第572話 ただの一芸

「オラぁッ!」

「甘い」

「……ならぁッ!!」


 対戦相手が斜めに振り下ろしてきた剣を、あえて逆らわずにそのまま受け流した。

 すると、その勢いを残したまま、横方向の回転斬りを敢行してきた。


「らぁぁぁぁぁッ!!」


 そしてそれは1回転で終わらず、独楽のように回転を繰り返した。


「おっ! あいつめ……ついにあの技を出したか!!」

「うん、今日はいつもより回転の勢いがいいよ!」

「そうだな、あいつにとって過去最高の出来栄えだろうよ!」

「へぇ、そんなに自信のある技なのか……」

「確かに、あれはちょっと防ぎ切るのが難しそうだ……少なくとも俺だったら、勢いに押されてしまっていただろうな……」

「……だが、相手はあの魔力操作狂いだぞ?」

「だよなぁ……どこまで奴に通用するかねぇ?」

「う~ん、どうだろう……?」


 ふぅん? これが得意技ってわけか……

 まあ、いわれてみれば、使い慣れた技って感じがするね。

 そして、向かってくる刃を俺が弾くたび、その力を次の回転斬りのエネルギーに利用してるといったところかな?


「しかしながら……そんなにクルクルしていて、目が回らんのか?」

「……うる……せぇッ!!」


 ほうほう、頑張るねぇ……

 といいつつ、徐々に態勢が崩れ始めてきた。

 ……そろそろ潮時かね?

 それを向こうも悟ったのか、技を解いて後方に緊急離脱したようだ。


「……ハァ……ハァ……」

「うむ、なかなか面白い技だった」

「……クッ!」


 ただし、魔纏必須の技かもしれない。

 特に技が未熟で素早く回転できないうちは、背中の防御が手薄になりそうだし……

 でも、気合の乗った一振りを相手に払われたりして、勢い余ってしまったときなんかはつなぎにいいかもしれない。


「あぁ……やっぱりダメだったかぁ……」

「まあ、受けに定評のある魔力操作狂いが相手だもんな……」

「というか……奴ならもっと早いタイミングで、技をカットできたんじゃないか?」

「それはそうだろうけど……どうせ、全てを出し尽くさせてやろうって魂胆だろ? ひどいねぇ……」

「だな……あれだけ技をバッチリ見せてもらえれば、俺たちだって対策を考えることができそうだし……」

「そう考えると、アイツもバカだねぇ? 魔力操作狂い相手に本気を出すから……」

「そうそう……というか、さっさと棄権しときゃよかったのに……」

「ほら、だからいったろ? お前らが挑発したせいで、これから奴は連敗街道を突き進むことになっちまったってわけだ、かわいそうにねぇ……」

「えぇ……さっきはいいくるめ……いや、理解を示してたはずなのに……」

「だ~か~ら~あいつはあれでいいんだってぇの! あの技だって、魔力操作狂いが相手じゃなくても、どうせそのうち通用しなくなってただろうからな……これは新技を手に入れるいい機会ってなもんよ!!」

「それはそうかもしれないが……」

「でもやっぱ……不憫」

「……ま! ライバルが1人脱落してくれたと思えば、ヨシって感じ?」


 観戦者たちの会話が耳に入ってくる。

 そして、いつのまにか俺は「受けに定評のある」魔力操作狂いになっていたらしい……

 いやまあ、対戦相手からいろいろ学ばせてもらおうと思って受けに徹してたみたいなところがあるからね……仕方ないといえば、仕方ないだろう。

 それに何より、レミリネ師匠に剣術を教えてもらう際、言葉による指導が無理で、どうしても受けながら技術を学ぶって感じだったからね。

 そういったことが影響して、俺の基本的なスタンスが受け主体になってるっていうのもあるかもしれない。


「ハァ……ハァ……俺を……ただの一芸野郎と思うんじゃねぇッ!!」

「ほう! まだ見せてくれるのか? それはありがたい!!」

「舐めやがってぇッ!!」


 その後は勢いこそあったが、特に目立った技のようなものは見られなかった。

 ただ、基本に忠実な振り下ろしや突き。

 だからといって、それがダメだということはない。

 むしろ、奇抜な技を繰り出してくるより、かえって強いといえるかもしれない。


「ふむ……その一振り、一突きにお前が積み上げてきた鍛錬が見えるようだ」

「……知ったふうなことをッ!!」


 そうして、打ち合いがしばらく続く。


「あ~あ、また稽古が始まっちゃったよ……」

「よっぽど長引いて決着がつかないって感じじゃないと、終わんないからなぁ……」

「ま、あれだけ全力で打ち合ってれば、そのうち体力も尽きるでしょ」

「う~ん、魔力操作狂いはまだまだ余裕そうだけどな……」

「ホント……奴の体力はどうなってんだよ……」

「化け物め……」

「……あっ! 剣が飛ばされちまった!!」


 握力……いや、全身の体力が限界に達していたのだろう、対戦相手の剣が宙を舞った。

 そして俺は、相手の喉元に木刀の切っ先を突き付けてやった。


「……参った……降参だ」

「うむ……実に学びの多い対戦だった、礼をいう、ありがとう」

「……クッ………………俄か剣術といって申し訳なかった」

「まあ、確かに剣術を本格的に学び始めたのは遅かったからな、構わんよ」

「……俺がいえたことじゃないかもしれないが……アンタの剣術は本物だ」

「そうか……そういってもらえて、嬉しい限りだ」


 ……なんて軽く言葉を交わす。


「……勝者! アレス・ソエラルタウト!!」

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