第338話 そんなのは許さんぞ!!

「なるほど、アレス様の様子が今日はどことなくおかしかったのは……このせいだったのですね……?」

「……まあ、そうかもしれないな」

「しかし、どうやって気付かれたのですか?」

「……おしゃべりさんが教えてくれたよ」

「そうですか、どなたかは存じませんが……まったく、余計なことをしてくれたものです」

「……ああ、確かに……まったくだ」

「ですが、こうなってしまったからには仕方ありません……強制的にあなたを連れ去ることとします」

「……俺としては、そこを思い直してくれるとありがたいんだがな」

「それは無理な相談ですね……加えて、あなたもこうなることを見越して街から離れたところに連れてきたのでしょう?」

「……」

「返事をなされないところを見るに、正解のようですね……」

「……やる気になってるみたいだが、俺はそう簡単にやられはしないぞ?」

「はい、それは承知しておりますが……これが私に課せられた使命ですので……」

「そうか……残念だ……」

「ええ、残念です……本当に……」


 こうしてしばらくの問答の末、戦闘開始となってしまった……

 昨日までの気楽な会話が、今はとても懐かしく感じてしまうよ……


「アレス様……もう戦闘は始まっているのですよ? 集中なさいませ」

「……ああ、そうだな」


 戦闘相手であるギドに注意されるとはな……これはいかん。

 そして、集中力を高めながらミキジ君とミキゾウ君のコンビを構える。

 まあ、ミキオ君だと加減が難しいからね……特に今の俺の精神状態なら、簡単に制御をミスりそうだし……

 そんなわけで、ある程度の制御が可能なミキジ君とミキゾウ君の出番というわけだ。


「私が相手では、手加減した武器でじゅうぶんというわけですか……舐められたものですね!」


 そういいながら、ギドが斬りかかってくる。


「いや、一概にそうともいいきれない、この二刀流は防御重視ともいえるものなのだからな!」

「左様で!」


 マヌケ族に対する俺の基本的な見解では、奴らは種族的に優れた魔法の才に胡坐をかき、自己鍛錬に励むこともない……そんな奴らだからこそ、剣術なんかナニソレ? って感じだと思っていた。

 だが、ギドは違うようで……クソマジメに王国式剣術を振るってくる。

 その一太刀、一太刀を丁寧にミキジ君とミキゾウ君で合わせていく。

 これは、兄上から手解きを受けた王国式が、早速役に立ってくれたというわけだな。


「お前の王国式など、兄上に比べればどうということはない!」

「これが私の全力などと思わぬことです!」


 その言葉とともに、ギドの技がキレを増していく。

 だが、俺だってまだまだ全力じゃない。

 それに、一刀流のギドよりも、二刀流の俺のほうが小回りが利くからな、防御はバッチリだ!

 加えて、防御に関しては魔纏もあるのだが……これはギドも使えるみたいなので、その点については条件は同じ。

 とはいえ、俺の魔纏のほうが防御力は高いはずだけどね!!


「私の種族が魔族であることをお忘れなく!」

「おっと!」


 ふいに地面が小さく爆発した。

 魔纏により爆発自体のダメージはないが、衝撃と足下の地面が吹っ飛んだことで若干フラつきそうになった。

 そこを狙いすましたかのように、ギドが鋭い突きを放ってくる。


「……させるか!」


 ギドの突きに対し、つららで応戦。


「お得意のアイスランスですか……ならばこちらはファイヤーランスです」

「今度は魔法の撃ち合いか、望むところだ!」


 次々と射出されていく俺のつららと、ギドのファイヤーランスがぶつかった際に発する蒸気で周囲の湿度が上がったように感じる。


「どうやら本当に、ソレス様のことは気にならなくなったようですね……」

「……なんのことだ?」

「氷系統の魔法など、以前は頑なに使いたがらなかったというのに……」

「ああ、そのことか……親父殿の得意魔法など、俺には関係のないことだからな!」

「フフッ……あなたは本当に変わられた……ならば、あなたの実力を存分に見せてくださいませ! ファイヤーストームです!!」


 俺の周囲を炎の暴風が縦横無尽に荒れ狂う。

 この炎に触れれば、一瞬で蒸発させられてしまうことだろう。


「なかなか凄い炎だが……俺の魔纏は特別製だか……ら……な?」

「フフフ、アレス様はご自分の魔力操作に自信がおありなようですが……私とてそれなりに自信がありますからね」


 俺の魔纏は、ギドの炎によるダメージは防いでくれている……

 だが、ギドの炎は俺の魔纏に侵食し、俺から魔纏の支配権を奪おうとしてくる……

 また、周囲の炎の渦からファイヤーランスが次々に射出されるとともに、ギド本人もタイミングを見計らって斬りかかってくる。

 一応、それらに対応はできているのだが……地味に押されているのも確かだ。


「どうしましたアレス様! あなたの力はこんなものですか? 違うでしょう? もっと、もっともっとあなたの本気を見せてください!!」

「……やれやれ、いいたい放題だな」

「そう思うのなら、口ではなく行動で見せてください! 今のままでは私の炎に侵食されて終わりですよ? あまり私を失望させないでいただきたい!!」

「……そこまでいうのなら、よかろう」


 そしていつもより力のセーブを解き、俺とギドの戦闘領域を魔力で包んで凍らせた。


「……辺り一面が銀世界になった感想はいかがかな? お前が生成した炎も、今では立派な氷のオブジェだ」

「フフッ、フフフフフ……素晴らしいです……が! それで勝った気になるのは早過ぎます! 私の炎はまだ完全に熱を失ったわけではないのですから!!」


 そうして凍らせたはずの炎たちが、再活動しようと必死に氷の中で熱を発していく。


「それに私は、炎系統しか使えないわけではありませんからね!」


 そして目くらましのためか、強い光を放つライトボールが俺の目の前に展開される。

 今日は比較的明るい夜だったが、それでもまあまあの暗さがあり、それに目が慣れていた。

 そのため、このまぶしさに一瞬目が眩む。

 その隙をついて、ギドが突きを放ってくる。


「……クッ!」

「まだまだぁ!」


 時折魔法を混ぜたギドの猛攻。

 そしてギドが新たに展開した炎が、改めて俺の魔纏に侵食を試みてくる。

 徐々に魔力を使い果たしていく中、これがギドに出せる最後の全力なのだと思えば、俺も全力で応えないわけにもいくまい……


「うぉぉぉ! いくぞギドォォォ!!」

「アレス様! 受けて立ちますッ!!」


 ここまできたら、小手先のテクニックは無視で思い切り打ち合うのみ。


「ギドォ! お前との打ち合い、マジで面白れぇぞォ!!」

「それはようございます! アレス様ァ!!」


 そうした打ち合いがしばらく続き……だが永遠に続くわけもなく……ミキジ君の一撃がギドの剣を砕いた。

 そして、ミキゾウ君による追撃を放つ際……


「坊ちゃまに討たれるのなら、本望ですよ……」

「……ッ!!」


 なんで防御態勢を解く!? それに魔纏まで!!

 駄目だ! 止めらんねぇ……当たっちまう!!


『そんなのは許さんぞ!!』


 突然、俺とギドのあいだで爆発が起こり、不意を突かれた格好で両者が爆風によって軽く飛ばされた。

 それと同時に、アレス君の体の主導権が俺から離れ……どうやら原作アレス君に戻ったようだ。


「俺の許しなく、死のうとするなど、ふざけるのも大概にしろッ!!」

「……坊ちゃま?」

「俺のことは『アレス様』と呼べといったはずだッ!!」

「……これは失礼いたしました」


 原作アレス君の一喝によって緊張の糸が切れてしまったのか、両者ともに急速に戦闘モードが解かれていく。

 それに伴って、アレス君の体の主導権が、原作アレス君から俺にまた渡ってきた。

 えぇ……最後まで自分でキメるんじゃないんだ……なんというか、俺以上に自由人だなぁ。

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