第796話 好循環ができ始めている
「それでは、夕食後にまたお会いできることを楽しみにしてますね!」
「うむ、素晴らしい学びの時間となるよう、俺も力を尽くそうと思う! ではな!!」
令嬢との昼食を終え、中央棟から男子寮と女子寮へそれぞれ別れた。
そして今日も、朝と昼の両方で食事を共にした令嬢が夕食後の練習会への参加を表明してくれた。
それはつまり、レミリネ流剣術を学んでくれるということだ、嬉しいもんだね。
しかも剣術だけではなく、練習会の終わりにメノ……そしてメノに触発された令嬢たちが差し入れしてくれるお菓子による休息と反省タイム中にレミリネ師匠の話をすることもあるのだ。
これによって、レミリネ師匠のことを少しずつでも広くみんなに知ってもらえるだろうから、こういう時間を大事にしたいものである。
ああ、もちろん毎日毎日レミリネ師匠の話だけを繰り返しているわけではない……さすがにみんなだって、同じ話ばかりを何度も何度も聞かせられたら飽きちゃうだろうからね。
だから、そのとき出来上がった小グループを回りながらタイミングを見計らい、小出しに話をしてみて「もっと聞きたい」って反応を示してくれた子たちに話すようにしている。
また、その時間はレミリネ師匠のことを話すだけではなく、練習中に見つかった改善点なんかをそれぞれ話し合う反省会の意味もあったり、男女でちょっとしたおしゃべりを楽しむ婚活タイム的な状況にもなったりしている。
たぶんだけど、一緒に頑張っているっていう連帯感みたいなものは、会話のハードルを下げているんだろうね。
それに話題だって、その直前にやっていた剣術とか魔法についてっていう共通のものがあるわけだしさ。
この調子で行くと、そのうち練習会をきっかけとしたカップルが誕生するかもしれない。
そのときは、心からの祝福を贈りたいと思う次第である。
ただ、そうは言ったものの……今のところ、ロイターに代表されるような実家の爵位や本人の実力が高い男たちに令嬢たちの好意が向けられがちである。
まあ、それが目的で参加している令嬢たちも少なくないからね……
よって、今はまだ令嬢たちに異性として興味を持たれていない男たちも、この練習会を上手く利用して実力を付けて行き、いつかは彼女たちの心をつかみ取れるようになって行くことを期待したい。
そんなことを考えながら自室に戻った。
「ただいま、キズナ君! いやぁ~今日も練習会の参加者が増えて、いい感じで練習ができそうだよ!!」
そうしてテンション高くキズナ君に報告。
「そんじゃあ、今日も勉強から始めるとすっかね!」
改めて思うけど、前世で怠惰マンだった俺がよくもまあ……これほどの努力マンに変貌を遂げたもんだよ……
それもこれも、この世界に転生させてくれた転生神のお姉さんのおかげだね!
そんな感謝の念を心に抱きながら、テキストと向き合う。
「さぁっ! 俺の脳細胞よ、フルパワーで行くぞ!!」
こうして今日も、3時間ほどの勉強時間を過ごす。
「……フゥ……理解するには、なかなか歯ごたえのある内容だった……しかしながら、ハハッ! これでまた一歩前進だ!!」
ちょっと難しいところもあったが、なんとか咀嚼することができたと思う。
だが、完全にモノにしたとは言い切れないし、忘れる可能性だってあるだろうから、今回の内容は要復習だろうな……
「よっし、それじゃあ早速! 今日もよろしくお願いします、レミリネ師匠!!」
勉強が終われば、お次はイメージのレミリネ師匠に稽古を付けてもらう。
そこで、最近は人に教えているのがいい影響をもたらしてくれているのか、レミリネ師匠の動きが一段と鮮明にイメージできている気がするんだよね。
なんというか、みんなが苦手としている技のつなぎ方をレミリネ師匠はどうつないでいたのかとか、意識するポイントが明確になったっていうかさ。
そういった観点から考えると、今までの俺はレミリネ師匠の動きを表面的にトレースしようとしていただけなのかもしれないなって思えてくるね。
いや、もちろん俺なりに頭を使って努力してきたという自負はあるけどさ……それでも、「おお! ここがポイントだったのか!!」みたいな発見がいくつもあるのだ。
まあね、それだけレミリネ流剣術は奥が深いということなのさ!
そうして俺が見逃していた大事なポイントを練習会中に見出し、それによってレミリネ流の動きをさらに深く理解した俺が、またみんなに質の高い指導を提供することができるっていう好循環ができ始めている……実に理想的な状況だよ!
フフッ……こういった状況も含めて、レミリネ流を学びたいって言ってきてくれた子たちに感謝せねばならんね!!
そうして今日も、イメージのレミリネ師匠とのありがたい稽古の時間は過ぎて行った。
「……今日も稽古を付けて頂き! 誠にありがとうございます!!」
そう言って挨拶をし、イメージのレミリネ師匠との稽古を終えた。
その後は浄化の魔法等で身嗜みを整え、男子寮の食堂へ向かう。
よっしゃ! 思いっきり食べたら……またみんなに、グレイトなレミリネ流剣術を教えて進ぜようじゃないか!!
そんなワクワク感とともに廊下を歩いて行くのだった。
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