第636話 読めても対処できない一撃

 ソイルとシュウが武器選択をしている。

 おそらくソイルは普通……といってはなんだが、一般的なロングソードを選択するだろう。

 そしてシュウはというと……野営研修のとき確か、剣などの手持ち武器を持っていなかった気がするので、おそらくグローブ系の拳に装備するタイプの武器を選択するのではないだろうか。

 そして、この試合でようやくシュウの実力が判明するのではないかと思う。

 というのが、シュウは予選の全てを一撃……それも一瞬で決めていたので、単純に凄く強いということしか分からなかったのだ。

 そのため予選の対戦者たちには、もう少し頑張れといいたい気がしないでもないが……それはともかくとして、ソイルならそんなアッサリやられるなんてことはないハズ!

 それにソイルの阻害魔法は、ファイヤーボールのような体外で現象を起こす魔法だけでなく、身体強化のような体内に作用する魔法にだって影響を及ぼすことができるのだ!

 とはいえ、他者の体内だとやはり影響力は下がってしまうようだが……それでも、それなりに効果は見込めるんだ!

 よって、シュウよ……お前だって、身体能力の向上に少なからず魔法を使っているだろうから、予選のときみたいに一瞬で決めるなんてことはできないだろう!

 ソイルの阻害魔法、その身でじっくり味わうがいい!!

 ……とまあ、ここまでソイルに肩入れした物言いをしてしまったが、シュウにはそれなりに世話にもなっているので、ソイルだけ一方的に応援するわけにもいかないだろう。

 そのため、2人とも実力を出し切った上でいい勝負をしてもらいたいものだ。


『さ~て、係による装備品チェックも終わり、両者とも正式に装備が確定したところで舞台に上がります! そして舞台中央にそろったところで、王女殿下から両者の胸ポケットに最上級ポーションが挿入されます!!』

「今回はっと……シュウの野郎は王女殿下を前にして余裕綽々の表情なのが若干イラつくが……ソイルの野郎は顔を真っ赤にしちゃって、なかなかカワイイもんだな!」

「そうそう! あのソイルの反応こそが正しいんだよ!!」

「王女殿下の取り巻きであるラクルスとマトゥはともかくとして……これまでの連中は、どいつもこいつも淡泊な反応しやがって! なっちゃねぇんだよ、まったく!!」

「よし! この試合、かわいげのあったソイルを応援してやるとすっか!!」

「とはいえ、相手はあのシュウだぞ? 最近イイ感じだとはいえ、ソイルには荷が重いんじゃねぇか?」

「バッカ! だからソイルを応援してやるんじゃねぇか!!」

「ああ、勝てるわけねぇからってことか……いわゆる同情ってヤツね……」

「いやいや、ソイルだって何気に魔力操作狂いに鍛えられてるんだからな! この試合、ひょっとしたらひょっとするかもしんねぇぞ!?」

「ああ、確かにシュウは予選で驚異的な強さを見せていたが……かといって、こういった大会関係の実績は皆無で、本当の強さについては割と不明なところが多いからな、ソイルにだってチャンスはあるだろう」

「まあ、シュウが強いっていうのはウークーレン家なことと、そういってる奴が多いってだけのことだからなぁ……」

「ホントそう! 意外とたいしたことねぇかもしんねぇよな!!」

「ふむ……シュウの実力は、この試合ではっきりするといったところか……」


 ほうほう、学園の生徒たちもこの試合でシュウの実力を見極めようとしているようだ。

 ちなみに、予想どおりソイルは一般的なロングソードを選択し、シュウは5本の指を使うことができるオープンフィンガーグローブを選択したようだ。

 とかなんとか思っているうちに、王女殿下が2人にポーションを挿し終えて舞台を下がった。

 さて、ついに試合開始といったところか……


「……2人とも、準備はよろしいですか?」


 今回、審判をなさることになったお姉さんの問いかけに、2人とも準備完了の返事をする。


「分かりました……それでは、両者構えて!」


 そういって審判のお姉さんが右手を天に掲げ、振り下ろすと同時に……


「始めっ!!」

『審判から1回戦第5試合開始の声が上がり、シュウ・ウークーレン対ソイル・マグナグリンドの試合が始まりましたってところで、早速! シュウ選手の先制攻撃!! ですがソイル選手! それを読んでいたのか、瞬間的にストーンウォールを展開して防御しました!!』

『シュウさんは、予選の全試合で同じことをして……なおかつ、その一撃で全て勝利を決めてきましたからね……ある意味、この一撃は読めて当然だったかもしれません……ただ、読めても対処できないというだけで……』

『読めても対処できない一撃……それを今! ソイル選手は見事対処して見せました!!』

「……フゥ……危なかったです」

「フフッ、対処されてしまいましたか……やりますね」

『貫通したストーンウォールから腕を引き抜きながら、不敵な笑みを浮かべているシュウ選手……そしてなんと、腕を引き抜いた瞬間ストーンウォールが……まるで砂の塊だったのかと思ってしまうほど、粉末状に崩れました……』

『一応、サンドウォールという魔法も存在しますが……ソイルさんが展開したのは、れっきとしたストーンウォール……いえ、並のストーンウォールよりも硬かったのではないかと思います……それを、ああまで粉々にするとは……』


 今のでソイルは、シュウと本格的に勝負をする権利を得たってところだろうかね……

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