第453話 強くなんかないよ
「ふぁ~っ! ちょっと怠いなって思ってた腕が、軽くなってきたぁ!」
「まあ、だいぶ頑張ったもんね」
「この体が楽になった感覚をしっかり覚えなきゃなんだよね!?」
「うん……その感覚こそが、回復魔法の入口だからね」
「よぉ~し! 回復魔法も頑張って覚えるぞ!!」
「その意気だよ!」
「リッドさんなら、いずれ使いこなせるようになりますよ」
レミリネ流剣術の指導を終えたところで、スライムダンジョン特製のタピオカドリンクを飲んで休憩。
「でも、こんな美味しいものがダンジョンで手に入るなんて凄いね!」
「そうだね……ただ、ダンジョンの気まぐれなのか、変な物も出てきたりするけどね」
「変な物とはいいますが……意外と物はよかったりするんですけどねぇ」
「それはまあ……そうかもな」
「あははっ、そうなんだぁ!」
こうして雑談を交え、しばしのんびりしてからリッド君の家に戻る。
そして家に着くと、既にナミルさんと3人娘が夕食の準備を終えていた。
「わぁ~っ! 美味しそう!!」
「今日はノムルさんたちが手伝ってくれたから、特に美味しいわよ」
「凄いや!」
「いえいえ~私たちなんて、全然ですよ~」
「そうですとも」
「むしろ、教えられることのほうが多かった」
まあ、3人娘は上位ではなくとも貴族令嬢ではあるからな、料理なんかもあとから覚えたタイプだろうし……
それから、やはり状況的なものもあってか、見たところ肉料理が多めだ。
まあ、腹内アレス君的には、むしろそれがいいって感じだろうか。
そんなこともチラリと考えつつ、さっそくいだたくとしよう!
「それでは、いただきます!」
「いただきます!」
「ふふっ、どうぞ召し上がれ」
俺とリッド君のいただきますの声に、ナミルさんが微笑ましそうに返答する。
いいなぁ、この感じ。
こうして、夕食会がスタートした。
「今日はね、アレス兄ちゃんに剣術を教えてもらったんだよ! ねぇ、アレス兄ちゃん!!」
「うん、とっても上手だったよ」
「あらあら、そうだったんですね。ありがとうございます、アレスさん」
「いえ、そんな大したことではありませんよ」
「私ではそういったことを教えられませんから……とてもありがたいことです」
本来ならリッド君は、お父さんに剣術を習ったのかもしれないんだよな……
ここで、ノムルがリッド君に話しかけた。
「アレス君に習ったってことは、レミリネ流かな?」
「うん、そうだよ! とってもカッコよかったんだぁ!!」
「そっかそっか、今から頑張ってたら、将来は立派な魔法剣士になれちゃうね!」
「魔法剣士!? わぁっ、凄そう! オイラになれるかな!?」
「うん、きっとなれるよ! なんたって、アレス君の一番弟子だからね!!」
「一番弟子!! オイラが!? ねぇ、アレス兄ちゃん!! 本当!?」
「ああ、リッド君がそう思ってくれるのなら、嬉しいよ」
「うん! オイラ、アレス兄ちゃ……師匠の一番弟子!!」
「あっ、今までどおり『兄ちゃん』のほうがありがたいかも」
「そっかぁ、分かった!」
「よかったわね、リッド」
「うん!」
今まではなんとなくそうかなぁって感じだったけど、これでリッド君が本格的に俺の一番弟子を名乗ることになったわけか……
リッド君がそう名乗って恥ずかしくないよう、俺もこれから武芸者としてもっともっと実力を付けていかねばならんな!
こんな感じで、楽しい夕食の時間を過ごした。
そして食後のお茶を飲みつつ、しばしの歓談を経てリッド君とお風呂に入る。
「アレス兄ちゃんたちは、明日出発なんだよね……?」
「そうなんだよ……ごめんね」
「ううん! アレス兄ちゃんたちは、ソリブク村の人たちを助けに行くんだから、とっても大事なことをしに行くんだから、オイラ寂しくなんかないよ!!」
「リッド君は強い子だね」
「強くなんかないよ……本当は、行ってほしくないって思ってるんだから……」
「そんなふうに思ってもらえて嬉しいよ。そして、その気持ちを抑えて俺に気を遣えたリッド君は、やはり強い子さ」
「……うん」
「さて、頭にお湯を流すから、もうつぶってると思うけど目を開けないようにね?」
「分かったぁ」
リッド君を見ていて思うが、俺は前世でこんなに物分かりがよかっただろうか。
5歳のときどころか、もっと年齢を重ねたあとでさえ、もっとワガママだった気がする。
もしかしたら、それがこの世界の人たちのスタンダードなのかもしれない。
とはいえやはり、リッド君は凄いなぁって尊敬の念を抱いてしまうな。
そんなことを思いつつ、バスタイムを終える。
その後は、魔力交流をしつつ俺の冒険譚の続きなんかをリッド君に語った。
ちなみに、スリングショットの話題も出たが、リッド君は興味を示しつつも剣術を優先することにしたみたいだ。
まあ、ソレバ村ではスライムダンジョン特製のゴムをいつでも入手できるわけではないからね。
それに、遠距離武器としてならクロスボウでもいいわけだし、ソレバ村はそっちに重点を置くことにしたみたいだからなおさらだろう。
あと、スノーボードはともかくとして、ウインドボードはまだ早いって感じ。
というのが、もうちょっと保有魔力量が多くなってからのほうがいいと思ったからさ。
だって、今の段階だとほとんど魔力に余裕がなくて、飛んですぐ空気中の魔素を魔力変換しながら飛ばなきゃいけないだろうから、ちょっと危ないんだ。
そのため、今は地上で風歩の練習をするだけに留めておくよう注意しておいた。
とまあ、そんなことをいろいろ話しているうちに、そろそろ寝る時間である。
さて、ソリブク村の2人はしっかり魔力操作をやっているかな?
もしサボってたら、明日は泣きを見ることになるが、果たして……
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