第229話 悩める少年が多いな

「おい、お前らはもう聞いたか? 例のパーティーだけどよ……昨日もまたヤバかったらしいじゃねぇか」

「ああ……というか、実際に見ていた」

「ま、試験も近くなってきたんだし? 見た人も結構いるっしょ」

「やっぱそうかぁ、俺は昨日運動場に行ってなかったからなぁ~」


 先ほど、エリナ先生のスペシャルな授業を終え、今は食堂でお昼を食べているところ。

 そして、比較的近いテーブルにいる小僧どもの会話が聞こえてきている。

 どうやら、昨日の俺たちの模擬戦がメインの話題となっているようだが……


「それにしても、あの5人ってどんな精神構造してるんだろうね? 昨日なんか、ロイターがボコボコにされてて、その光景を見たロイターを慕う令嬢たちがメッチャ憤慨してたしさ」

「そういえばあったな、そんなことも……」


 ふむ、いわれてみれば、運動場に小娘もいたような気がするな。

 とはいえ、模擬戦に集中してたし、小娘どもが何やらゴチャゴチャいってたとしても知らんわな、どうでもいいし。


「憤慨ねぇ……ロイターを慕うとか、そんな無謀なマネはやめときゃいいのにな」

「いやいや、もっと無謀なマネをしてる男どもがいるっしょ? 王女殿下を慕うっていうさ」

「……本気で努力している者もいるのだ、そういってやるな」

「だから、その本気が無謀だって話っしょ」

「でもよ、王女殿下にはまだ、意中の相手がいないって話だろ? なら、多少は可能性があんじゃねぇか? 少なくともファティマしか眼中にないロイターよりはな」

「う~ん……でも、そのファティマちゃんは魔力操作狂いがいいってんだからさ、ロイターがフリーでいる可能性も高いっしょ」

「だが……魔力操作狂いは別名『熟女狂い』ともいわれているしな……彼がファティマ嬢を選ぶかは未知数といわざるを得んだろう」

「あっ! それがあったか……」


 ……せめて「お姉さん狂い」といいなさい。

 いやまぁ、言葉のチョイスはどうでもいいか……特にこの世界だと、お姉さんの見た目に年齢の影響ってほとんどないし。

 それはそれとして、昨日は主人公君が王女殿下への想いに悩んでいたなぁ。

 あと、ロイターガールズのことだけど……ロイターから聞いた話では、箔付けとかワンチャン狙い程度ならしいから、そこまで気にする必要もないんじゃないかなって思うけどね。


「でもさ、なんでそんなにロイターを慕う令嬢のことを気にしてんのさ?」

「……あれは春季交流夜会のときだったか……この者は、ロイターを慕う令嬢に誘いを断られたことがあるのだ……おそらくそのせいだろうな」

「なるほどねぇ~そんなことがあったんだぁ~」

「そ、そんなんじゃねぇって!」

「大丈夫、分かってるよっ」

「そ、そうか、分かってくれたか」

「……その令嬢のことが忘れられないってね!」

「だ、だから違うってんだろ!」

「……本気なら何度でも誘えばいいのだ、そう恥ずかしがることもあるまい」

「だ~か~ら~!!」


 ふむ、「ロイターの追っかけをやめたら、俺に振り向いてくれるかも!?」ってわけか。

 ただ、そう上手くいくもんかね?

 ま、とりあえず君は、その相手に振り向いてもらえるよう頑張りたまえ。

 そんな会話を聞きながら、昼食の時間を過ごしたのだった。


 そして、お昼を食べ終わったあとは、今日も自室にて勉強。

 ま、飽きるまでの時間、集中して取り組むとしよう。

 その後、2時間半ぐらいのところで集中力が切れたので、続きは夜にしようと思う。

 そんなわけで、次は魔法の練習をするため、魔法練習場へ行くことにした。

 いやぁ、昨日は何発か的から外しちゃってさ、完璧に全弾命中とはならなかったからね。

 あのすぐ消える的、あれを攻略せねばって感じ。

 そんなことを思いつつ、移動していたときのこと……かすかに陰気な魔力を感じた。

 う~ん、別に誰かを害そうとか、そういう悪意のようなものは感じられない。

 だが、いくらか気になることも確かなため、その陰気な魔力を発するところへ向かってみることとした。

 そうして陰気な魔力を辿った先……そこには偶然にも、昨日主人公君と幼馴染ヒロインが座っていた庭園のベンチがあった。

 もちろんそのベンチは無人なわけもなく、陰気な魔力を放っている存在がいた。

 そしてその存在とは……この前ヴィーンとやらのパーティーを追放された……確か、ソイルとかいう名前の少年だった。

 なるほどね……信じていた仲間から見捨てられたわけだから、そりゃ落ち込みもするだろう。

 そんな失意のうちに魔力の制御が甘くなり、無意識のうちにネガティブな感情を含んだ陰気な魔力が流れ出てしまっていたってところか。

 ふむ、これで謎は解けたというわけだ。

 ついでにいうと、この少年が原作ゲームに登場したという記憶はない。

 よって、これは原作ゲームのシナリオとは一切関係がないことだろう。

 そして実際のところ、この少年と俺は何も関係がないのだから、無視してしまってもいいのかもしれない。

 だが、なんとなく気にはなってしまうのだ……異世界あるある的に。

 そのため、昨日と同じように隠形の魔法で姿を隠し、しばらく様子を見てみることにした。

 ……なんというかここ最近、悩める少年が多いなって思いながらね。

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