第85話 新しい仲間

 今日もエリナ先生の授業は素晴らしかった。

 それと、俺へ向けられる敵意が昨日より一段と力強いものとなっていた。

 この強い感情は果たしてどこまで高まり続けるのだろう……

 いいよ、君がどこまで行けるのか見届けてあげようじゃないか。

 そして昼食を済ませ、なんとなく全体的にソワソワした雰囲気に包まれた学園を背に武器屋へ向かった。


 そんなわけで、武器屋に到着。

 オッサン、相変わらずいかついね!

 なんて思いつつ、昨日描いたスノーボードのイラストを取り出しながらオッサンに話しかける。


「少しいいか?」

「おお、お前さんか……ふむ、トレントの木刀とは上手くやれてるみたいだな」

「ほう、わかるのか?」

「ああ、この商売を続けているうちに、なんとなくわかるようになっていた」

「なるほど、そういうものか」

「それで、今日はどうした? 見たところトレントの木刀に異常はなさそうだが……」

「まずはこれを見てくれ」


 そう言って、イラストを手渡す。


「……空を飛ぶ用のボードか?」

「ッ!! 一目見ただけでわかるのか!?」

「やはりか、数年おきぐらいにお前さんみたいな注文をしてくる奴がいるからな」

「そうだったのか……だが、ボードに乗った奴など見た記憶がないぞ?」

「まぁそうだろうな……あれは結構な魔力を消費するから並の魔法士にはまずもって扱いきれん。使っている奴がいるとしたら、魔力量が豊富か効率よく魔力を扱える練度の高い奴に限られるだろうな。それと、単純に学園都市周辺は交通網が発達しているから無理に使う必要がないことも関係しているな」

「そういうことか、納得した」

「……まぁ、お前さんみたいに常時魔力の膜を展開できるような奴なら、おそらく大丈夫だろうがな」

「それは安心だ。それで、今在庫はあるか?」

「すまんが頻繁に売れるものじゃないからな、受注生産になる」

「いや、そうだろうなとは思っていた……じゃあ、今から注文を頼めるか?」

「もちろん可能だ」


 そうして基本的な形状はイラスト通り、というかこの世界で作られていたのも似たような形状だったようでほぼそのまま。

 足の部分は金具を付ける固定式か魔力による吸着式かを選べたが、どうせボードもまとめて魔纏で覆うつもりなので、魔力による吸着式を選択。

 材質はミスリルみたいな魔法金属でもよかったが、魔鉄にしておいた……その方が出来上がりが早いらしいからね。

 正直なところ、ボードの存在に気付いてから早く乗ってみたくてウズウズしている。

 そんな感じで注文を終え、なんとなく店内の武器を眺めていると、なぜかマラカスが目に入った。


「……これは楽器だと思うんだが、なぜここに?」

「ん? ああそれか、結構昔になるが吟遊詩人の奴に護身用の武器として作ってくれと頼まれたのが始まりでな、それ以来たまに売れるんで少しだけ作っている」

「なるほど……面白いな、俺も1セット買ってみようか」

「そのマラカスに使った素材もトレントだが、比較的若い種でお前さんのトレントの木刀とも喧嘩にならないだろうからいいんじゃないか?」

「おお、それならなおさらいいな! よし、買おう」

「まいどあり」


 こうしてトレントのマラカスを購入し、ボードの方は3日後の闇の日までには出来上がっているそうなので、その日を楽しみに待つことになった。

 最初はボードを買うだけのつもりだったが、トレントのマラカスなんて面白そうなものも発見できたのはよかったね。

 まだまだ時間もあるし、今日は学園都市周辺の森で空中移動の練習もしつつ、トレントのマラカスを試してみようかな。

 そして、森の近くまで来たところでまずは、風属性魔法で空に向かって大きく跳ぶ!

 木の高さを超えたあたりで今度は足場兼発射台の風の塊を蹴って進行方向へ跳ねる!!

 あとは推進力が落ちそうなところで足場兼発射台の風の塊を何度も生成して飛び跳ね続けるだけ。

 ……風の塊を生成するタイミングをミスるのがちょっと怖いけど、普通に歩くより距離を稼げていい感じだ。

 これなら、オークの領域を超えるのも可能かもしれん。

 まぁ、今日はもう昼もだいぶ過ぎているし、トレントのマラカスも試したいのでそこまで行くつもりもないけどね。

 ある程度進んだところで、少し開けた場所を見つけたので着陸することにした。

 さて、ここでトレントのマラカスを振ってみますかね。

 両手に1本ずつマラカスを握り……よく考えたら、これで俺も二刀流ってことかな?

 いいじゃん! カッコいいね!!

 そうして、一振りするたびに「シャッ」と音が鳴るのがなんとも小気味よく、なかなかクセになりそう。

 それと、素材がトレントということで魔力を込めてみたら、やはり魔力の通りがよくて使いやすい。

 また、ミキオ君みたいに魔力を込めただけで蹂躙モードが発動してしまうのかと思ったが、そんなこともなく実に穏やか。

 変化としては、振ったときの音が右手のはより高く、左手のはより低くなった。

 うん、戦闘とはあまり関係ないね。

 それでも、硬度とかは増してるみたいなので、モンスターを思いっきりぶっ叩いても折れたり壊れたりはしなさそうなので、それでヨシ!

 あと、マラカスの先端から魔力の刃を生成してみたら当然のように出来た、これは使える!

 接近戦で打撃武器にしてもいいし、それよりちょっと距離があれば魔剣としても運用が可能だね。

 ただまぁ、基本が楽器なこともあってか、雰囲気的に攻撃的じゃない感じがするから、どっちかというと対人戦とかの手加減がいる相手のときに使おうかな。

 いや、攻撃的じゃないとは言っても、通りかかったオークの頭をこれで叩いてみたら思いっきり陥没してたけどさ。

 でもまぁ、同じことをミキオ君でやったら跡形もなく木端微塵にしちゃうからね……じゅうぶん穏やかって言えるよね。

 そんな感じで、たまに通りかかったオークを叩きのめしつつ、トレントのマラカスの使用感を試して学園に戻った。

 それから、トレントのマラカスにも名前を付けてあげた。

 音の高い方がミキジ、音の低い方がミキゾウ。

 これが俺の新しい仲間さ、みんなよろしくな!!

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