第633話 正直、ガッカリ感は拭い切れないかも……
「あのエクスプロージョン……並の威力じゃないよな?」
「だね……あれだとトイ君も、躱すどうこうの話じゃないと思う」
「しっかしセテルタも、こんなにたくさんの魔法を繰り出してやっとって感じか……」
「俺、セテルタさんがここまで苦戦させられたのって、初めて見た気がするぜ」
「うぅむ……過去に俺が見た武闘大会でも、ロイターに負けこそしたが、もっとバッキバキに攻防を繰り広げた末にって感じで、ここまで攻撃が当たらないってことはなかったからなぁ……」
「でもまあ! あの一発で、そんな苦戦ともオサラバさ!!」
『さぁて……エクスプロージョンによる煙も少しずつ晴れてきたが……』
「はぁ~っ、ビックリした~っ!」
『な、なんとォ! トイ選手、全く! 全くの無傷だァァァァッ!!』
「ウソだろ……」
「あれ、絶対直撃してたよな……?」
「トイを囲んでたマッドドールもまとめて一緒に吹っ飛んでんだから、当たってないわけがないはず……」
ふむ……瞬間的に魔纏を展開してガードしたって感じかな?
『スタンさん……この状況をどう見ますか?』
『そうですね……おそらく、瞬間的に魔力の膜で全身を覆って身を守ったのだと思います……ただ、あの爆発の威力を無傷で耐えきったのは驚きですが……』
『なるほど、魔力の膜ですか……』
おっ! どうやらスタンも俺と同じ意見のようだ。
「なんなんだよ、あのトイって奴……」
「あんなワケ分かんねぇ奴……倒す方法あんのか?」
「このまま、ただ避けるだけで何もせず優勝まで行っちまったら、つまんねぇなぁ……」
「いや、それはそれでスゲェから、ちょっと見てみたい気もするけどな……」
「ていうか、セテルタって奴さ……『多属性の天才』とか解説の奴に持ち上げられてたけど、意外とたいしたことねぇよな?」
「まあ、結局のところ、いろんな属性の魔法をそつなくこなせますよってだけの話だったみたいだからなぁ……あんなふうにキッチリ決め切れないなら、意味ないね」
「う~ん……正直、ガッカリ感は拭い切れないかも……」
観客のみんな、ガッカリするのはまだ早いんじゃないかな?
セテルタの顔をよく見てみるんだ! まだまだ諦めた顔をしてないよ!?
「いやぁ、ここまでやって無傷とはね……お見事って感じかな?」
「えっと……どういたしまして?」
「僕としては、技量によって君から勝利を収めたいなって思ってたんだけど……それはちょっと無理そうだ……」
「ふぅん、そうなんだ?」
「だからね……ここからは、我慢比べといこうじゃないか……」
「我慢比べ? いったい何をするつもり……?」
そうしてセテルタは、おもむろに右手を天にかざし……
『おっとぉ? セテルタ選手の右手から魔力が放出され……その先に暗雲が垂れ込み始めました! 念のためいっておきますが、観客の皆さんはここで雨具の用意は必要ありません。観客席と舞台を隔てるようにしてコモンズ学園長が防壁魔法を施していますので、安心してご観戦いただけます』
まあね、強めの魔法が流れ弾として観客席に飛んで行ったら大惨事になっちゃうもんね……
でも、コモンズ学園長の防壁魔法ならへっちゃら! ……って感じかな。
そして、セテルタの生成した雲から降ってくるのは単なる雨のわけもなく……
『分厚い雲から、ついにポツリポツリと雨が降り始めました……しかしセテルタ選手、この雨はなんの意図を持ったものなのか?』
『あれは……アシッドレイン……それも尋常ではない強さの酸です……』
『なるほど、アシッドレイン! ですが、いくら強い酸だったとしても、先ほどのエクスプロージョンほどの威力はないのでは? しかも、そのエクスプロージョンですらトイ選手にはダメージを負わせられなかったというのに……』
『そうですね……おそらく、威力だけが問題ではないのでしょう……』
『威力だけが問題ではない……といいますと?』
「……こ、これはマズいッ!! どうしよう! どこか、どこか隠れるところはッ!?」
『……おやっ? これまでは慌てたそぶりを見せつつも、どこか余裕も見えていたトイ選手でしたが……ここにきてその余裕が消え失せ、明らかな狼狽を見せています!』
「うん、もしやとは思ったけど……やっぱりだったね?」
「ない! ないッ!! ……なんでッ!? どこにィッ!!」
ふむ……トイにも意外な弱点があったというわけか……
「どうした、トイ!?」
「トイなら、そんな雨ぐらいたいしたことないでしょ!?」
「本気であそこまで取り乱したトイなど、今まで見たことがないぞ……どういうことだ……?」
ほう? 仲間の3人ですら知らなかった弱点なのか……
「どうやら君は、瞬間的な魔法防御力は凄いみたいだけど……それを継続的にってなると無理があるみたいだね?」
「うっ……うぐぅっ……!!」
『アシッドレインの中、ただただ右往左往するだけのトイ選手!』
『トイさんの身を守っている魔力の膜が、とてつもなく強い酸によってどんどん浸食されていっていますね……これはもう、時間の問題でしょう』
「も、もうダメだ……こうなったら……ッ!!」
『おっと、トイ選手! 何やら決心を固めたようだ!!』
『あの状況からだと、玉砕覚悟でセテルタさんに最後の突撃を敢行するぐらいでしょうか……』
「へぇ、最後の突撃か……いいよ! 受けて立とう!!」
「……よし! 降参しますッ!!」
「「「えっ?」」」
そのとき、会場が一体になった。
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