第797話 滑稽そのもの

「さて、そろそろ運動場に行くとするか」

「ええ、ちょうどいい時間ですね」

「ハッ! 今日もヤル気マンマンだぜ!!」

「アレスさんの影響で剣術を始めた令嬢方が最初はぎこちない動きだったものの、それが日に日に良くなっていく姿を見ているうちに僕自身、だんだん教えることの楽しさを感じるようになってきましたねぇ」

「正直、僕なんかの教え方で大丈夫なのかなって心配になることもあるけど……教えた相手が『上手くできるようになった!』って満足そうな笑顔を見せてくれたときなんかは、嬉しさと自信を僕に与えてくれる気がします!」

「……教えているつもりが、むしろ私たちこそが教えてもらっている」

「フフッ、これもアレスの狙いどおりなのかな?」

「まあ、俺としてはレミリネ流剣術を広めるのが第一目的で、それ以外のことはそこまで明確に意図していたわけではないが……村の子供たちとかに教えているとき、俺自身が学ばせてもらっていると感じていたのも確かだ。よって、こういう形で練習会をすることも無駄にはならないだろうとなんとなく思ってはいたかなぁ?」


 そんな話をしながら、男子寮の食堂から運動場へ移動するところだ。

 そして、後方から聞こえてくる男子たちの会話……


「なぁ……あの人らの訓練に、俺たちも参加させてもらったほうがよくない?」

「えぇ……それ、本気で言ってる?」

「そういえば……訓練後に女の子たちとおしゃべりする時間もあるって聞いたっけ……」

「ヒュ~ッ! そいつはいい!!」

「あんな棒っきれをヘロヘロ振り回して悦に浸ってるのは滑稽そのものだが……女を捕まえるチャンスがありそうってとこは悪かねぇかもなぁ?」

「お、おい……彼らは今年の武闘大会優勝者や本戦進出者たちだぞ? それを滑稽呼ばわりはマズいだろ……それに女性のことを捕まえるだなんて下品な言い方はやめたほうが……」

「ヘッ! オレはああいうお遊びみたいな大会には興味ないんでな……それと、下品も何もそれがオレたちに課せられた使命ってもんだろ? それとも何か? オマエはこの学園で女を捕まえて帰んなくても後継者に指名される自信があんのか?」

「い、いや……自分は表現の仕方がよろしくないと言いたかっただけで……」

「ダッセェなァ! そうやって繕ってばかりいるから、オマエはダセェ男なんだよ!!」

「……じ、じゃあ聞くが! 武闘大会で結果を残せていないことについて『お遊びみたいな大会には興味がない』と言うのは、同じ繕いではないのか!?」

「……あァ? んだとコラァ……温厚なオレも、たまにはトサカにくることもあんだぞォ?」

「お、温厚だって……!?」

「ハッハッハ! お前の言ってること、俺様もよく分かるぜ? あんな先公とかポーションとかで何重にも守られた中で闘うとか、ハッキシ言ってヌリぃんだよなぁ! そんな環境でマジで闘えますかってことよ!!」

「ヒュ~ッ! カックいい!!」

「さすがッス! 一生付いて行くッス!!」

「ほらなァ? 本当にイケてるヤツってのは、お遊びの大会で実力を見せびらかしたりしねぇもんなんだよ!」

「……クッ!」

「まあまあ、武闘大会とか既に終わった話でしょ? そんなことでいちいちケンカしてもしょうがないんじゃない?」

「そもそも、お前が魔力操作狂いたちのお遊戯会に参加したらどうかって余計なことを言い出したのがいけないんだぞ?」

「えぇっ! 俺のせいなの!?」

「ていうかよぅ……俺ら、今まで散々魔力操作狂いのことをバカにしてきただろぅ? さすがに今さら感強くねぇ?」

「……だよねぇ、どのツラ下げて参加させてもらうんだって感じしかしないよ」

「まっ! そんなことより夜はこれから……ちょっくら街に繰り出すとしようぜ?」

「やったッス! お供するッス!!」

「ったく、しょうがないなぁ……ちょっとだけだぞ?」

「そうそう、明日も授業があるんだし……あんまり遅くまでは遊べないよ?」

「んで? そこのプルプルしちゃってるオマエは来んのかァ?」

「……ッ!? 自分は遊びになど行かない……遠慮しておく! それじゃあ!!」

「あらら、どっか行っちゃったよ……」

「う~ん……僕らのパーティーも、これで解散かなぁ?」

「ヘッ! 心配すんなって……あのダセェ男のことだから、明日には頭でも下げて戻ってくるだろうさ」

「それもそうだな!」

「そっか、一晩頭を冷やせばって感じなんだねぇ」


 別に、真剣に取り組む気概さえあれば、誰でも練習会に参加してくれていいんだけどねぇ……

 そして、武闘大会のことをお遊びと言うのは自由だが……傍から聞くと、物凄くダサく感じるからやめておいたほうがいいんじゃないかなって思うんだよね。

 あと、君たちが遊んでいるあいだに……お遊戯会と蔑んだ練習会に参加しているみんながグングンと実力を付けて行き、気付いたときには途轍もない差となっているだろうから、楽しみにしててくれよな!

 でもまあ、途中で気が変わって「僕も頑張りたいです!」ってなったら、その気持ちを尊重する用意はあるので、いつでも来るといい。

 そんなことを思いながら、運動場に到着。

 さて、今日も気合全開で指導に当たるとしますかね!!

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