第634話 余裕でこなしてたから気付かなかったね……

『ま、まさかの……降参という言葉が、トイ選手の口から飛び出してしまいました……』

『今の今まで、なんとなく失念していましたが……そういえば、トイさんはああいう性格の人でしたね……』

「……トイ・ライクラッツ……本当に、降参でいいのだな?」

「はいッ! だから、この雨を早く止めてぇッ! もう、持たなくなっちゃうゥゥゥゥッ! 痛いのイヤァァァァァァァァッ!!」

「……わ、分かった……勝者! セテルタ・モッツケラス!!」

『今、正式に審判から勝者宣言がなされたことで、セテルタ選手の勝利が確定しました! それに伴い、セテルタ選手はアシッドレインを解除したようです!!』

「ふぅっ……助かったぁ……」

「……君、まだ闘えたんじゃないの?」

「えっ? これ以上闘ったら、絶対にヤバいぐらい痛い思いをさせられてたはずだもん……そんなのイヤだよ……」

「そう……君はそういうタイプなんだね……?」

「うん? よく分かんないけど、とにかく痛いのと疲れるのはイヤだね! そんなわけで今日はもう、だいぶ走ったし! これでじゅうぶんでしょ!!」

「そっかぁ……君も大概、好きに生きてるんだねぇ……」

「えぇっ! こんなにしんどい試合をさせられて、どこが好きに生きてるっていうのぉっ!?」

「しんどいって……まだまだ元気そうでしょ……」

「い~や! もう僕はくったくただよ! それじゃ、僕は控室でひと眠りしてくるねっ!!」

「あっ! いっちゃった……やっぱり、まだまだ元気があるじゃないか……ま、いっか……それじゃあ、僕は席に戻るとしようかな」

『試合内容の割に、少々あっけない終わり方のようにも思いましたが……スタンさんはどう見ましたか?』

『そうですね……私も同感で、あのまま試合が続けばどうなっていたか気になるところではあります……ただ、あっけないとはいえ、あの勝ち方はセテルタさんならではだったという気もします……なぜなら、あの威力のアシッドレインを継続的に使用するとなると、まずもって魔力がかなり必要となりますし、相当な集中力も要求されたでしょうからね……そして、仮にほかの人が同じ方法を考えついたとしても、容易に実行には移せなかったと思います』

『なるほど、セテルタ選手だからこそ、魔法の持久力勝負に持ち込めたというわけですね』


 ふむ……トイ攻略法は、言うは易く行うは難しという部類の方法というわけだね。

 ついでにいうと、フィールドが限定された闘技場だったからできた方法でもあると思う。

 たぶん、フィールドに制限がなければ、トイはどこまでも逃げて行っただろうからね……

 となると、防壁魔法かなんかで囲んで捕まえるところからスタートって感じになるだろうが……う~ん、ひたすら鬼ごっこを続けるハメになりそうだ……

 そう考えると……トイの仲間の3人って、いっつもどうやってトイを捕まえてるんだ?

 実はトイって……嫌々いいながら、あの3人と一緒に訓練するのは嫌じゃなかったりする?

 もしそうなら、これからあの3人には、今回見つかったトイの弱点の克服に手を付けてもらいたいところだ……そうすれば、さらにトイはスゲェ奴に育ちそうだからね!

 まあ、そこんところ、俺がトイに「魔力操作やろうぜ!」っていってもいいんだろうけど……おそらく「めんどくさい」の一言で逃げられるだろうからね……でも、あの3人のいうことなら聞くかもしれないし……

 なんて、考えていたら……


「まさか、トイにあんな弱点があったなんてな……」

「文句いいながら、それでもなんでも余裕でこなしてたから気付かなかったね……」

「まあ、今まで遊んでばっかりで、魔力操作の練習なんかもほとんどやっていなかったみたいだからな……」

「もっといえば、トイがあそこまでできる奴だって、つい最近まで分からなかったもんなぁ……」

「うん、スタミナが凄いことだって前期の試験対策のとき、ようやく気付いたんだもんねぇ?」

「だが、この試合で課題が見つかった……これからは、魔力操作の練習を念入りにやっていくとしようじゃないか!」

「だな! まあ、俺たちもやっといて損はないし!!」

「それにさ、周りのみんなもやり始めてるし、始めるにはちょうどいいんじゃない?」


 ほうほう! あの愉快な4人組……これから、さらに伸びてくれそうな予感がしてくるね!!

 うん! メッチャ楽しみだよ!!

 そんなことを思っているうちに、セテルタが席に戻ってきた。


「いやぁ~もっと鮮やかに勝利を決めたかったんだけどね、思いのほか苦戦させられちゃったよ」

「そういうが、トイは強敵だっただろう」

「ええ、僕たちの誰が勝負をしても、同じように苦戦させられたと思います」

「むしろトイの魔法防御能力に穴があるって、セテルタさんはよく気付いたもんだよ! 俺なら気付かず、ひたすら斬りかかって無駄に消耗してた気がするぜ!!」

「そうですねぇ……そして気付いたとしても、ああして押し切れたかどうか……」

「さすがセテルタさんですね! 僕も見習わなきゃです!!」

「……2回戦が楽しみだ」

「まあ、期待どおりといったところかしら」

「おめでとう、セテルタ君!」

「2年生の席に座っているエトアラ嬢を見てみろ、満面の笑顔を浮かべているぞ! いいトコを見せることができてよかったな、セテルタ!!」

「みんな、ありがとう……そして、あんまりカッコよくはなかったと思うけど、負けて恥ずかしい姿をエト姉に見せずに済んでよかったよ……アハハ」


 カッコいいうんぬんの前に、セテルタの戦闘スタイルってトリッキーというか、まあまあエグい気がするんだけどね……

 そして、試合後の舞台全面に残された泥沼……しかも一歩でも足を踏み入れれば、グズグズに溶かされてしまうであろう強酸性のおまけつき……やっぱりエグい……

 あの舞台を整備する皆さんの苦労が思いやられるね……なんだったら、俺も手伝おうかな?

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