第154話 自由
「それで、結局お前の目的はなんなんだ? まさかこの男の悲しき過去を俺に知らせるために来たってわけじゃないんだろう?」
「もちろんだよ、このおじさんのことはアレス君とおしゃべりをするための単なるネタの一つで、今回はたまたまちょうどよかったってだけさ」
「……面白い話ではなかったがな」
「お気に召さなかったかい? う~ん、残念。ああ、それでね、本題はこっからなんだ」
「俺としては最初から本題にして欲しかったぐらいだ」
「つれないなぁ。ま、クールぶったアレス君もなかなかステキだからいいんだけどね」
「そうか……お前のミステリアス気取りもずいぶんだと思うがな」
「ふふふ、いいねぇ、アレス君はそうでなくっちゃ」
「……余計なコメントを加えた俺も悪いが、そろそろ本題に入れ」
「ふふっ、焦らし過ぎもよくないもんね……まぁ、端的に言うと、『もっと自由に生きてよ』ってことさ」
「は? 何を言っている、俺はじゅうぶん自由に生きている」
「……そういうふうに見える時期もあったけど、今は全然だよね? 言っただろう? 僕は君のことをよく知っているってさ……そうだなぁ、学園に入学する前までの君は、正直どこにでもいるような魔法の才能に浮かれたお坊ちゃんでしかなかった。だけど入学後の君は、何かに目覚めたのか、面白い動きをし始めた。特に将来この王国の権力構造をひっくり返すことになるかもしれない、下位貴族の少年たちの心に火を付けたあの大演説! あの演説を聞いて僕は、感動に打ち震えたものさ。しかも、本来なら何者にもなれずに朽ち果てていくしかなかっただろう平民なんかも、君のおかげで次々に才能を開花させていっている、これも実にお見事! そんな君の影響力に同じ導き手として嫉妬どころか尊敬の念さえ抱くほどさ!!」
なんというか、褒めてくれるのは正直、悪い気はしないのだが……
なんか、ちょっと重たいんだよなぁ。
しかも、いつの間にか俺も導き手とやらにされてしまっているし……
「しかし! 悲しいかな、君は貴族の論理に屈しようとしている!! 自重だなんてつまらない言葉で君は押さえつけられようとし! さらに昨日は殺気を込めた威圧で『潰す』とまで脅された!!」
「いや、ミオンさんはそういうつもりだったわけではないと思」
「騙されるな! 直後の色仕掛け! あれが何よりの証拠だ!! 彼女はアメとムチを巧妙に使い分け、君を物分かりのいい、王国にとって都合のいい魔法士に仕立て上げようとしていたんだ!!」
「そんなわけ……」
「そんなわけないとなぜ言える? 昨日会ったばかりの彼女をなぜ信用できる!? 美しい容姿を持つ大人の女性に抱きしめられ、豊満な胸の感触に君の判断力はメチャクチャにされたんじゃないのか!?」
「なっ!? ば、ばかなことを言うな」
「いいや、ばかなことじゃない、現に君は既に彼女のことを自分のためを思ってくれる素晴らしい女性だと思ってしまっているだろう? そういうことだ」
「……そんな」
「ちょっとぉ~アレス君に変なこと吹き込むのやめてくんな~い?」
「アレス君、ミオンにそんなつもりはないわ」
「ミオンさんに……エリナ先生も」
「これが答えだよアレス君、彼女たちは今まで君を監視していたんだ、君が将来王国にとっての不穏分子になることを危惧してね」
「ぶっぶ~違いますぅ~トガッちゃんが魔族に思考誘導されてるかもってエリナセンパイが言うから、泳がせてただけでぇ~す。そしたらアンタみたいなクソガキが釣れたってだけのことですから~」
「何も言わずにごめんなさい、アレス君」
「いえいえ、もしそのことを知っていたら、私の行動はもっとぎこちないものになっていたと思いますし」
「ありがとう、アレス君」
「それに何より、私はエリナ先生のことを信じていますから」
「え~アタシのことは~? エリナセンパイだけっていうのはひどくな~い?」
「も、もちろんミオンさんのことも信じます!」
「ありがと~お礼にまたハグしたげよっか?」
「あ、いや、それは、大丈夫です」
「え~大丈夫って、どう大丈夫なの~?」
「ミオン……あまり冗談が過ぎると、本当にアレス君の信用を失うわよ」
「は~い」
ま、まぁ、ミオンさんはちょっと軽い感じもあるけど、悪い人じゃないと思うし。
そして、当然のことながら俺にエリナ先生のことを疑う余地などありはしない。
フッ、ゼンのアホめ、攻め方を間違えたな!
「……アレス君、僕も今すぐ君に分かってもらおうだなんて思っていないさ……でもいずれ僕の言っていることが分かる日が必ず来る」
「それはどうかな?」
「……この王国の、先祖が優れていただけの地位しか誇れる物がない貴族にとって、君は安穏とした生活を脅かす敵だ。それは彼らにとって魔族やモンスターなんかよりも明確なものだ。それに、君が信じると言ったエリナ先生だけどね……その人も有象無象に一度潰されているんだ。それで宮廷魔法士をやめて学園の教師をしているのさ。そうやって目立つ存在は狙われる。だから、だからこそ君にはそんな彼らに屈せず、自由に生きてもらいたい、自由に生きてこの王国を……世界を変えて欲しい、僕と同じ導き手として」
「アンタのつまんない話はあとで取調室でゆっくり聞いてあげっから、今は大人しく捕まりな!」
そうしてミオンさんが行動を開始するが、ゼンは蜃気楼のように消えて捕まることはなかった……
「君は自由だ……期待しているよ……僕のアレス」
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