第809話 友情というものの素晴らしさ

 風呂から上がって、今は飲み物をいただきながらリラックスタイム。

 各自お茶とかジュースとか好きな物を飲んでいるところ、俺は最近のお決まりとなっているアイスミルクコーヒーである。

 まあ、この夏休み中にギドが淹れてくれていたやつのほうが美味しいと感じるのは確かだが……かと言って、今飲んでるのがイマイチだと言いたいわけではなく、シッカリと美味しい。

 うぅ~ん、これはたぶん、アレス君の味覚とか嗜好を知り尽くしたギドが、アレス君専用に工夫を凝らして淹れてくれているからこそできる差なのだろう。

 そうした言わばアレス君スペシャルとそれ以外を比べるのは、そもそもが間違いだったって感じだね。


「それにしても……夏休みが終わって、学園に行っていたはずのワイズが突然領地に帰って来たってなったら、ワイズの母ちゃんとかビックリすんじゃねぇか?」

「うん、『何事!?』って思っちゃうだろうね」

「まあ、長期休みでもなければ、普通は帰って来ないものだからなぁ……」

「ほかの後継者候補とか、ワイズを陥れたい奴が『問題を起こして、学園を追い出された!!』って陰で言って回ったりしてな?」


 いやいや、それって原作アレス君がゲームのシナリオで辿るルートでしょ……なんでワイズがその役割を担当しちゃうんだって感じだよ。

 まあ、実際は違うんだから、すぐ誤報だったってなるだろうけどさ。


「確かに……少しでもワイズ君の評判を落とすことができればと考えて、そういう工作をやる可能性もないとは言い切れませんね……」

「ウワサってのは広まりやすいものだし、一定数の人間は誤った情報を信じてしまうものだからなぁ……」

「そんでもって、一回信じちまうと! なかなか間違いを正すのも難しいときたもんだ!!」

「とはいえ、そういう工作をやった奴を上手く辿って首謀者のトコまで行けたら、逆に相手を潰せるんじゃね?」

「う~む、そう簡単に行くかねぇ?」

「さて、どうだろう……とりあえず、そうした工作と捜索合戦からも、どちらが後継者となるにふさわしい能力を持っているかといった判断材料にされるかもしれんな?」

「なるほど……」

「ただ、いずれにせよワイズが平民の縁談をブッ壊しに行くってことは紛れもない事実で、多少のイメージ悪化は避けられないんだから、その辺のところを心配しても無意味な気がしてくるぞ?」

「それもそう……だな」

「改めて、このようなことにアレス殿とケインを巻き込むことになってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいです……」

「ハハッ! なんのなんの! そもそも俺のところは兄上がソエラルタウト家を継いでくれることになっているからな! 俺の貴族としての評判など一切気にする必要はないのだ! よって、くだらんことを気にしなくていい!!」

「俺も、自分の評判を気にして困っている親友を放っておくような男にはなりたくないんでな! それに、これぐらいのことでツァマヌイ家を継ぐことができなくなるんだったら、それは単に俺の能力が不足してたってことだ! あと、アレスさんが言うように自分で家を興したり、騎士団や魔法士団に入ったりっていう人生も悪くないと思うしな!!」

「そうか……ありがとう、2人とも……」


 まったく、ワイズも気にし過ぎなんだよなぁ……そしてまた、目頭を熱くしているみたいだし……


「おいおい、もう風呂から上がっちまったんだぞ?」

「そうだねぇ、感極まっちゃう気持ちも分からなくはないけど……ここじゃあ、流れる涙をごまかせないよ?」

「まっ! なんかあったら、俺らにも相談しろって! できる限り力になるからよ!!」

「ええ、アレスさんふうに言えば、僕らは同志なのですから」

「同志か……へへっ、なんだかカッチョいい響きだな!」

「フッ……今回のことがあって、我らの結束がより強固になったようだ……」

「皆も、本当に……本当に、ありがとう……」

「ほらぁ! また、みんながハートウォーミングなことを言うからさぁ!!」

「ふむ……意外にワイズ氏も涙もろかったってことか……今日まで知らなかったな……」

「まあまあ、たまにはこんな日があってもいいんじゃね?」


 こうして俺たちは再度、友情というものの素晴らしさを味わっていたのだった……


「……あれ? 男子たちったら、どうしちゃったんだろ?」

「なんかぁ……アイツらからネットリした熱気みたいのが漂ってきて、めっちゃキモいんですけどぉ?」

「そうね、男同士で抱き合ったりしちゃってるし……」

「ていうかさ……ワイズ君、泣いてない?」

「え……マジ? イジメとか?」

「う、うぅ~ん……そういう感じではなさそう……」

「どっちかっていうと……嬉し泣き?」

「え、えっと……うん! 見なかったことにして私たちは部屋に戻ろう!!」

「さんせぇ~っ」

「そうね、それがよさそう……」

「まあ、イジメとかじゃないんだったら、そっとしておいて大丈夫そうだね」

「ていうか……あまり長く見ていていい光景じゃなさそう……」

「ふむふむ、ああいうカンジも、意外と……」

「そ、それ以上は駄目よ! 戻って来れなくなるわ!!」

「うん! 部屋に急ごう!!」

「「「部屋に!!」」」

「そう急がず、もうちょっとぐらい見てても……」

「「「いいから!!」」」

「はいはい……」


 女湯から出てきた女子の一団が、こちらを見て慌てて去って行ったようだ……


「あらあら……物の道理というものをまるで理解していない小娘たちもいたものねぇ?」

「ほんにほんに……」

「今はまだ理解できずとも、いずれあの子たちにもその日が来ることを祈っておいてあげるのが、先に目覚めた者の度量というものではなくって?」

「ええ、そしてその日が来たら温かく迎えてあげると致しましょう……」

「ふふっ……あの美しき光景を目にしておきながら、小さな部屋に閉じ籠ったままでいられるはずがないわ……そう、つまりは時間の問題……うふふふふ……」

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