第337話 この活動も今日がおそらく最後です
「よっし、防音効果付きの障壁魔法を展開したから、ちょっとぐらいなら派手な魔法を使ってもいいぜ!」
「ふ~ん……でも、アレス様の障壁魔法に比べたらショボいわね」
「あっ、ひっでぇなぁ! アレス様と比べたら誰の障壁魔法だってクソザコになっちまうってぇの!!」
「まあ、最初に『ちょっとぐらい』といえただけの謙虚さがあったのは素直でよかったわね」
「そ、そっかな……?」
「アンタら……イチャつくならどっか別のとこでやって……」
「「イチャついてなんかないッ!!」」
「はいはい……仲がおよろしいことで……」
「そんなことより! そろそろ一発いくよっ!!」
「いよっ! 待ってました、撲殺令嬢ノムル!!」
「も~恥ずかしいから、昔のあだ名で呼ばないでって……ばっ!」
「おぉ~さっすが、撲殺令嬢の一撃っ! アレス様の障壁魔法がちょっとへこんだっ!!」
「えっ! ホント!? ……やったぁ!!」
「よ~し、俺も頑張っちゃうぞぉ!」
「この一発に全力だぁ!」
………………
…………
……
「おかしい……昨日まであんなに堅固だったアレス様の障壁魔法が、今日に限っては柔らかい……」
「いやいや、それだけ俺たちの実力が上がってるってことだろ?」
「……たった1日で、こんなに差が出るわけない」
「ほ~んとっ、サナは理屈っぽい……なぁ!」
「ええ、どちらにせよ障壁魔法を攻略できていないのですから、同じことですわ」
「……これはきっと、不甲斐ない私たちに対する手加減……それはいけない、早く突破しなければ……」
「おぉ……冷静沈着気取りのサナが……いつになく熱くなっているっ!」
………………
…………
……
「……はぁ、この壁……どんだけ厚いんだよ……」
「結局、今日も攻略ならずでしたわね……」
「……でもまぁ、ウチらにしては、なかなかいいセンいってたっしょ!」
「まだまだ……修行あるのみ」
俺が展開していた障壁魔法だが……どうやら俺の精神状態が露骨に出ていたみたいだね……
なんか、自分で思っていたよりギドに対する信頼感があったせいか、地味にショックが大きかったようだ……
そんな気持ちを引きずりながら、光の日が始まる……けど、気分的に全然「光」って感じがしないね。
「……おはよう、今日もみんな頑張ったみたいだな」
「おはようございます、アレス様!」
本日の挑戦者である使用人たちを見渡してみたが、ギドの姿はない。
まあ、ほかの使用人たちに譲っていたのか、いつも朝の挑戦にはいなかったから、これも普通のことなんだけどね……
でも、アイツがマヌケ族と分かった今では、魔族のプライド的に本気で攻略したくなるからあえて参加してなかった……なんて疑念が湧いてくる。
「それじゃあ、今日も朝練に行くか?」
「はい、喜んでお供します!」
そして訓練場に移動し、朝練を開始する。
ただ、走りながら考えるのはギドのことばかり……
お前の笑顔はウソなんかじゃないって、そういってくれよ……
「……ハァ……ハァ……今日は……」
「……ハァ……凄く……ハイ……ペース……」
「……これぐらい……普通……」
「……無理……すんなって……」
「おっと、すまんね」
考え事に夢中になるあまり、ついついペースが上がってしまっていたようだ……これはいかんな。
こうして約1時間の朝練を終え、自室に戻ってシャワーを浴びる。
そのあとは……
「おはようございますアレス様、朝食のお時間です」
「……ああ」
いつもどおりの、なんの変哲もない普段どおりのギドが俺を呼びに来る。
まあ、それも当然か……俺がお前の正体を知ったことを、お前は知らないのだからな……
「あの、アレス様……私の顔に何かついていますか?」
「……お前にとって、一番大切なものはなんだ?」
「おやおや、なかなか急ですね……ですがそれは当然、アレス様のことですよ」
「……そう……か、それは照れるな」
「フフフ、私も気恥ずかしさを乗り越えてお答えしたのですから、アレス様も存分に照れてくださいませ」
「……あの~私たちには聞いてくださらないのですか? ギドばっかりズルいです」
「もちろん、アタイたちだって、アレス様が一番だよ!」
「そうそっ、ウチらもギドなんかに負けてねーし?」
「そうなのです!」
「お、おう、みんなありがとうな」
そういえば、食堂に向かうときはギドだけじゃなく使用人の女子たちも一緒だった……
やべぇ、いろいろ視野が狭くなっているな……
こんなんじゃ駄目だ! もっとクールにいかなければ!!
クール神よ! 我にクールな思考を与えたまえ!!
……フフッ、クールな祈りを捧げたからには、俺はもう大丈夫だ!
ここからはクールにキメるぜ!!
そうして夜までのあいだ、気持ちが揺れそうになるたび、クール神への祈りを捧げることでクールさを取り戻すってことの繰り返しだった。
そして、夜の訓練を終えたところでマヌケ族狩りの時間がやってきた……やってきてしまった……
正直なところ、どうするか迷った。
俺が強い気持ちでいれば、マヌケ族の誘導なんか受けないはずだし……
でも、あのうさんくさい導き手がホラを吹いた可能性もないわけではないし……
だから、確認だけ……そのつもりで……
「アレス様、この活動も今日がおそらく最後です、気合を入れていきましょう」
「……ああ、そうだな」
そんな曖昧な返事をひとつして、移動を始める……街の外へ。
「……アレス様? 屋敷どころか、街の外まで出てどうされたのですか?」
「実はお前にひとつ、聞きたいことがあってな……」
「聞きたいことですか……なんでしょう?」
「……ギド……お前は……魔族なのか?」
「………………嗚呼、気付かれてしまいましたか……」
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