第375話 家族と一緒の馬車

「アレス、予定していたとおり明日はお茶会だし、今日は向こうの屋敷に泊まろう」

「承知しました、兄上」


 ズクードの件以来ここ数日は特にこれといった出来事もなく、スノーボードと魔法の訓練をメインとした日々を過ごしていた。

 そして明日はお茶会……それが終われば、そろそろ学園都市に向けて出発となる。

 そんなわけで、スノーボードができるのもあとちょっとって感じだね。

 感覚的にあっという間だったようにも思うけど、日数的には始めてから3週間近くも経っていたことになる。

 まあね、楽しい時間はすぐ過ぎるともいうからね……そんなもんなのかもしれない。

 とりあえず、残りの時間で楽しめるだけ楽しむとしますかね。

 そんでトディとか、雪山で知り合った人にも軽く挨拶をしとこうかな。

 まあ、学園都市に行く話は軽くしてあるから、挨拶をしなかったとしても急にいなくなったって心配されるようなことはないだろうけどね。

 とまあ、そんなことを考えたりしながら朝食を終える。

 そして一息ついたところで、雪の街へ向けて出発。

 そこで今回は、義母上や兄上夫婦と馬車に乗って行くこととなった。

 何気にこうやって家族と一緒の馬車に乗って移動っていうのも、原作アレス君の記憶を辿ってみるに、ほとんどなかったみたいでさ……

 そう考えるとこれは、貴重な体験といえるかもしれない。


「どう母上、この道路の出来具合は……なかなかのものでしょ?」

「そうねぇ、これだけの道路は王国内でもなかなかないと思うわ。確かこれも、アレスが魔法で協力して作ったのよね?」

「はい、基礎の部分と石材の生成を手伝わせてもらいました」

「いやぁ、アレスのおかげで道路工事も工期をかなり短縮できたし、街の開発でもいっぱい協力してもらったからねぇ……本当に、ありがたいものだよ!」

「メメカの報告書にもアレス君のことが書かれていて、とても感謝していたみたいよ」

「そうですか、そのように評価してもらえて嬉しい限りです」

「もちろん領内のみんなが頑張ってくれたからこそ、これだけ短期間で街の形が整ったわけだけど、それでもやっぱりアレスの果たした役割は大きいものだったよ!!」

「恐縮です」


 まあ、マナーとしての謙遜は必要だろうが、俺なりに魔法で貢献したという自負はそれなりにあるのも正直なところだ。

 道中、このような話をしながら雪の街へ向かった。


「あらまあ、話には聞いていたけど……立派な城壁とお堀ねぇ」

「やったねアレス、この母上の驚きようは本物だよ!」

「はい、頑張った甲斐があったというものですね」


 これらも仕上げは工兵たちに任せたが、基礎的な部分は俺の魔法でガツンとやったったからね。

 それとお堀には水が張ってあって、これは雪解け水を利用している。

 これにより防御力はもちろんのこと、なかなか見栄えもすることだろう。

 この辺も観光スポット化してくれることを期待したいところだね。

 そうして城門を過ぎると、雪に覆われた街のお出ましである。

 この城壁とお堀を隔てて外側は土の大地が広がっていて、内側は一面の雪景色となっているという状況……もう何度も見ているが、これにはなかなか不思議な感じがしてしまうね。


「涼しいというより、少し寒いといったところかしら……私たちなら魔法や魔道具で調節もできるけど、そうでなければ暖かい服が必要そうねぇ」

「街中の雪の量については今のところ、生活するのに最適な量を調べているところなんだっけ?」

「ええ、メメカの報告書にはそう書いてあったわ」

「体感温度というのは人によって違いますし、意外と『最適』を見つけるのには苦労するかもしれませんね」

「まあ、夏の暑さに耐えることを考えれば、この程度の寒さはどうということもないといえるかもしれないわねぇ」

「そうだね……おっ、あっちに半袖シャツを着てる領民がいる。ということは、暑がりにはこれぐらいでじゅうぶんってわけか、なるほどね」


 とまあ、街中の様子を観察しながら屋敷へ到着。

 スノーボードに夢中であんまり気にしてなかったけど、とっても豪華な屋敷が建てられていたようだ。


「お待ちしておりました」

「出迎えありがとう」


 メメカを中心にして、雪の街に建てられた屋敷に勤務している使用人が勢ぞろいしている。

 俺が領都に帰ってきたときほどではないが、なかなか壮観な眺めだね。


「屋敷に来るまでに軽く街の様子も見てきたけど、なかなか活気もあってよかったわ。みんな、ここまでよく頑張ったわね」

「もったいないお言葉にございます」


 義母上のねぎらいの言葉に、代表してメメカが返事をした。


「それでは、ご案内いたします」

「ええ、よろしくお願いね」


 こうして俺たちは、屋敷の中へ案内される。

 地味に俺もこの新しい屋敷に入るのは初めてだからね、少しばかりワクワクしちゃう。

 そして当然のことながら、めっちゃ広くて豪華な屋敷だ。

 ……飾ってある美術品の価値とかはよく知らんけどね。

 そんで俺専用に作ってくれた部屋でちょいと休憩。


「常にいるわけじゃないから、俺専用の部屋など作らなくてもよかったであろうに……」

「リューネ様のお望みもあって、寝泊りは基本的に領都のお屋敷になるでしょうからね」

「だよなぁ……あ、でも、親父殿が領都にいるときはこっちに来ればいいのか! やっぱちょうどいいな!!」

「私の立場から申せば、あまりあからさまにされるのもどうかと思いますが……」

「ま、そんときはそんときだ!」

「左様でございますか……それと、こちらでも領都のお屋敷と同じように、アレス様のお部屋の管理は我々にお任せください」

「おう、頼んだぞ」


 うん、ギドに任せておけば間違いないね。

 まあ、私物は全部マジックバッグに入っているし、さほど難しい管理でもないだろうけどさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る