第836話 たとえフリだけでもいいから
「朝があまり強くないんで、今まで特別な理由がない限り早朝練習をほとんどしてこなかったんですけど……昨日今日と、アレスコーチに合わせてやってみたら、朝メシも美味いし、なかなかいい感じっすね!!」
「私も、どちらかというと夜型だったもので……そこでふと思ったのですが、私とケインが意外と気持ちよく起きることができているのは、アレス殿とおこなっていた魔力交流のおかげもあるのでしょうね?」
「うむ、『己の怠惰さに打ち克つことができた!!』という勝利もしくは成功体験を朝一で積んでいくのは実にいい習慣だと思うので、この旅が終わったあとも続けることをオススメする。また、魔力交流……もちろん魔力操作も含めてだが、これらを寝る前におこなうことによって心も体も癒されるのだろうな……それでグッスリ眠ることができて、翌朝の目覚めもスッキリなのであろう」
「まっ! アレスコーチから光属性の魔力を送ってもらってるってのもデカいんじゃないですかね!?」
「ええ、我々がおこなう魔力操作だけでそれだけの効果が出せるかどうか……」
「ああ、光属性による癒し効果もそれなりにあったかもしれないな……そして、魔力操作をおこなえば少なからず効果はあるはずだ……まあ、その際『魔力と友達になる』っていう意識が大事なのではないかと俺は思っているがな」
「魔力と友達ってのはなぁ……やっぱ、その辺はアレスコーチならではって感じがしますねぇ」
「アレス殿がそうおっしゃっているのを聞くまで、自分にはない発想でしたよ……」
「まあ、そこはイメージを豊かにといった感じかな……そして、魔力と言葉によらない語り合いができれば、より一層魔力操作も楽しんでできることだろう」
「う~ん……今の俺じゃあ、アレスコーチの領域に達するのは難しそうですけど……でも、ちょっとずつ……ホントにちょっとずつでも楽しめるようにしていきたいっすね!」
「魔力と言葉によらない語り合い……ええ、私も楽しめるようになりたいものです」
「なれるさ……いや、たとえフリだけでもいいから先に楽しんでしまえば、感情はあとからついてくるかもしれないぞ?」
「フリだけでもですかぁ? それじゃあ、まあ試しに……魔力よ、俺たちは友達だ! 楽しくやってこうぜ!!」
「友達……フッ、フフッ……なんだかよく分かりませんが、なんとなく楽しい気分にはなれそうです……」
「それはよかった! まあ、世の中の風潮として『魔力操作はツマラナイ』なんて言われているが……そんなことはない、こちらが歩み寄りさえすれば、いくらでも魔力は応えてくれる……それが俺からお前たちに伝えることができる魔力操作の一番のコツかもしれんな」
「なるほど! 勉強になりまっす!!」
「楽しむ者に如かず……ということですね」
「まあ、そんなところかな」
そもそも論として、俺は前世で寝食を忘れるほどにゲームのレベル上げを楽しむことができた人間だからね。
そんな俺からしたら、こうやって魔法っていうファンタジーど真ん中の能力のレベル上げを実際にできるってなったら、そりゃあ楽しくて仕方ないってもんだよ!
ただまあ、この世界ではステータスウィンドウが表示されないことに若干の残念さを感じないでもないけどさ……
とはいえ、そこまで求め過ぎるのはぜいたくというものだろう。
だから、そんな気持ちは脇に置いておいて、この世界に送ってくれた転生神のお姉さんに感謝を捧げるのみだ!
それから……前世ではのめり込み過ぎて命を落としたみたいなところがあるからね……この世界での生活を長く続けるためにも、その辺の加減については気を付けておく必要があるだろう。
「ふぅ~っ……腹もじゅうぶん休まったことだし、そろそろ出発ですかね?」
「楽しい語らいだったこともあってか……あっという間に時間が過ぎてしまいます」
「うむ、普段ならもっとのんびりしていてもよかったのであろうが……今回は急ぐ旅だし、特に今日は日が暮れるまでにメイルダント領に入っておきたいしな」
こうして朝食を終えた俺たちは食堂から部屋に戻る。
そして部屋では、平静シリーズから通常の冒険者スタイルに着替える。
まあ、この旅が鍛錬重視であれば、平静シリーズのままで移動を開始してもよかったとは思うけどね。
「よっしゃ! 準備完了だぜ!!」
「私も、いつでも行けます」
「ふむ……2人とも忘れ物などはないか?」
「う~んと……大丈夫っすね!」
「ええ、問題ありません」
そして俺も部屋全体を見渡し……
「よし、それじゃあ清潔や浄化の魔法を部屋にかけるから、見てくれ」
「了解っす!」
「承知しました」
やっぱりさ、「来たときよりも美しく」が基本だろうからね!
そんな気持ちを込めて、魔法を発動させる。
そしてワイズとケインには、いい見本となっていれば嬉しい限りだ。
「ふむ……こんなものかな」
「部屋中ピッカピカ! まさにパーフェクトって感じっすね!!」
「実にお見事……これなら、ゴーストなども侵入できますまい」
ゴーストか……まあ、もともとこの部屋にそういった存在の気配はなかったからねぇ。
その手の現象が起こり得るとしたら、俺の魔法の効果が切れたあとになんらかの問題が発生してからって感じになるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます