第290話 お前らがいないからかもしれんな?
「さて、見送りも終わったところで……お前たちは令嬢とランチか?」
「ああ……そうなる」
「ロイター様……寂しいのは分かりますが、そのようなお顔をこれから昼食を共にする令嬢に見せてはいけませんよ?」
「ああ……そうだな」
そういいながら、普段どおりのロイターに戻る……やや戻り切れていないのは気付かなかったことにしておいてやろう。
「それじゃあ、俺は街に出て知り合いたちに挨拶回りでもしてくるかな……しばらく学園都市を離れることになるわけだし」
「まあ、学園の生徒が夏休みに入ることは周知のことだろうが、そうしてやったほうが相手も嬉しいだろう」
「アレスさんは街の人たちとも仲がいいですからね、なおさらそうでしょう」
こうしてロイターたちと別れ、俺は街へ出る。
ちなみに、お昼も街中で食べようと思う。
まあ、行くところとしては美味いソーセージを出してくれるソートルのところだな。
もしかしたら、ゼスたちもいるかもしれんし。
そんな淡い期待をしつつ店へ向かうと……
「おっ! 旦那じゃねぇですかい!!」
「アレスさん、こんにちは!」
「やっほ~アレスお兄ちゃん!」
「おお! 久しぶりだな!!」
やったね、ちょうどよく会えた。
俺も試験とかいろいろあって街中をあまりブラブラできなかったこともあるが、ゼスのほうも忙しかったみたいだからな。
そんなことを思いつつソーセージを注文し、それをいただきながらゼスたちとの会話を楽しむ。
「旦那、あっしの馬なんですがね、この前ポーションを飲ませて走らせたでしょう?」
「ああ、そういえばそんなこともあったな」
「あれ以来、ポーションが気に入っちまったみたいで、そればっかり飲みたがるんでさぁ」
「おっと、それは迷惑をかけてしまったな」
「いえ、それは別に大したことじゃねぇんですがね……ちょっと前にもグベルとエメちゃんにただの草に魔力を込めるとか、魔力交流を教えたでしょう?」
「ああ、教えたな……もしや?」
「はい、アレスさんに教えてもらったとおりに魔力を込めた草をゼスさんの馬にあげてみました」
「私もお馬さんと魔力交流をしたんだよ!」
「とまあ、こういったことをした結果、あっしの馬がすんげぇ元気になっちまいましてね……それで配達速度なんかも上がったりしちまって……」
「なるほど、あっちこっちから依頼が殺到しているわけだな?」
「へい……まあ、これも嬉しい悲鳴ってやつなんでしょうけどね」
知らんうちに、ゼスの馬がヤベェことになってたっぽいね。
とはいえ、ポーションとか薬草程度なら馬に与えている御者もいるかもしれない。
ただこれは……なんとなくエメちゃんとの魔力交流による影響が大きいんじゃないかなって気がする。
魔力の扱いに関してかなりの才能があるだろうしさ。
「そんなわけで、これを食ったらまた配達でさぁ」
「俺とエメはその護衛ですね」
「そうなの!」
「そうか、3人とも気を付けてな……と、そうだった、俺も学園が夏休みに入って実家の領地に帰るから、またしばらく会えなくなりそうだ」
「ああ、もうそんな時期でしたね……旦那も気を付けてくだせえ」
「アレスさんなら余裕で襲撃者を撃退できるでしょうけどね」
「うん! アレスお兄ちゃんはと~っても凄いもんね!!」
まあ、ゼスたちだって余裕で撃退できるだろうけどな。
前会ったときよりさらに実力が上がってるっぽいし。
こんな感じでお昼を食べ終わったところで、ゼスたちが配達に出て行く。
「それじゃあ旦那、また今度」
「お元気で!」
「アレスお兄ちゃん、まったね~!」
「おう! それじゃあ頑張ってな!!」
よし、俺もお腹がいっぱいになったところで次に行くか。
そうして、トレルルスの店に挨拶がてらポーションを買いに行ったり、冒険者ギルドの解体仲間や受付嬢のロアンナさんといった面識のある人たちに挨拶をして回った。
ちなみに、このとき冒険者ランクがDランクに上がった、わーい。
Eランクに上がってから4カ月まで多少日数は足りないのだが、ある程度は現場の裁量でオッケーらしい。
とはいえ、今のところ別にそこまで冒険者ランクに拘ってはいないんだけどね。
本格的に冒険者として活動を始めるのは卒業後だろうし。
そんなことを考えつつ、挨拶回りも一段落ついたので学園に戻って夕食をいただく。
そこにロイターとサンズも合流。
「……当然のこととはいえ、ここもめっきり人が少なくなったな」
「そうだな」
「まあ、僕たちも明日の今頃はここにいないわけなんですけどね」
「だなあ」
昨日まで聞こえていた小僧どもの賑やかな声に思いを馳せつつ、のんびりとした時間を過ごした。
そして夕食後は模擬戦である。
もちろん、移動した先の運動場もほとんど人がいない。
それを見ると、もともと広い運動場がより広く感じてしまうね。
「私たち3人だけの模擬戦も久しぶりだな」
「はい、なんとなく懐かしさみたいなものもありますね」
「確かにな……それじゃあ、初心に戻って魔法なしの模擬戦をやるか?」
「ああ、それもいいな!」
「やりましょう!」
こうして1人が審判、魔法なしで1対1の模擬戦を時間いっぱいまでおこなった。
「アレスは本当に……剣術の腕を上げたな」
「最初は僕たちの圧勝だったんですけどね」
「フッ、いつまでも負けてやるわけにはいかんかったからな」
やはりというべきか、全て時間切れによる引き分けだった。
俺がレミリネ流剣術の腕を磨いているあいだに、ロイターたちも剣術の腕を磨いているのだ。
むしろここまで差を埋めることができただけ、自分自身かなりの進歩だと思う。
そうして模擬戦の反省会も終えて、大浴場へ向かう。
そこでも俺たち3人の貸し切り感でいっぱい、なんという贅沢だろう。
「……この風呂もしばらくお預けか」
「お前の実家の風呂だって、なかなかの大きさなんじゃないか?」
「そうでしょうねぇ」
「まあなあ……でもなんか、それじゃないって感じなんだよな……もしかしたらお前らがいないからかもしれんな?」
「……そ、そうか……うむ」
「……アレスさんは言葉のスキンシップも強めですからねぇ」
なんて語り合いながら風呂でゆったりとした時間を満喫した。
そして、ついに明日ソエラルタウト領へ向けて出発か……さて、どうなることやら。
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