか……」
「いやいや、オレにはスノーボードがあるからさ! 飽きることなんかないって!!」
「そこまで気に入ってくれて、俺も嬉しいよ」
「やっとみつけたことなんだ、あったりまえだろ?」
「フフッ、そうか」
「ま、俺たちゃ暇潰しの付き合いでやることにしただけだけどな」
「そんなこといって、ズクードも意外と楽しんでたっしょ?」
「うっせ……おめぇはホントに口が軽ぃ奴だ」
こうしてトディたちに別れの挨拶をしつつ、おしゃべりを楽しんだ。
また、トディたちほどではないにしろ、多少顔見知りになった人たちにも軽く挨拶をしておいた。
それから、スキーやスノーボードの競技人口が日を追うごとに増えていることもあって、支店長の店も道具一式がよく売れているようだ。
これにより、本格的に支店長を任せてもらえることになったそうだ、おめでたいね。
「あの出会いに感謝ですよ。あのとき勧められて動いていなければ、ほかの者がこの店を任されていたかもしれませんし……」
「そういえば、そんなこともあったな……だが、それは支店長の勘のよさによるものだろうさ」
ダイダイ君はこの支店長の接客によって迎え入れたんだよなぁ、これも大事な出会いだった。
ちなみにこの店では、スノーボードのデザインとしてオレンジ色のラインの入った物も売り出し始めたそうだ。
なんと、アレスリスペクトということらしい……これは少し照れてしまうね。
また、全面オレンジ一色じゃないのは遠慮してのことなんだってさ。
まあね、被りっていうのはなるべくなら避けたいもんね。
こんな感じで今日の夕方までスノーボードを楽しみつつ、顔見知りには挨拶をして回ったのだった。
それによって、ソエラルタウト領を出発する日が近づいているのだということがより実感させられる。
みんな、元気でいてくれよな!
そして明日はお茶会……それはつまり、お姉さんパラダイス!
この夏、最高の出会いが君を待っている!!
……なんてね。
そういえば「出会い」で思い出したけど……ナンパは上手くいったのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます