第799話 情けない枯葉だった……

「それでは皆様、失礼致します!!」

「「「失礼致します!!」」」

「うむ、また明日頑張ろう!」

「「「はい!!」」」


 というわけで夕食後の練習会が終わり、そのあとの反省と休憩タイムも終え、男女で別れて大浴場へ向かった。

 まあ、大浴場で仲間たちとワイワイやるのが醍醐味みたいなところもあるしさ。

 それから、初参加の男子がいるときは確実に、男風呂でモミジ祭りという熱烈な歓迎会が催されるのである。

 フフッ……そのとき背中に感じる熱ときたら、もうね! アッツアツなのさ!!

 そんなこんなで、今日もモミジ祭りが開催された……


「おぉ、痛ってぇ……俺もそれなりに話は耳にしていたが……これがウワサのモミジ祭りというものか……」

「凄かった……とっても……」

「なぁ? とびっきりの体験だっただろ!?」

「我々も初めて経験したときはな……それはもう、心身ともに凄まじい衝撃だったのを思い出すよ……」

「でもま! そのおかげって言うか、自分の中に眠っていた男らしさが目覚めたって実感があんだよな!!」

「それが本当に男らしさなのかってことについて議論の余地があるとは思うけど……少なくとも、気合が入ったって感じはするね」

「フフッ……今宵の俺の背中も! 鮮やかに色づいているぜ! ハーッハッハッハ!!」

「コイツときたら……相変わらずハマりっぱなしだよな……」

「とにもかくにも! このモミジ祭りを経て、お前たちは仲間になったってわけだ!!」

「ようこそ、真の男の世界へ……」

「「「ようこそ!!」」」

「お、おう……」

「えっと……歓迎、ありがとう……?」


 こうして俺たちの友情は、モミジ祭りをとおして深まったのであった……めでたし、めでたし。

 とまあ、そんな感じでヒリヒリする背中をいたわりながら風呂に浸かる俺たち。


「フゥ……それにしても、湯が熱いのか背中がアツいのか、マジで分かんねぇな……」

「……どっちも、なんじゃない?」

「なるほど!」

「しっかし……この練習会も、だいぶ人数が増えてきたよなぁ?」

「今のところ明らかに女子のほうが多いですが……私たちみたいに、男子も少しずつ増えてはきていますからね」

「一応、俺たち以外の男共の中にも、参加してみようかって検討を始めている奴もいるみたいだぞ?」

「……ふぅん? 悩むぐらいだったら、1回参加してみればいいのにね?」

「フフッ、モミジ祭りに一度参加してしまえば……その者は二度と、参加をやめることはできなくなるだろう! なぜなら、心と体があのアツさ求めるようになるからな! ハーッハッハッハ!!」

「い、いや……それはお前だけだろ……」

「まあ、モミジ祭りが盛り上がることは否定せんけどな……」

「とりあえず……新参者に対して古参ぶれるよう、俺たちも今のうちに実力を上げとこうぜ!?」

「おう! そいつはいい!!」

「地味にこの、悩んでるあいだの1日1日がそのうち大きな差となって現れてきそうな予感……」

「そう考えると……私たちは早めに参加することを決断できてよかったですね?」

「ああ、まったくだ!」

「クックックッ……来年の武闘大会、本戦進出は頂きだぜッ!!」

「残念だったなぁ! そいつは俺のもんだ!!」

「……なッ!?……なんだと!?」

「まあ、ここにいる全員が本戦に進むには、さすがに枠が足らんからなぁ……」

「へへっ……既に熾烈な争いは始まってるってこった!!」

「ふむ……負けてられんな……」

「ひとまず来年のことは置いておくとしても……アレッサンたちだって、練習会に参加したら最後、抜けることは許さないってスタンスじゃないんだから、試すだけ試してみて『合わない』って思ったらやめればいいだけなのになぁ?」

「ああ、その辺は気楽に考えていい気がするぜ! まあ、練習中に気を抜くわけにはいかないけどな!!」


 うん、体験だけで、あとはやめときますって感じでも別に構わないけどね。

 俺としては、レミリネ師匠のことを知ってもらえるだけでも嬉しいし。


「そういえば『気を抜くわけにはいかない』って言葉で思い出したけど、ワイズ……お前、最近どうしたんだ?」

「……どうしたとは?」

「おいおい、はぐらかそうったって、そうはいかないぞ? なんたって、俺とお前はガキの頃から付き合いが長いんだからな……今週に入ってから、お前の様子がおかしかったのはバレバレだ!!」

「……」


 おやっ? 風呂上りに俺がワイズと話をしようと思っていたが……先にワイズの友人であるケイン・ツァマヌイが問いただすことにしたようだ。

 ちょうどいいので、ここはケインに任せて様子を見てみるとするかね……


「自分では気づいていなかったかもしれないが……今日の練習会のときだってお前、太刀筋に全然これまでどおりの鋭さがなかったからな!」

「い、いや……そんなはずは……私はきちんと練習に取り組んでいた……」

「いいや! あんな覇気のない太刀筋、俺は認めないね!!」

「俺も一言、口を挟ませてもらうとすれば……ここ数日ワイズに刻まれてきたモミジは、鮮やかなモミジ足りえない情けない枯葉だった……それはつまり! ワイズが本気でアツい一発を俺にくれなかったってことだ! 違うか!?」

「えぇ……そこなの?」

「まあ、コイツらしいと言えば、コイツらしい発想だけどな……」

「言われてみればだが……ワイズ氏に叩かれたところ、あまり清々しい痛みではなかったような……?」

「ああ、弱々しいっていうか……なんとなくジットリした痛みで、とにかく爽やかさはなかった……」

「おそらく、アツい気持ちが入っていなかったのでしょうね……」

「ほら! みんなも気付いていたみたいだぞ!? もう変な隠し事はよせ!!」

「……」


 さて、ワイズの返答やいかに……

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