第619話 俺の目的はお前だ!

「あのスゲェ炎を、たった一振りで……」

「しかも無傷どころか、煤一つ付いてないとか……信じらんねぇよ……」

「改めて聞くけど、これ……1年生の試合だよな?」

「ああ、間違いなく……」


 一般の観客に驚きをプレゼントできたのは、よかったかなって感じだ。


「本気を出せって……テクンドの奴、正気か?」

「グチャグチャにされちまうだけだろ……」

「つーか、テクンドが勝利する唯一の方法って、あの小手調べの段階で一気に押し切ることだったんじゃね?」

「とはいえ、奴の防御力を考えれば、それもかなり低い可能性だろうけどな……」

「だが、そこに賭けるしかないのも、これまた事実だ」

「ホント、何考えてんだろ……」


 こっちは、学園の生徒たちの会話。

 一応、彼らなりの俺対策としては、序盤で全力ブッパって感じだったみたいだね。


「アレス・ソエラルタウト! この武闘大会、俺の目的はお前だ! お前に勝って、俺のほうが魔法士として優れていることを証明するんだからな! よって、あとで『あのときは本気じゃなかった』だなんて言い訳ができるような中途半端な闘い方は許さん!!」

「……ほう? なかなか勇ましいじゃないか」

『ここでテクンド選手、その望みはアレス選手に勝利することによって魔法士としての実力を証明することだと明かしました!』

『確かに、魔法士として今年一番の実力者はアレスさんだというのが、我々生徒一同の共通認識でしょうからね……』


 魔法士として今年一番の実力者か……照れるぜ。


「いやいや、それは無謀過ぎるだろ……」

「単なる勝負だったら、運が味方してまぐれ勝ちするって可能性もないわけじゃないだろうけど……」

「そうだね……でも、魔法の腕で上に立つっていうのは……ね」

「そういえば、テクンドって昔……『魔法の天才』って呼ばれてなかったっけ?」

「ああ、呼ばれていたな……ただし、アレス・ソエラルタウトというさらなる天才の存在によって、一瞬にして霞んでしまったがな……」

「そういや、そんなこともあったっけ……だいぶ昔のことだったから、忘れてた」

「まあ、ここ数年は魔力操作狂いの性格的なヤバさばかりが注目されていて、魔法の才能についてはそこまで話題になっていなかったからっていうのもあるんじゃない?」

「そうそう、そして思い返してみると……テクンド1人だけ、ずっと奴の魔法の才能についてガタガタいってた気がするよ」

「なるほど、そういうことか……やたらと魔力操作狂いに敵意を燃やしてるなぁって思ってたんだよね……といいつつ最近は、明らかに悪口って感じのことだけはいわなくなってたけどさ……」

「ま! つまりは、ずっと執着してた相手と対決するチャンスがきたってわけなんだから、そりゃあ、本気で勝負したいわな?」

「執着って……それだけ聞くと、ちょっとキモチワルイけどね……」

「……へぇ? アレス様とテクンド君の組み合わせね……なるほど……」

「ふふっ……私は既にその組み合わせに注目していたわよ?」

「あら、やるじゃない」

「でも、少し前までは、テクンド君のアレス様に対する想いに敵意があり過ぎたから、少し躊躇する組み合わせだと思っていたのも確かなのよね……」


 うん、一時期マヌケ族に操られていたみたいだからね……そのときは、強い敵意を向けられていたのも感じていた。

 とまあ、それはそれとして……


「俺としては、お前の実力を観察することに本気を出していたつもりなんだがな?」

「舐めたことを……」

「いずれにしても、お前が望むとおりの試合展開にしたいなら……力づくでそうさせてみることだ」

「ああ! そうさせてもらう!!」

『さぁて! 魔法の応酬で仕切り直しだぁ!!』

『両者とも、このあいだに魔力を回復していたようですね』

『なるほど、それで2人とも涼しい顔をして威力の強い魔法をガンガン撃てているわけですね?』

『はい……とはいえ、もともと保有魔力量の多い2人ですし、魔力操作の練度も高いので、空気中の魔素を魔力に変換しながら戦闘を継続できてもいるのでしょう』

「じゃあ……あいつら、永遠に闘っていられるってことか?」

「な、なんて奴らだ……」

「この試合……決着がつくのかな?」


 まあ、魔力や体力は回復できても、精神的な部分っていうのは、人によって結構差があるみたいだからね……

 そこんところ俺の場合は、持久戦もかなりイケる自信がある。

 だって、ほとんど一日中魔力操作の練習をしているし、夕食後の模擬戦とか、レミリネ師匠や俺が今まで出会ってきた強者と繰り広げる脳内模擬戦の時間なんかも加味すれば、かなりの時間戦闘訓練をしていることになるからね。

 そんなこんなで、この試合も少々長引いてきたが、テクンドよ……お前はまだまだ気持ちが続くか?


「クッ……悔しいが、持久力は向こうのほうが上か……ならば! ……ゾルドグスト先生……先生に教えてもらった闇魔法、ここで使わせてもらいます!!」

『おぉっと!? ここでテクンド選手! ダークフォグを繰り出した!! それにしても、なんて濃さなんだぁ!?』

『このダークフォグ……見た目はもちろん、その辺のものとは比べものにならないぐらい、かなりレベルが高いですよ……』


 ゾルドグスト……えぇと……確か、エリナ先生が始末したっていうマヌケ族の名前だっけ?

 そして、テクンドを操っていたマヌケ族の名前でもあるね。

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