第571話 俄か剣術に負けてたまるか!!

「き、昨日の今日で……なんで……ウソだろ……」

「ハハッ! どうせ当たらないと高をくくってたんだろうが……残念だったなぁ? 約束どおり、棄権すんじゃねぇぞ!?」

「まあまあ、昨日気を失うぐらいビビり散らかしてたんだからさ、それで勘弁してあげたらいいんじゃない?」

「あぁ? ……まあ、それもそうか、かわいそうだもんな? よし、いいぞ、棄権して来い。そんでこれからは『僕は口だけのビビり君です!』っていったらいい、それでみんな納得ってもんだ!」

「なっ……舐めるな!! やる! やってやる!! 俺は魔力操作狂いと闘う!! 何があってもな!!」

「あらら……煽りに弱いんだから……」

「ほぉう? また、気を失うんじゃねぇぞ? こっちも運ぶのめんどくせぇんだからな!」

「知るか! 昨日は寝不足で、つい居眠りしちまっただけだ! この野郎!!」

「……いやいや、こんな大事なときに身体のコンディションを整えておかないとか、それはそれでどうなの?」

「まったくだ! もっとマシな言い訳こきやがれってぇの!!」

「うるせぇ! それが俺の真実だ、この野郎!!」


 昨日、棄権せず俺と対戦すると豪語していた奴。

 そこで、微笑みをサービスしてやったら気絶した奴。

 ソイツが今、俺と対戦するため、目の前にやってきた。

 また、興奮状態にあるおかげか、さすがにここで気絶するってことはなさそう。

 というか、このタイミングでそれをされると、どんだけギャグ体質な男なんだって思わずにはいられなくなっちゃうし……


「よっしゃ! お前のカッコいいとこ、見せてみやがれぇ!!」

「ムチャしない範囲で頑張れ~!!」


 ……なるほど、あの煽りはコイツを鼓舞するためだったということか。

 フフッ……少々口は悪いが、いい仲間たちじゃないか。

 そう思うと、ハートウォーミングな気持ちが湧いてくるね。


「……俺だって、やれるんだ! 男のド根性、見せたらァ!!」

「ふむ、その意気やよし」

「……それじゃあ2人とも、準備はいいね?」


 そこで、審判の先生が確認の声をかけてくる。


「いつでも!」

「同じく」

「よし……両者構えて………………始め!!」


 さて、まずはお手並み拝見といきましょうかね?


「うぉぉぉぉ! 速攻だぁ! この野郎ぉぉぉぉ!!」


 先手必勝といわんばかりに、対戦相手が雄叫びを上げながら、突きを放ってくる。


「ようこそ」


 まずはそれを軽くいなしてやる。


「まだまだァ!!」


 そして距離を詰めたまま、打ち合いに移行。


「俺だって! 子供の頃から剣を振ってきたんだ!! 昨日今日始めた俄か剣術に負けてたまるか!!」

「ほう? いうじゃないか……ならばお前の剣、じっくりと堪能させてもらおう」

「クッ……その余裕、俺がぶっ潰してやらァ! うぉぉぉぉ!!」


 おお、まだ序盤だというのに、さらにギヤを上げようというのか?


「いいねぇ……その調子だ!」

「抜かせッ!!」


 確かに「子供の頃から剣を振ってきた」と豪語するだけあって、なかなか鋭い太刀筋をしている。

 そして、流派としてはオーソドックスというべきか、王国式剣術の使い手といったところだね。


「魔力操作狂いの奴……また受けに徹してやがる……」

「かわいそうに……これであいつも、持てる技の全てをさらけ出す羽目になっちまったな……」

「おい、お前らが挑発するから、奴も引っ込みがつかなくなって、ああなったんだからな? その辺のトコ分かってんのか?」

「いや、そんなこといわれても……僕は別に『棄権しちゃダメ』とはいってないし……」

「あぁ? 別にいいじゃんか、対策されたら、また新しい技なり組み立てなり考えりゃいいんだしよ」

「そうはいってもな……魔力操作狂いとの対戦で全部出し切ってしまったビムなんて、あれから連敗して悲惨そのものじゃないか……新技とか軽々しくいうが、そんな簡単なものじゃないだろ?」

「そうそう、それに初週であれだけ負けちまったら、アイツはもう本戦出場は絶望的だよ」

「だよな……上位層が詰まってる現状、俺たちが狙えるのは16位がギリってところなんだから、どうにか一つでも多く勝ちを拾わねぇと……」


 ……ああ、俺と初日に対戦したビム・インファウね……確かに彼、先週は苦戦続きだったと記憶している。

 でも、敗北は続いているものの、心は折れてないみたいだし……いろいろ模索しながら、新しく何かをつかみかけてる感じがするんだよなぁ。


「……なあ、お前たちのゴールはそこなのか?」

「は?」

「え?」

「き……急に何いってんだ?」

「本戦に残れるかどうか……それよりも大切なことがあるだろ? ほら、今こうして魔力操作狂いと闘ってるあいつを見てみろよ……もうあそこには、昨日無様に気絶した男はいないぞ? あいつはな……今日、ビビり君を卒業したんだ、それをまず俺たちは祝福してやろうぜ?」

「そ、それは……」

「確かに……」

「あの勇気は称えられてしかるべきかもしれない……」

「……それにビムだっけ? あいつだって、今のうちに対策されてよかったんじゃないか? もう一段階強くなる機会を得られたんだからよ……」

「なるほど!」

「それもそうだな!」

「ああ! お前のいうとおりだ!!」

「だろ?」

「あらら……みんな上手くいいくるめられちゃった……」


 ……適当にいいくるめただけなのかはしらんが、同意見だ。


「……クソッ! なんでだ! なんで俄か剣術なんかに、俺の剣が届かねぇッ!!」

「そうだな……他人の剣を俄かと決めつけているあいだは、無理かもしれないな」

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