第798話 顔色が冴えていない

「それでは諸君! 今日も練習の質を高めるため、動きの一つ一つに心を込めて取り組んで行こうじゃないか!!」

「「「はい!!」」」


 うんうん、元気いっぱいで気持ちのいい返事だね!

 ただ、その中で今日も……我が心の同志たるワイズの顔色が冴えていないので、やはり気になるところではある。

 そんなことを思いつつ、今日の練習会を開始。

 まずはいつものように運動場内を軽く走り、準備運動をする。

 それが終われば、素振りに移行。


「先ほども似たようなことを言ったが、思考停止でやみくもに木剣を振るのではなく! 一振り一振り、意味のある素振りとなるよう心がけてくれ!!」

「「「はい!!」」」


 さっき男子寮の食堂から移動する際に聞こえてきた「棒っきれをヘロヘロ振り回して悦に浸っている」という発言だが……今日初めてとか参加して日が浅い令嬢の場合……いや、一部の文系男子もそうかな、とりあえずそういった子の素振りは軸がブレていたり、刃筋が立っていないなど、修正点が多々あるのは確かだ。

 しかしながら、ここにいる参加者たちの眼は真剣そのものであり、決して悦に浸ってなんかいないと言える。

 よって、今はまだ舐めていられるかもしれないが……そのうち逆転する! 確実にな!!

 なんてことを考えながら、素振りをしているみんなを見て回る。


「ふむ……君は、振り終わりに気が抜けてしまわないよう注意だな」

「は、はいっ! アレス教官!!」


 なんか、俺やロイターたちのことを教官と呼ぶ男子が徐々に現れ始めているんだよね……まあ、その子たちの気分がそれでノッてきてイイ感じに練習できるのだとすれば、それでも構わないけどさ。

 そうしてみんなの周りを巡りながら、一言程度のアドバイスをその都度加えて行く。


「さて! 次は型の練習に入ろうか!!」

「「「はい!!」」」


 ここで基礎からコースと一般コースに別れ、今日もロイターとサンズに基礎からコースの指導をお願いする。

 そして一般コースでは、まず俺が見本の単独演武を披露し、みんなにイメージをつかんでもらったところで個別練習に入る。

 そこで、型の流れを覚えてしまっている子はそのまま個別練習に取り組み、それをヴィーンたちが見て回りながら指導を加えて行く。

 このとき俺は何をしているかというと、型の流れを覚え切れていない子を集めてグループを作り、付きっ切りで型の流れを重点的に教えるって感じだ。

 まあ、基本的な型さえ覚えてしまえば、あとは自主練なんかもやりやすくなるだろうからね!

 こうして単独演武の練習をある程度こなしたあとは、2人1組になって攻守を決めた技の練習に入る。

 これがカッコよく決まるようになれば、技をつなげて組演武として披露できるようになるだろう。

 というわけで、まずは俺とヴィーンで最終的にこんな感じになりますよって感じの組演武を見せる。


「やはり、この組演武をお見せいただけるだけでも、練習会に参加している価値があるというものですわね……」

「ええ、まさしく」

「しかも……日に日に精度が上がっているように感じませんか?」

「あら、そこに気付くとは……あなたもなかなかやるわね?」

「あっ、どうもどうも」

「それにしても……何度見ても惚れ惚れする美しさ……」

「私ね、この組演武を脳に刻み込んで……そして寝るとき、脳内で再生させながら眠りに就くの……それが至福の幸せ……」

「えっ!? アタシも同じ! こう、眼に魔力を込めてさ!!」

「まあ、アレス様とヴィーン様の組み合わせを推している方は、皆そうしているでしょうね……ええ、もちろんわたくしもよ?」

「そうやって毎日脳内で反芻しているおかげか、私自身技の覚えが早くなっている気がします……昔はもっと覚えが悪かったはずなんですけどねぇ……とはいえ、今はまだ身体がイメージに付いて行けていないので、上手く技を繰り出せるように練習しなくちゃですけど……」

「分かる! それが歯痒いんだよね!!」


 そんな女子たちの会話も聞こえてくるが、男子たちはというと……


「……なぁ……俺らも脳内であの2人の動きを反芻しなくちゃかね?」

「うぅ~ん……この調子で行くとアッという間に、女の子たちに差を付けられちゃうかもしれないもんねぇ……」

「でも、さすがに寝るときはイヤだぞ……夢に出て来るかもしんねぇからな……」

「ああ……何が悲しくて、男のことなんかを思い浮かべながら寝なきゃなんねぇんだよ……」

「お前らは、バカだなぁ……そういうときは演武をしているファティマちゃんやパルフェナちゃんを思い浮かべりゃいいんだよ! ちったぁ頭を使えっての!!」

「な……なるほどッ!!」

「ここに天才がいた……」

「まあ、演武の動きに集中できるかはお前ら次第だがな……」

「フ……フンッ! もちろん、俺ならできるさ!!」

「あ、コイツはダメそう……」

「ハァ!? なんでだよぉ~!!」

「「「ハハハハハ!!」」」


 そうして笑う男子たちにチラリと視線を向けてみるが、ワイズだけは笑っていなかった。

 今まで見てきた感じ、別にノリの悪い男というわけでもないみたいだったし……やっぱり、なんかありそうだな。

 このまま気の抜けた練習を続けていても得るものが少なくなってしまうだろうし……決めた! 今日の練習が終わって、風呂上りにでも話をしてみるとしよう!!

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