第153話 誘導
「意外に思うかもしれないけど、彼ってもともとは人魔融和派なのはもちろんとして、モンスターなんかも含めた他種族に対して寛容な人だったんだよね」
「……確かに、それは意外だな」
「でしょう? しかも彼、『無暗な殺生は好まない』とか言っててさ、同僚からも『慈悲深い騎士』なんて言われちゃったりもしてたのさ」
「……そうなのかもしれないが、俺としては正直、あの男のもともとの性格など、どうでもいいんだがな」
「ふふふ、せっかちさんだなぁ。せっかくの機会なんだし、もっと会話を楽しもうじゃないか」
「……なら、そのもったいぶったしゃべり方をどうにかしろ」
「これが僕のスタイルだというのに、厳しいなぁ。まぁいいや、それでね、彼に感化されて人魔融和派に傾く騎士も結構いてさ……そうなると、人間族を滅ぼすことに熱心な魔族さんたちとしては面白くないわけ。だって、人間族側にもバッチバチの敵対心を持ってくれる人がいないと、ほかの魔族の態度が軟化してきちゃうからね。まぁ、人間族がのほほんとしているところを狙うのもアリって考えている魔族さんもいないわけじゃないけどさ」
「ちょっと待て、その言い方からして、お前は魔族ではないのか?」
「違うよ、僕は正真正銘の人間族さ。そこは勘違いしないでくれたまえよ? ま、それはともかくとして、そんな魔族さんたちにね、一言助言してあげたんだ、『彼の息子を狙ってみたら?』ってね」
「おいおい……人間族が大っ嫌いな魔族が、人間族であるお前の言うことなど聞くわけないだろ」
「ふっふっふっ、アレス君もまだまだだなぁ。魔族が人間族に擬態できることは知っているだろう? その逆がなぜできないと思うんだい?」
「は? ということはお前、魔族に擬態できるのか?」
「できるよ? ほら」
そう言って、一瞬で肌が青白くなるゼン。
加えて魔力探知で探ってみた感じ、今まで出会ってきたマヌケ族と遜色ない魔力の感じ。
マヌケ族がどの程度擬態を見破る能力を持っているのかは知らんが、とりあえず俺レベルでは見分けがつかない。
そうしてゼンはまた、もとの人間族の姿に戻った。
「どうだい、なかなかのものだろう?」
「……まぁ、そうだな」
「さて、彼の話の続きに戻るとね、僕の助言を受けた魔族さんたちは早速とばかりに、彼の息子さんを罠にはめて殺しちゃったんだ。やり方としては、お父さんのような立派な騎士に憧れる少年に近づいて森に入るよう唆す、あとはそこにオーガを誘導するだけ、実にシンプルだね。そんなわけで、哀れ少年はオーガに食い殺されましたとさ」
「……オーガに」
「そう、オーガに。それで息子をオーガに食い殺された彼の奥さんは精神を病み、息子の後を追う……まぁ、なかなか子供の生まれなかった夫婦にとってやっとできた一人息子だったからね……その後の彼がどうなったのかは……言わなくてもわかるよね?」
「ああ、モンスターを……とりわけオーガに対する激しい憎しみを持つに至ったってところか」
「そうだね、そうしてモンスターを筆頭に他種族に排他的な人間族至上主義の騎士が誕生し、魔族さんたちもニッコリって感じかな。ま、こんな前提があった上で昨日の出来事につながったわけさ」
「なるほどな……それで息子を殺し妻を失うきっかけとなったオーガという種族を見逃すなど許せなかったと……」
「そのとおり。ついでに言うと、彼は君に期待していたんだ、自分の息子とそう年の変わらない子供がオーガを始末することをね……そうすればきっと彼も幾分かは溜飲を下げられたのだろうに……まぁ、君にとってそれは無理な話だろうけどさ」
「当然だ。それにしても結局……全てお前の誘導のせいじゃないか。なにが『それは違うよ』だ、どこも違わないだろうが」
「え~魔法の力で強制するのと、ただそういう道を示すだけ、全然違うじゃないか、そこは一緒にして欲しくないなぁ」
「くだらん」
「……貴様、貴様だったのか……貴様のせいでナッグが……」
ここで話題の中心である騎士の男が登場。
このうさんくさい導き手のせいで、だいぶ視野も狭まってそうだし、俺が独りになってチャンスとでも考えたのだろう。
そうして俺にプライドを傷つけられた仕返しの機会を狙っていたところに、息子の死の真相を知ってしまったってところかな?
「ちなみに、彼が言っているナッグというのは、彼の息子さんの名前だよ」
「……そんなことわざわざ言われなくても、話の流れで分かる」
「そっかぁ、てへっ」
「貴様ぁ!!」
そうして、騎士の男が姿を隠し……
「ゴハッ!」
「あ~あ、おじさんもワンパターンなんだよねぇ」
ゼンが何もない空間を殴りつけたと思ったら、そこに騎士の男がいたようで……隠形が解け、苦悶の表情を浮かべながら崩れ落ちていく。
「ああそうそう、アレス君って貴族の世界で評判が悪いでしょ? そんなアレス君にあれだけの魔法の才能があって、なんで自分の息子にはそんな力が与えられなかったんだ……そして、君たちパーティーを指して、こんな餓鬼どもがのうのうと生きていて、なんで自分の息子が命を落とさねばならなかったんだってあのとき思ったみたいだよ、ね、おじさん?」
「う、うぅ、ナッグ……」
完全に気持ちが折れてしまったのか、騎士の男はもう、すすり泣くことしかできなくなっていた……
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