第621話 だいぶ時間がかかってしまったなぁ……
「魔力操作狂いの奴……起き上がってこねぇぞ?」
「マジかよ……」
「当たりどころが悪かった……とか?」
「予選で誰が何をしても、あの人には一切ダメージを負わすことができなかったっていうのに?」
「まあ、さっきスタンが『ダークフォグで魔力が侵食されてる』っていってただろ? そのせいで、魔力操作狂いの魔纏だか魔力の膜だかってやつが、脆くなってたんじゃねぇの?」
「それに、テクンド君のあの一撃……見た目に派手さはなかったけど、魔力込めまくりでエグ過ぎる威力になってたみたいだもんね……」
「ああ、魔力操作狂いだからこそ、ダウンしただけで済んでいるといえるだろうな……そうじゃなかったら……」
『アレス選手の防御力の高さを知る人ほど信じられない光景かもしれませんが……アレス選手、ダウンしたまま起き上がってきません……』
「……やった……のか? 俺は! あの、アレス・ソエラルタウトに勝ったのか!?」
『しかしながら、審判から勝者宣言が出ないので、まだ決着ではないみたいですね』
『スタンさんのおっしゃるとおり、まだテクンド選手の勝利は確定ではありません』
「……なぜだ? アレス・ソエラルタウトはとっくに気絶しているというのに……なんで俺に勝利宣言がされないんだ……?」
「なぜって……俺は気絶などしていないからな」
『お、おぉっと? ダウンしていたアレス選手が言葉を発した! ただ、声の発生源が違うような……?』
『そうですね、倒れているアレスさんの体からではなく、ダークフォグの中から声が聞こえます』
「ど、どういうことだ!? あの瞬間、確かに手応えがあったはず!!」
「それはそうだろう……手応えがあるように、わざわざ地属性の魔法でダミーを作ったんだからな」
「何ッ?」
『なんと! ここでアレス選手の体……だと思われていたものが砂の塊に変わりました!!』
『これはまた、精巧に作りましたね……そしてダミーの体にも本物の魔力の膜……アレスさんのいう魔纏も展開されていたので、本人と誤認しても仕方なかったでしょう』
まあ、地属性のスペシャリストであるカッツ君には「まだまだ」といわれそうな出来のダミーだけどね?
「そんな……俺はダミー相手に……クソォッ!!」
「フフッ、実はもう一つサプライズを用意しているんだ……お前のダークフォグ、これの支配権を奪ってやったぞ?」
「……なんだと!! そんなこと、あるはずが……ッ!?」
「どうだ、操作が利かないだろう? 試しにもう一度ダークフォグの中に姿を隠してみてもいいぞ? ああ、サービスで精神攻撃の威力はゼロに抑えといてやるから、心置きなく試すといい」
「……な、なんでだ……俺のダークフォグ……なのに……」
「さて、確認は済んだかな?」
『ここで、声だけだったアレス選手の姿がダークフォグの中に現れました! そして何をするのかと思えば……手のひらの上にダークフォグを集め始めました!!』
『完全に支配権を奪っていますね……』
「よし、こんなもんかな? これをお前に投げつけてやってもいいが……」
「……ッ!!」
『アレス選手によって凝縮されたダークフォグ……これが直撃した場合……』
『そうですね、アレスさんが新しく込めたイメージにもよるでしょうが……仮に、もともとテクンドさんが生成していたダークフォグの威力そのままを凝縮したのであれば……精神崩壊待ったなしでしょう……』
『さ、最上級ポーションで治癒自体は可能でしょうが……恐ろし過ぎて、当てられたくないですね……』
『ええ、まったくです……』
「……クッ! や、やるならやれッ!! いや、そもそも俺のダークフォグなんだ! ダメージを受けるはずがないんだッ!!」
「まあ……痩せ我慢もほどほどにな?」
『あぁっと! ここでアレス選手の手のひらの上が眩いばかりに光り輝き出したぁ!!』
『あそこまで強い光属性の輝きはなかなか目にすることはできないでしょう……』
『そして、そしてぇ! 凝縮されたダークフォグがみるみるうちに消えていくッ!!』
『強過ぎた情念が浄化されていくようにも見えますね……』
「そんな……ゾルドグスト先生に教えてもらった、俺のダークフォグが……」
まあ、今のテクンドからは、マヌケ族に操られていたときのような憎悪に満ちた意思っていうのは感じられないけどね。
そしてゾルドグストっていうマヌケ族に対する想いも、呪縛が残っているというより、先生に対する尊敬ってだけなのだろう。
それはたぶん、俺のエリナ先生への敬愛に近いものがあると思うんだ。
『ダークフォグを消滅させたところでアレス選手、一歩一歩テクンド選手に近付いて行く!』
「ま、まだだ! シャドウバインドォッ!!」
「効かんな」
『テクンド選手のシャドウバインドを一瞬で粉砕し、さらに歩みを進めるアレス選手!』
「ならッ! ダークボールゥゥゥッ!!」
「それも効かんな」
『次々と飛んでくるダークボールを木刀で斬り伏せながら進むアレス選手……そしてついに! 目の前で首元に切っ先を突き付けられてしまったテクンド選手!! これはもう、降参を宣言するしかないかぁ!?』
「……クッ……ここまで……か………………ハハッ……そうか、そうだな……ずっと認めたくないと思っていたが……あの日、お前の魔法を初めて見たときから……俺の心は負けを認めていた……いや、勝ち負けなんかじゃない……あのときから、俺はお前の魔法に魅せられてしまっていたんだな……それを今、やっと認めることができた………………ハハッ、だいぶ時間がかかってしまったなぁ……」
「いやいや、お前の魔法もなかなか素晴らしかったぞ? なんせ、ダークフォグの支配権を奪うのに思いのほか手こずらされたからな……」
「……当たり前だ! 俺とゾルドグスト先生のとっておきだったんだからな!! ……だが、完全にしてやられたよ……俺の負けだ……審判、降参を宣言します」
「……そうか……勝者! アレス・ソエラルタウト!!」
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