第635話 颯爽としたお姿
『これより舞台の整備となりますので、次の試合まで少々お待ちください』
ナウルンから場内アナウンスがあったわけだけど、観客側としては休憩時間になるわけだね。
さて、舞台を整備する皆さんは、どんなふうにして作業をするつもりなのかな?
なんて思っていると……エリナ先生ただ1人が舞台に降り立った。
「……あれ? 前の試合のあとは、もっとゾロゾロ整備の奴が出てきてたよな?」
「ああ、そのはずだが……なんであの姉ちゃん1人だけなんだ?」
「もしかして、1人で作業するつもりじゃねぇだろうな?」
「まっさかぁ! そんなことしてたら、次の試合を始めるまでどんだけかかるってんだよ!?」
「だよなぁ! いったい、なんのつもりだろ……?」
「う~ん? あの人……どっかで見た記憶が……」
そんな一般の観客たちの会話を耳にしつつ、視線はエリナ先生に集中させる。
すると、エリナ先生は手のひらの上に闇属性の魔力を集め、徐々に大きくしていく。
そうして、直径3メートルほどになったあたりで……その闇属性の魔力の塊が、セテルタの残した泥沼を吸い込み始めた。
それはまるで、ブラックホールをイメージさせた。
なんて思っているうちに、ほとんどあっという間に舞台上の泥沼は吸い込まれて消えてしまった。
また、エクスプロージョンによってできたクレーターなどで舞台自体もダメージ過多といった感じだったのだが、それもエリナ先生は地属性の魔法でアッサリと元通りにしてしまった。
そして作業を終えたエリナ先生は、何事もなかったかのようにサッと戻って行ったのだった。
「あのマッドスワンプを一瞬とは……まったく、恐れ入る……」
「さ、さすがエリナ先生……といったところでしょうか……」
「僕がこんな言い方をするのは変かもしれないけど……正直、整備にもっと手間取ることになるかと思ってたんだけどね……そう思うと、ちょっと悔しい気もしてきちゃうかな……」
「ああ、俺も係の人らはどうやって処理するつもりなのかと思ってたぜ……」
「あの様子だと……ちょっとやそっとの魔法ならエリナ先生は、あのダークホールで一瞬で無効化できる……ということになりそうですねぇ……」
「す、凄い……」
「まあ、王国最強といわれているぐらいなのだから、あの程度は簡単にできて当然といったところかしら?」
「それにしたって、驚きだよ……」
ハハッ、エリナ先生なんだからさ! ロイターたちの驚愕も当たり前ってなもんだよ!!
それにしても、やっぱりエリナ先生はステキだなぁ!
あの颯爽としたお姿に、改めて敬愛の念が強くなったって感じだよ!!
たぶんだけど、係の人だけで作業をすると時間がかかり過ぎるから、エリナ先生が代わりにやることになったって感じなんだろうなぁ。
そういえば俺も、初めてマヌケ族と戦ったときは、実際の戦闘よりも後片付けに苦労したんだっけ……
あとはそうだな……ギドと戦ったときなんかは、大量の雪をそのままレジャー施設に再利用したんだった……なんて思い出してみると、ちょっと懐かしい気もしてくるね。
それから、一般の観客たちの反応はといえば……
「今の……見たよな?」
「ああ……なんなんだよ、あの姉ちゃん……凄過ぎだろ……」
「……あっ! 思い出した!!」
「思い出したって……何を?」
「あの人……いや、あの方はエリナ様! エリナ・レントクァイア様だ!!」
「えぇと、エリナ様っていうと……あぁっ! あの、王国最強の魔法士か!!」
「なるほど、道理で……」
「俺、実は名前を聞いたことしかなくてさ……今日初めてその姿を見たってことになるんだな……」
「あぁ……どうせだったら、もっとちゃんと見とくんだったぁ! もったいねぇ!!」
「学園の教師をしてるって話、単なるウワサでしかないと思っていたが……本当だったんだなぁ……」
「しっかし、あんなに別嬪さんで、魔法の腕も超一流となりゃあ……ホント最高だな!」
「うむ、違いない!」
「あんな女性と、ぜひともお近づきになりたいもんだねぇ……」
「ヘッ、お前なんかじゃ無理ってもんよ! 俺みてぇなダンディな男でないとな!!」
「ハァ? お前のどこがダンディなんだよ?」
「あぁっ!?」
エリナ先生に邪な感情を抱く愚か者はどこのどいつだ……?
「……なんだろう、急に冷えてきたような?」
「え? 気のせいだろ?」
「いや、俺もそう思うんだけど……なんでかなぁ?」
とかなんとか思っているうちに、呼び出し係の人が第5試合のため、ソイルとシュウを呼びに来た。
愚か者共よ……命拾いしたな?
「ソイル……しっかりな」
「相手は、あのシュウさんですが……気持ちで負けないように、気合を入れていきましょう!」
「とにかく、全力でぶつかってけ! そうすりゃ、勝てるに違いねぇ!!」
「ソイルの阻害魔法……シュウさんに思い知らせてあげるといいですよぉ!」
「……お前は強い、自信を持って闘って来るといい」
「以前のような弱気にはなっていないようね……結構」
「ソイル君! 頑張ってね!!」
「とりあえず、イマイチな闘いぶりを見せるようだったら、あとでケツを蹴飛ばしてやるから楽しみにしているがいい」
「皆さん、ありがとうございます! そしてアレスさん……それは全然楽しみじゃないです……」
「そうか? なら、ビシッとキメて来るんだな!!」
「はいっ!!」
こうして、俺たちはソイルを試合に送り出すのだった。
そしてシュウはといえば……相変わらずのほほんとした笑顔を浮かべている。
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