第620話 吹っ飛ばされるところを初めて見た

「ゾルドグストっていえば……確か失踪して、そのままどこ行ったか分かってないんだっけ?」

「いけ好かないジジイだったけど、一応『先生』って付けとこうな?」

「そのゾルドグスト先生だけど、ウワサによると……横領が発覚して、捕まったらしいよ」

「え? どっかのお偉いさんの愛人に手を出して、あとはご想像にお任せします……って感じになったって聞いたけど?」

「えぇ! あのオッサンが愛人に手を出すぅ? それはちょっと……さすがにナイでしょ~」

「つーか、単純に教師として限界でも感じてて、それで逃げ出したんじゃねーの?」

「いや、ああ見えてその正体は敵国のスパイだったって話もあるぞ? それが王国騎士にバレて、秘密裏に処理されたって……」

「ひゃぁ~! それがホントだったらこっわ!!」

「スパイかどうかはともかくとしても……失踪っていうからには、知っちゃいけないことを知っちゃったっていうのはありそう……」

「その話だけどさ、敵国どころか……実は魔族のスパイだったりして!? ……な~んてね! アハハハハ!!」

「おいおい、その発言はヤバ過ぎだろ……人魔融和派にキレられても知らねぇぞ?」

「……おい、その人魔融和派がここにいるぞ? なんだったら、ご希望どおりにしてやろうか? あ?」

「い、いや、冗談だよ、冗談! 悪かったって! そんな怒んないでよ~!!」

「横からだけど、お前さ……くっせぇ、くっせぇ魔族に媚びてる人魔融和派なんかに謝ることねぇって……むしろ、クソみてぇな魔族のすることだ、お前の予想は案外当たってるかも知んねぇぞ?」

「おい……それはさすがに聞き捨てならねぇぞ、コラァ!!」

「ハハッ、聞き捨てならねぇからなんだってんだよ? ちょっと俺も運動してきたくなってきたから……やるんだったら、相手になってやんぞ?」

「オーケーだ……今さら謝っても遅ぇからなァ!!」

「はいは~い、そこの君たち……ちょっと落ち着こうねぇ~?」


 テクンドの口からゾルドグストという名前が出たとき、観客席の貴族が集まっている辺りから一瞬ピリッとした魔力が漏れていた。

 そして学園の生徒たちが集まっている席からは、アレコレとウワサ話が飛び出していた。

 しかも、そのウワサの中に正解が混じってるっていうね……

 ただ、あんな感じで気楽にウワサ話に興じている奴は、おそらくマヌケ族の暗躍について知らされてないんだろうなって感じだ。


『おやっ? ダークフォグが広がっていく中、それに紛れてテクンド選手の姿が見えなくなったぞぉ!!』

『あのダークフォグの中でテクンドさんの姿を捉えるのは至難の業でしょうね』

『対するアレス選手といえば……テクンド選手捕捉に精神を集中しているのか、微動だにしていません!』

『それにしても、テクンドさんが放ったダークフォグ、やはり普通じゃありませんね……煙幕の効果だけではなく、相手の魔力を侵食しながら威力を増しているようです……その威力というのはもちろん、闇属性らしく精神攻撃の威力です』

『相手の魔力を侵食ですか、それは厄介ですね……』

『おそらく、先ほど放ったファイヤーストームがアレスさんの展開している魔力の膜に阻まれてダメージを与えられなかったので、まずは魔力の膜を突破し、その勢いのまま精神攻撃につなげようとしているのかもしれませんね』

『なるほど、アレス選手自身の魔力が敵となって襲いかかってくるというわけですね、それは恐ろしい……ちなみに、アレス選手は魔力の膜を魔纏と名付けて使用しているようですが、そのことについてスタンさんはどう思われますか? やはり、混乱の元になるのでやめてほしいと思っていたりしますか?』

『広く一般的に知られている呼び方としては魔力の膜なので、今回は分かりやすいようにあえてそういいましたが……魔法や武技に独自の名前を付けること自体は多くの人もやっていることですし、別にいいんじゃないですかね』

『そうなのですか? てっきり、勝手に名前を付けるなどけしからん! とおっしゃられるかと思っていました』

『例えば、魔力の膜という呼び方は間違っていて、100年前から魔纏という名前が正式名称だった……という感じで歴史的事実を改変などされては困りますが、現時点から新しく名付けるといった行動まで否定しようとは思いません……まあ、その名前を浸透させられるかどうかっていうのは、その人次第になってくると思いますけどね……』

『ほほう、過去を変えてはいけないが、これから先の未来なら、いくらでも変えていって良いってことですね?』

『まあ、そんな感じですね』


 ふむ、スタンよ……お前は、これから起こる原作ゲームのシナリオを俺が勝手に変えていっても良いというわけだな?

 ま! 別に誰かの許可を求めているわけじゃないけどさ。

 というか、既にいろいろ変えちゃったと思うし、今さらだけどね。

 そして、この隠形系の魔法に対しては苦い思い出があるからな……キッチリ攻略してやらんといかんね!


「喰らえッ!!」

『……おぉっと! これまで姿を隠していたテクンド選手、アレス選手の背後から急に現れ、ロッドによる一撃をお見舞いだぁ! そしてなんと、なんと! なんと!! アレス選手が吹っ飛ばされたァァァァァッ!!』

『ロッドの先端に風属性の魔力が超高密度に圧縮されていました……これは普通の一撃とは桁が大きく違う衝撃だったでしょうね』

『なるほどッ! アレス選手が吹っ飛ばされるところを初めて見た気がしましたが……そこまででしたか!!』

『はい、テクンドさんはここが勝負どころと思い定めたのでしょう、持てる魔力のほぼ全てを注ぎ込んだ一撃だったと思います』

『まさに全身全霊の一撃ッ!! さぁて、アレス選手は立ち上がってこれるのかぁ!?』

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